第十五話
全チームの報告も終え、俺たちAチームは第一試合だったのでブレイカーを起動させていると、横からひょいっと凛華が覗き込んできた。
「日向は刀にしたのね」
ちなみに普段のブレイカーはスタンモードという言わば危険防止のための機能が働いており、仮にこの刀で相手を切りつけても怪我はほとんどない。
代わりに痛みに関しては相当なものらしい。
「あぁ」
まぁ、刀にしたというよりかは刀になったと言ったほうが正しいかな。
俺の専ブレは狼火いわくバーサーカーシステムに対応させるため適正率の上昇を最重視しているらしい。
そのため、その代償として一つの武器しか設定できない。
そしてこの前システムが発動したとき無意識のうちに刀をイメージしてしまったので刀以外には変化できないのだ。
小さい頃に父さんに刀の扱い方を教えられてもらっていたから運がよかった。
これが槍だとか剣だったら全く使いこなせなかっただろうしな。
狼火は各自ブレイカーを起動したのを確認した後、ホイッスルを口にもっていく。
「よし、それでは第一試合Aチーム対Bチームを始める。スタート!」
遠くからでもはっきりと聞こえる掛け声と、ホイッスルの音が鳴り、沈黙していた室内が声援で一気に活気づく。
(敵は全員近距離系か)
開始とともに陣形を組みながら突撃してくるBチームは、種類こそは違うが全員近距離武器だった。
こちらも対抗するため俺、凛華、香奈の順に走る。ちなみにリアには開始直後から狙撃ポイントの確保に向かってもらっている。
「よし凛華、銃で牽制しながらリーダーを誘き出してくれないか?」
俺は刀を構えつつ、すぐ後ろを走る凛華に指示を出す。
銃で牽制してればおのずと回避がメインになって分かるはずだと思っての提案だったのだが……
「なに弱音言ってるのよ。そんなめんどくさいことしなくても全員片っ端から倒せばいい話じゃない」
あ、あれ?
「……別にあんな奴ら私と日向がいれば敵じゃないわ」
黙っている俺がさっきの言葉で傷ついたと思ったのか、少しそっぽを向きながらフォローの言葉を付け加える凛華に、返す言葉が見つからない。
だって普通に考えてもみろ。
援護系武器を使わないということはだ。敵は連携に相当自信があるはずだ。それに連携どころか作戦すら立てられなかった俺たちが真正面から戦っても勝てるはずがない。
リアの援護があれば話は別だがまだあいつは狙撃ポイントを探しているだろうから早くても後二分はかかるはずだ。
そう、常識で考えればこんな状況で手当たり次第に戦うなんて……死亡フラグもいいとこだ。
だが凛華が一度言ったことをやめるわけがなかった。
「さぁ、いくわよ! 香奈、援護お願い」
「任せてください」
あぁ、終わった。
そのとき確かに俺はそう思った。いや、この試合を見ている誰もがそう思ったはずだ。
しかしこの後俺は、こいつらの実力を見せ付けられることになる。
「くらえっ!」
敵チームの一人が槍で突撃してくる。俺たちはそれを左右に分かれるように回避。
凛華はその勢いで回転し、反撃に移る。
それは仲間の俺が見ても魅入るほど無駄がなくスムーズな動きだった。学年成績上位は伊達じゃないってか。
さすがともいえる動きで攻撃の態勢になった凛華の銃口から立て続けに銃声が鳴る。
ちなみに弾はエネルギー弾のようなもので威力は適正率と感情によって変化する。普通の銃とは違い弾切れが起きないのがブレイカーの利点だ。
「陣形を崩すな! 作戦通りいくぞ」
凛華のすばやい反撃に崩れかけていた陣形が指揮官らしき男の一言で持ち直す。
たった一言で立て直すとはやるな。
だが……
「それじゃ自分がリーダーだと言ってるようなものだ――」
刀を構え凛華や香奈にも伝えようとしたそのとき、予想外のことが起きた。
そう、陣形を持ち直した三人が凛華たちを無視してまるで狙う敵はただ一人とでも言うように俺を包囲したのだ。
(な……? まさか俺がリーダーだとバレたのか?)
助けを呼ぼうにも凛華はさっき突っ込んできた槍の男に足止めを食らっている。
まさかの展開。万事休すか……。
敵三人に囲まれた俺が少しずつ後退すると先ほどのリーダーらしき男が、武器である鎖を構えながらニヤリと不敵に笑う。
「くくく。成宮日向、今日こそ逃がさないぞ」
「なぜ……」
俺は鎖の奴とは違って特段にリーダーみたいな行動はしていないはずだ。
それなのに何故俺のことが――?
