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光翼のリベンジャー  作者: 蒼鳥
第一章
28/32

第二十五話

 形状はどうやら先ほどの狼のようなやつと同じで、黒い霧を纏っている。

「そのタイプのコアの位置は首の下あたりです」

オペレーターの言われたとおりに見ると、確かにコアらしきものがあった。

「了解。それじゃ香奈は後ろから援護を。凛華は銃でやつを牽制してくれ」

「その間にあんたがあいつを仕留めるの?」

「まぁできればな」

 今さら何を? と凛華を見ると少し顔をそっぽ向けて、

「ふぅん……こういうときだけはかっこいいんだから」

「ん? なんだって?」

「な、なんでもないわよっ! とにかく危なくなったら退きなさいよね。これ命令っ!」

「? おう」

 少し気にはなるが……どうやらそれを問い詰める暇はないらしい。

「たぁっ」

 後ろから香奈の威勢のいい声とともに炎を纏った矢が敵に向かって飛んでいく。

 それを敵は横に跳んで交わし、纏っていた炎による追撃にも冷静に対処する。

 その動作に微塵も隙がない。

「おいおい、傷有りと無しじゃここまで違うのかよ……」

 その速さは先ほどまで戦っていた芋虫など比ではない。

 じわりじわりと自分の中に恐怖が広がってくるのがわかる。

正直倒せる自信はない。

 そしてどうやらそれは他の二人も同じらしい。顔つきに余裕が全くない。

「こんのっ! 何であたらないのよ!」

 すばやく動き回る敵は速度を上げながら凛華に突進する。

 凛華もなんとか銃で応戦しようとするが、焦っているのか一発も当たらない。

「きゃあ!?」

「凛華!」

「だ、大丈夫……」

 左に飛び退いてなんとか避けた凛華に駆け寄ると、言葉とは裏腹に左足首を手で押さえていた。

「おい、もしかしてお前……」

「た、ただ捻っただけよ。それよりもくるわよ!」

 凛華の指示のとおり、振り向きざまに刀を振るう。と、ちょうど突っ込んできた敵の体と衝突した形になった。

 間一髪、敵の牙は目前で止まり頬が切れ、血が顔を伝うだけで済む。

「ぐっ!」

 その事実に恐怖を覚えつつ刀を下にずらし足を切断しようとするが……思ったよりも敵の力が強く、逆に押し返される。

「くそっ!」

「日向さん!」

 俺が攻撃を防ぎきれなくなり、止めを刺そうと敵が飛び上がったところを香奈の炎が襲う。

「わ、悪い。助かった」

 避けきれず炎に包まれ、奇怪な悲鳴を上げているアグレッシンから一旦距離をとる。

 思った以上に敵がすばやく、全くこちらのペースにもっていけない。

(いっそこうなったら一気にコアを破壊しにいくか?)

 成功する確率は低いが一番手っ取り早くすむ方法。

 ならば炎で動きを封じられた今がチャンスだ。

「よし、凛華。二人で一気に接近してコアを破壊するぞ!」

「わ、わかったわ!」

 凛華は一瞬何かに我慢するような顔をした後すぐに敵に向かって走り出す。

 俺も刀を片手に敵との距離を縮める。

 敵も俺たちの接近に気づいたが、炎をせいで動きがかなり鈍い。

「はぁっ!」

 敵がふらついた隙に凛華の双短剣がのど下めがけて突き刺される。

 ガキィと金属がぶつかり合うような音がし、コアにヒビが入る。

「やった……」

「おい、凛華気を抜くな!」

 アグレッシンは完全にコアを破壊しないと死なない。

 ほっとした凛華の顔に次の瞬間敵の前足の鋭利な爪先が襲い掛かる。

「嘘ッ!?」

 爪が顔に触れる寸前で凛華はなんとか後ろに飛び退く。

「おおぉぉ!」

 そして凛華が飛び退くのと同時に俺は刀をコアに突き刺す。

 数秒後、ガラスが割れたような音とともにコアは砕け散った。

「日向さん大丈夫ですか!?」

 アグレッシンを包んでいた炎が消え、香奈が心配そうに近寄ってくる。

 恐らく香奈のところからだとアグレッシンの攻撃が俺に当たりそうに見えたのだろう。

「俺は大丈夫だ……それよりも凛華が」

「凛華さ……ッ!」

 俺の姿にひとまず安心した香奈は凛華のほうに目を向けたとたん言葉を失った。

 なぜなら凛華の左足首からじわりと血が流れているからだ。

「凛華さん大丈夫ですか!」

「え、えぇ。まぁね」

 我に返った香奈を安心させようと凛華は無理やり笑みを作る。

「凛華、お前さっき捻ったてのは……」

「そっちはホントよ」

 ばつの悪そうにする俺に凛華は「だけど」と話を続ける。

「さっき後ろに避けようとしたときに左足だけ反応が遅れて……」

「まさか直撃したのか?」

「いいえ、かすっただけよ」

 そういって凛華は「ほら」と押さえている手をどけ傷口を見せてくる。

 しかし手をどけた瞬間凛華の表情は引きつり、呼応するように傷口から血が流れる。

「お、おいっ! 全然大丈夫じゃねえじゃねえか!!」

「う、うるさいわね……これぐらい大丈夫よ」

 そういって立ち上がろうとするが、すぐにふらつき香奈に支えられる。

「凛華さんこれ以上は無理ですよ」

「そうだ、香奈の言うとおりだぞ」

「うっ……で、でもまだやれるもん!」

 お前は意地を張る子供か。

 いまだに闘志だけはあるらしい凛華に俺はため息をつく。

「はぁ……頼むから医療科のやつがくるまで大人しくしといてくれ。じゃなきゃ俺が戦えないだろ」

「……それってどういう意味よ?」

 俺の最後の言葉に凛華が首をかしげる。

 ……できれば言いたくないんだが。

「だから……お前がそんな状態のままだと気になって戦闘に集中できないっての!」

「きっ、気になるって……」

 半ばやけくそ気味に言った俺の言葉に凛華はびっくりしたような顔をする。

 気づけば香奈も驚いたようにこちらを見ていた。

 あかん、超恥ずかしい。

 やっぱりいくら言い聞かせるためといえど、普段言わないことは言うべきじゃないな。

「とにかくだ! 今オペレーターに医療科のやつ呼んでもらうから大人しくしていろ」

「わ、わかったわよ……日向がそんなに心配してくれてるんなら……」

 早く医療科を呼ばないと。

 幸いにも今は周りに敵がいないので(恐らくあの二人が殲滅したのだろう)オペレーターとの会話はスムーズにいった。

「よし、三分後くらい到着するらしい。それまでは大人しくしてろよ」

「ん……」

 いきなり大人しくなった凛華を横目に俺は一息つく。

 しかしここからが問題だった。凛華が戦えなくなった今このあたりは俺と香奈しかいない。

 たった二人きりで残り十分弱を乗り越えられるのだろうか……。

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