第二十話
「ここか、待機所は」
俺は入り口にある『キャンプ場』と書かれた木の看板を見ながら呟く。
ちなみに香奈はまだ着替えるのに時間がかかるそうだったので、俺は一足先にスタンモードを解除しにきていた。
奥では医療科や工武科がテントの中で作業をしている。
他にもすでに強化服に着替え終わった迎撃科のやつらが休んでいたり、工武科にスタンモードを解除してもらったりとしている。
そう、島の南に作られ、いつもは人気のないキャンプ場は今、まさしく待機所……後方支援待機場という本来の姿になっている。
そしてさらにその先には未開拓地ということになっている、ところどころに木があること以外は土で埋め尽くされている荒地――これから戦場となる場所が見える。
「迎撃科の諸君、聞こえるか」
しばらく待機所を回り、トオルを探していると、先ほど配布され耳につけてある小型通信機から狼火の声が聞こえた。
「たった今本部から連絡があった。どうやら本部のリベンジャーがここに到着するまで一時間はかかるそうだ。敵との予測交戦時間はおよそ残り二十分。よって作戦開始も今から二十分後だ。お前らはこの四十分間を耐え切ってくれれば作戦は成功となる」
通信機から流れてくる声の張本人、狼火とその他迎撃科教員は通信科と一緒に通信科棟内の大型モニタールームにいる。
モニタールームには何十台ものモニターがあり、そこから俺たちに取り付けてある通信機の内臓カメラなどから状況に合わせリアルタイムで指示を出せるのだ。
「あぁそれと成宮聞こえるか?」
「は、はい」
不意に狼火に呼ばれ、通信機越しなのに背筋が自然と伸びる。
「なんですか」
何か言われるようなことをしただろうか、などと考えてると予想外の言葉が飛んできた。
「ああ、お前はバーサーカーシステムがあるから……」
「ちょ、ちょっと! 何言ってるんですか!」
この前ジャスティス戦の後、システムについては私は絶対に言わないとかいっておきながら何さらっと言ってんだこの人!
「あぁ、心配するな。これは個人チャンネルだから聞こえるのはお前だけだ」
「な、なんだ……」
最初からそう言えよ。
ちなみに個人チャンネルとはさっきまでの共通チャンネルと違って、特定の人にのみ通信を繋げられる。
これは主に戦闘が始まった後チームごとに通信を取り合うのに使う。
「それで、なんです?」
個人チャンネルということもあり、だいぶリラックスして聞く。
「それなんだが今回一年は待機命令だったが……お前らAチームは最終防衛ラインとして迎撃戦に参戦してもらう」
「Aチームってことは凛華や香奈も……それも最終防衛ラインだなんて無理ですよ」
リアは下級だが一応Aチーム扱いなので今はもう狙撃チームのほうで準備を進めているはずだ。
ということは実質三人でやることになる。
素人がみたって結果はわかっているはずなんだが……。
しかし狼火はそんな俺の心配をよそに話を続ける。
「なぁに、最終防衛ラインっていっても前衛のやつらが討ちこぼしたのを片づける、いわば予備のようなものだ」
「しかしだからといって」
「大丈夫だ。お前が守る場所は一番待機所に近く、狙撃の援護も受けやすい。それにお前達の前には何十チームという三、四年がいるんだ。きたとしても一匹か二匹だろう」
「はぁ……」
狼火にしては陽気で明るい声の説得に無意識のうちにため息がでる。
(ホント、戦闘前になると途端に機嫌よくなりやがって……)
しかし戦場において指揮官の命令は絶対。
「そういうことだから他のやつにも伝えておけよ」
「……はい」
それがどんなに無理なことでも断ることはできず、結局俺は頷くしかなかった。
「……さて、早くトオルを探すとするかな」
俺は個人チャンネルが切れたことを確認しながら重くなった足を引きづるようにまたトオルを探し始めた。