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光翼のリベンジャー  作者: 蒼鳥
第一章
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第二十二話

「一体、そちらに向かってきます」

「了解」

 通信機から聞こえるオペレーターの声が、前線が仕留めきれなかったアグレッシンがこちらにくることを知らせる。

 次々と目標の敵の情報を伝えてくる声に集中すると、どうやらそいつはコアを守る役目をもつ外殻がほぼ破壊されており、恐らく後一撃加えれば倒せるほどだそうだ。

 前衛の先輩達もそのことは承知で後は後衛の俺たちに任せ、次の敵に向かったのだろう。

「目標接近、距離残り500」

 その知らせとほぼ同時に、敵を肉眼でどうにか視認できるようになる。

「っげ、また気持ち悪いわね」

「そうですね……せめて芋虫のような見た目は勘弁してほしいです」

 だいぶ場の雰囲気に慣れたのか、凛華と香奈の本音が通信機越しに聞こえる。

ちなみに前衛の戦闘は後衛と違って凄まじく、その音は近くで話す俺たちの会話すら直接は聞き取れなくなるほどだ。

「まぁでもそのとおりだよな」

 今こちらに向かってきているやつを含め、迎撃戦が開始されてから十分間で三体が最終防衛ラインである俺らAチームのところまで、今のようなコアを剥き出しにした状態で来た。

 すぐ横に転がっている死骸――コアを破壊され原型を留めていない二体はどちらも芋虫のような形態、通称芋虫型と呼ばれるアグレッシンだった。

 そして今こちらに向かってきているやつもまた芋虫型だ。

「残り100。迎撃体制に入ってください」

「了解。……ったく、前線の通信を聞く限り、もっと違う形態のやつもいるらしいが……どうしてこう、芋虫ばっかりくるんだよ」

 オペレーターの指示通りブレイカーを、アグレッシンの体液で少々汚れた白銀の刀を構える。

「そんなに余裕があるの?」

「っは、冗談を」

 同じく両短銃を構えた凛華の言葉に苦笑を零す。

 そもそも俺たちが相手しているのは外殻をほとんど壊され、体力も削られたやつらだ。

 言うなれば弱点を剥き出しの、さらに動きが鈍くただの死に損ないにとどめを刺しているだけなのだ。

 もっとも、アグレッシンたちが姿を現したとき正直俺たちも傷一つついてない敵を何十匹も相手にすることになるのかと思っていた。

 いや、もしかしたら本当にそうなっていたかもしれない。

 戦闘が始まったときはまだ前衛の三、四年ですらパニックが収まっていなかったのだ。

 そんな混乱が収まらないままに戦闘が始まり、当然の如くアグレッシンに押されはじめた前線が後退を始めたそのときだった。

さすがにここから最前線まではかなりの距離があるのでぼんやりとしか見えなかったが、二人の上級生徒が戦況をひっくり返した。

 片方の一人がワイヤーのような細い武器を操り、今まさに進行しようとしていたアグレッシンたちを上空のやつも含めてその場に拘束した。

 なんとその数およそ百体。

 これだけでも信じがたいことだが、さらにその隙にもう片方が近接系の武器で手当たり次第に外殻ごとコアを破壊するという驚異的な実力でアグレッシンを圧倒。

 そうして何百といた敵戦力は一気に減少。こちらの士気も高まり混乱もどこへやら、普段の連携を生かした戦法がことごとく決まっていった。

 狙撃隊も攻撃しにくい上空の敵を的確に打ち落とし、形成は逆転した。

「今こうして俺らが余裕こいていられるのも全ては先輩方のおかげだってことだ」

「そうですね。じゃなきゃ今頃ここは見るに耐えない地獄になっていたでしょうね」

 香奈がかみ締めるようにゆっくりと喋る。

「まっ、そういうことだ」

「ちょっと、ぐだぐだ喋ってる暇はもうないわよ」

「んなことはわかってる」

 目前にまで迫った敵を見据えながら互いに目を合わせる。

「さっきと同じように香奈はバックアップを」

「はい!」

「凛華も」

「言われなくてもっ!」

「目標交戦距離に入ります。迎撃してください」

「了解!」

 オペレーターの指示と同時に俺と凛華は走り出す。

 それに気づいたらしい敵も芋虫のような顔から顎を引き裂くように、ずらりと牙が並んだ口を開く。

 そこから超音波のような吠え声をあげ、六mはあるだろう縦長な、まるで芋虫をそのままでかくしたような巨体を蛇のように引きづってこちらに突進してくる。

「これでもくらいなさい!」

 その突進を冷静に左右に避け、凛華が敵に向かって銃声をけたたましく鳴らす。

 そしてその銃弾は的確にアグレッシンの複眼に命中。

「たあぁぁ!」

 アグレッシンが痛みにひるんだ隙に凛華は即座にブレイカーを双短剣に変更。そのまま双方とも複眼の一つに突き刺す。

 さらなる追撃に悲鳴を上げるアグレッシンの複眼に刺さった双短剣は凛華の意思により両短銃に変化。

 結果、両短銃の銃口は双短剣の影響で複眼にがっちり突き刺さっている。

「この距離なら!」

 銃口がしっかりと刺さっていることを確認した凛華はなんの躊躇もなくトリガーを引きまくる。

 そして実質本当の零距離からの両短銃による乱射は確実に敵にダメージを負わせる。

「凛華下がれっ!」

 その激痛に怒り狂ったアグレッシンが奇怪な吠え声をあげながら近くにいる凛華を攻撃しようと暴れまわる。

「日向、あとは任せたわよ!」

「おう! 香奈!」

 そのアグレッシンの猛攻を華麗に交わしながら後退していく凛華を確認し、香奈に指示をだす。

「わかりました!」

 聞くが早いか香奈は炎を纏った矢を俺に向けて放つ。

 いまだに凛華を追うアグレッシンに向かって走る俺にその矢が当たろうとしたその瞬間、香奈の意思により炎は矢を燃やしつくし俺の刀へと矛先を向ける。

 しかしその炎が刀を包んでも刀が燃やされることはない。

 逆に刀は炎を纏ったことで威力が格段に上がる。

 これは香奈が超能力者とわかったときから考えていたことで、つい先日できるようになった新たな連携技だ。

 敵の攻撃は短剣で防ぎ、その隙に銃に変えて近距離射撃を当てるという見事なほどにブレイカーの特性を使いこなしていた凛華も、こちらが準備ができたことに気づき旋回するようにしてアグレッシンを誘導する。

