第十八話
アグレッシンが初めてその姿を地球に晒した日、まだ人類の大半がその存在を知らなかった。
それもそのはずで、アグレッシンが姿を現したのはオーストラリア大陸付近、当時の国連がそれを人類の敵となりうる生物と理解し、さらに奴らに気づかれずに映像を持ち帰ってくるまでおよそ丸三日かかった。
そしてその間にすでにオーストラリアはアグレッシンによって首都キャンベラを基点に大陸の七割が壊滅的被害を被っていた。
それでもオーストラリアはその未知なる敵に政府も軍もお手上げ状態。
そしてその二日後、生き残った住民を各国への避難完了とほぼ同時に国一つがアグレッシンの手によって崩壊させられた。
その後奴らはほんの一時期は大陸から姿をくらました。
その隙に各国はアグレッシンらの対策を練り始める。
しかし映像からの解析は失敗、偵察部隊なども成果をあげられずいまだに世界が混乱していたそのとき、遂にアグレッシンは活動を再開。
まるで狙うかのように各国の首都を襲撃、何とか迎撃をしてもまた大陸付近から出没しては首都に襲撃しては被害を受けつつもなんとか撃退の繰り返しだった。
こうした首都防衛戦は今もなお延々と繰り返されており、今回はその標的が日本になったというわけだ。
そして日本アグレッシン対策本部からここ近未来都市――否、日本の科学の全てが注ぎ込まれた『首都最終防衛都市』に迎撃命令が下るのはいささか当たり前でもあるのだ。
「さて、今回君らがしなければならないことは二つ。一つは命をはってでも敵を一体たりとも逃がしはしないこと。もう一つは本部のリベンジャーがここに到着するまでの間、できる限り敵戦力を削ること」
そして今、学園は各科ごとに迎撃態勢に入っている。
医療科なら戦場となる荒地の近くに緊急治療テントの準備。工武科ならブレイカーのスタンモードの解除やその準備などだ。
そして迎撃科はというと作戦確認と配置分けだ。
ちなみに迎撃戦は基本チームごとに配置されるらしく、そのチームと言うのが対抗戦のチームのことだ。
「もし逃がしてしまったら……」
作戦内容を聞いた一年と思われる者がおずおずと手を上げる。
それは誰もが考えたことで、誰もが考えたくなかったことだった。
だが……
「一応首都とその範囲二十kmは自宅待機命令がでているはずだが……それでも町はパニック、リベンジャーが始末するまでに死傷者は千を超えるだろうな。それにまずこの島が襲われないという確証はどこにもない」
「……っ!」
狼火の容赦のない言葉に、室内の全員が息を呑む。
――一匹も逃がさない。
それは非常にわかりやすく、そしてこれでもかというくらい難しいことだ。
「さて、とりあえず配置についてだが、三年と四年で前線。二年の少数が後方で前線の漏れの始末、ブレイカーになれてない一年は待機だ」
全体をゆっくりと見渡しながら狼火は説明を続ける。
「ちなみに狙撃ができるものは後方の援護としてチームの仲間とは別行動で狙撃隊として行動してもらう。無論、一年もだ。場合によっちゃ出撃もありえるから心の準備はしておけ。では各自準備が整い次第待機所に集合だ」
「はい!」
指示が終わると同時に人が流れるように迎撃科棟から出て行く。
今から強化服に着替えたり、ブレイカーのスタンモードを解除しに行ったりするためだ。
「日向さん」
なんとか流れから抜け出すとちょうど香奈と凛華がいた。
「やっと会えましたね」
「ホント人が多いと大変よね」
「まぁな。とりあえず俺たちも解除してもらうためにトオルのところへ行くぞ」
「あんな変態にやってもらうのは癪だけどね」
「けど私は一旦部屋に帰って強化服に着替えないといけないので……」
「ん、そういえばそうか。なら俺たちも一旦戻るか」
「そうね」
これからすることを確認すると、流れが少し落ち着いたのを見計らって俺たちは走って寮に戻った。