第二十三話
三体目となるアグレッシンを倒してから数分がたった。
その間に四体目がくることもなく、特にすることもない俺たちは通信機を共通チャンネルにして前線の情報などに耳を傾けていた。
しばらくそうしていると、戦闘音などの間に少し雑音が入っているのに気づく。
(なんだ……?)
その音を聞き取ろうと通信機の音量を上げると、どうやらそれは通信科のなにかに驚きの声を上げているらしい。
「ま、まさか……」だとか「そんなっ」などといった言葉が聞き取れる。
「ねえ日向、なにかあったのかしら」
同じくこの異変に気づいたらしい凛華が不安そうにしている。
少し後ろにいる香奈もどこか落ち着かない様子でこちらをみている。
「俺に言われても……ねぇ……」
そんなこと分からない。
そう言おうとしたそのとき、
「全戦闘員に告ぐ。聞こえるか?」
突如通信機越しに狼火の声がした。
その声は心なしかどこか焦っているようで、そのことにまず驚きを感じる。
「待機している迎撃科は全員今すぐブレイカーを起動して戦場に出ろ!」
「なっ……」
いきなりの指示に俺は思わず声をあげる。
待機している迎撃科といえばまだブレイカーにすら慣れていない一年がいるのだ。
なにを考えているんだ狼火は。
頭に浮かんできた至極当然の疑問はしかし次の言葉によって吹き飛ばされる。
「アグレッシンと思われる新たな生命体群を確認! こちらに向かってきています」
「さらに敵だと!?」
今の敵の数は死んだのも合わせればおよそ五百体。
今までの迎撃戦の中では確かに少ない数ではあるが戦いの最中に第二波がくるなんて聞いたこともないぞ。
それに今の敵数でも手一杯な状態なのに……後数百体でもきたら一匹か二匹ほど取り逃がすやつがでてしまうかもしれない――。
だがしかし、次に聞こえた悲鳴のようなオペレーターの報告に俺たちは今までの戦闘はまだ余興だったことを思い知らされる。
「敵数捕捉しました! その数――――お、およそ千二百!!」
「千ッ……!?」
そして報告と同時に前線のほうからこちらに向かって侵攻してくる、空を覆いつくすかのようなアグレッシンの大群が視えた。
――――そして地獄が始まる。