 距離はすぐに縮まり、俺と凛華が互いに横切る。

「締めはよろしくね」

 凛華の声を背に刀の柄を強く握り締め、体制を低く前傾にして突進してくるアグレッシンに突っ込むように走る。

 狙うは頭の頂上、人間で言えば脳にあたる部分。

 口、複眼の上で剥き出しにされて赤く光っている六角形の物体――コア!

「はあぁぁ!」

 狙いを澄まし、跳躍で一気に距離を詰める。

 しかしそれでも動じることなく、逆に跳ね返すとでも言わんばかりの巨体は宙に浮いている俺の体に向かって体当たりを仕掛けてくる。

「これで……」

 しかし俺はそれを空中で刀を振るった遠心力でドリルのように体を捻り回避。

 回転をした俺の体が一回転をし終えるとそこはちょうどアグレッシンの頭の真上。

 コアに止めを刺す絶好のチャンス。

 これを逃がすはずがない。

 まだ残っている回転の余力を使いながら刀を後ろに引き――刹那、捻れた体を戻す反動で刀を思いっきりアグレッシンに向けて振るう。

「どうだあぁ!」

 直後刀とコアがぶつかり合い、悲鳴のような音が鳴り響き火花が散る。

 しかし炎を纏った刀の火力は伊達ではなく、徐々にコアに亀裂が走る。

「おおおぉぉ!」

 最後の力を振り絞った瞬間、ガラスが弾けるような音とともにコアが破壊され、俺はそのままアグレッシンを頭から、魚を解体するように綺麗に切り裂いた。

 倒した、という手ごたえはアグレッシンの奇妙な吠え声で間違いではないことを主張する。

「よし」

「やった!」

 自然とハイタッチをする俺と凛華に香奈もホッとした顔を向けている。

 どうやら同じ形状の敵は攻撃方法も似ているらしく、三度目ということもあり、だいぶスムーズに倒すことができた。

「だいぶ余裕そうね」

 乱れた髪を直す凛華は、ブレイカーを基礎状態に戻しながら一応コアが破壊されていることを確認しに行く。

「まぁな。最初よりかはだいぶ連携も上手くいくようになったしな」

 凛華に見習うように俺もブレイカーを基礎状態に戻し、ついていく。

 ちなみに刀に纏っていた炎は敵を切り裂き終わった後に役目を終えるように消えていった。

「この調子なら私達でも前線にいけるんじゃない?」

「前線とか、そんなの洒落になんねえよ」

 ふと見ると凛華が本気とも思えなくもない笑みをしていたので、ほっぺをつまんでいじくる。

「むうぅ~、そんなことわかってるもんっ」

 凛華はぶつぶつ文句を言いながらも、なぜか俺にほっぺをいじくられるのを嫌がったりはしない。

(けどまぁ、ホント。前線みたいに延々と戦闘が続く場所なんか行きたくもないな)

 そして案外凛華のほっぺは柔らかくて気持ちよく、止めてとも言わないのでありがたく俺は右手でその柔らかさを堪能していた。

 そもそも一年である俺たちがアグレッシンを倒せているのも前述したとおり前線の、特に例の二人による活躍のおかげなのだ。

 それを証明するかのように通信機を共通チャンネルにすれば前線たちの凄まじい戦闘音と叫び声が聞こえる。

 オペレーターの声を察するに、恐らく傷一つついてないアグレッシンたちを何体も、場合によっては同時に相手にしなければならない。

 そんな状況下に置かれれば、システムがないと弱った敵を倒すのに精一杯な俺じゃ嫌でもバーサーカーシステムを使わざる終えないだろう。

 だからこそ今回の配置は一番いい所だと言える。

「作戦予定時間は残り三十分……この調子で行けば大丈夫そうだな」

「そうね」

「そうですが……こんなに上手くいっていてよろしいのでしょうか……」

「香奈?」

 同意する凛華とは裏腹に、香奈はかなり不安そうな声だった。

「いえ……なんだか迎激戦にしては戦場全体の緊張感が少なすぎると言いますか……」

「ちょっと香奈、不気味なことを言わないでよ」

「す、すみません。でもなんだか嫌な予感がするんです」

「嫌な予感、ね……」

 確かに過去今までの迎激戦は全てかなりの被害を被っている。

 負傷者は数百人を越えるらしいが、今回の迎激戦ではまだ負傷者は数十人しかいない。

 今回はたまたま運がよかったとも言えるが香奈に言われるとなんだかそれも違う気がしてくる。

 まぁ俺としてはこのままバーサーカーシステムを使うことなく戦闘が終わるのが一番望ましい限りだが。

(まぁ、大丈夫だろう)

 香奈が不安性ということもある。

 とりあえず悪いことは考えないようにし、目の前のことに集中することにする。

 しかし、そうしている間にもアグレッシンとともにやってきた地獄の影は刻々と着実に近づいてきていた――。

 そして数分後、香奈が感じていた予感は的中することになる。

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