しかし敵は『なぜ』をどう受け取ったのか、いきなり怒りを爆発させてきた。
「なぜ……だと? 分からないとは言わせないぞ! いつも杉原さんや焔さんと一緒にいるくせに……あげくの果てには年下美少女を入れてハーレムチームをつくるだと!? ふざけんな!!」
杉原……あぁ、凛華のことね――って俺を狙う理由はそれかよ! いや、確かに年齢中学生のリアを入れたけども!
「俺たちには女子一人もいないってのによぉ……」
女子いないとかそんなこと知らねーよ。誘えないお前らが悪いだろ。
「どうせ誘えないお前らが悪いって思ってんだろ? けど、そんなことしたら俺の彼女が嫉妬して俺が怒られてせっかく誘った女の子をむりやりどけて自分がチームに入るって言い出すと思ったから結局誰も誘えなかったんだよ……ってかそもそも俺の彼女がニ次元でなにが悪いんだよチキショー!」
うん。何言ってるか全く分からないが、とりあえず妄想と現実を区別できないトオルみたいな痛い子だってことは分かった。
「とにかく貴様は男の敵だ。今こそ俺たちの気持ちを思い知るがいい!」
「ちょ、ちょっと待てって……」
突っ込みたい気持ちを必死に抑えつつ、発狂し始めたアホどもに一応講義してみるが、やはり俺の話を聞くつもりはないらしい。なぜなら奴らの目はすでに空腹のときに見つけた獲物をみる狼の目と化しているからだ!
そしてあきれていた隙に背後にも回り込まれ、逃げ道がなくなったときだった。
「私を忘れてもらっては困ります!」
救世主の声とともに、突如後方から炎を纏った矢が飛んできた。
そのまま矢は地面に刺さり、矢に纏っていた炎がまるで生きているかの如く敵を寄せ付けぬ壁のように俺の周りに広がる。
(これを、香奈がやったのか!?)
突如現れた炎。そしてそれがまるで操られるかのように動いた。これはまさか――
「香奈、お前もしかして……」
「……はい。私は火の超能力者なんです」
弓を構えていた香奈は驚愕している俺と目が合うと、なぜか申し訳なさそうに目を逸らす。
気付けばいつもの黒い綺麗な髪は燃えるように深紅色になっていた。
それにしてもまさか香奈が超能力者だったとは。
ブレイカーを使うと身体能力が大きく上昇する人はよくいる。
だが超能力者は本当にごく稀で、その確立は十万人に一人と言われている。
超能力者は人によって能力が異なり、能力の限界もほとんどないため人によって違うが、だいたい超能力者の一人の力は普通のリベンジャー二十人ぐらいに相当するらしい。
そして香奈が言っていた弓を使うもう一つの理由。
これは憶測に過ぎないが香奈の能力である『火』を一番活かせるのが弓なのだろう。
先ほどのように矢に炎を纏わせれば矢が外れても炎を遠隔操作することで追撃ができるからな。
「くそ、まさか超能力者がいるなんて」
敵は香奈が作った炎の壁によって俺に近づくことができない。
これには予想外だったらしく、敵は動揺を隠せていない。
「しかたない、作戦は変更――」
「隙だらけよっ!」
リーダー格の男が一時撤退をかけようとしたその瞬間、凛とした威勢のいい声とともにその両手からエネルギー弾が放たれた。
「ぐぁ!」
その射撃は正確に一人の足と肩に命中し戦闘不能にさせる。
「なら私もっ」
さらに香奈の掛け声によって俺の周りを囲んでいた炎が収縮、火の玉となって敵に襲い掛かり、また一人戦闘不能になる。
「日向、大丈夫?」
瞬時に敵を戦闘不能にさせた少女――凛華は、敵が反撃してこないのを確認すると一目散に俺のところに駆け寄ってきた。
「おかげで大丈夫だ。それよりお前のほうは……」
「あぁ、私なら全然平気よ」
どういうことかと思い、凛華の後ろを見てみると――さっきの槍の男が仰向けになって倒れていた。どうやら気絶しているらしい。
それにしてもこいつら……一人は超能力者だわ、一人は同学年の男子を二人も倒しちゃうわ……強すぎだろ。
正直俺がいなくても勝てるんじゃね?
ってか俺の立場がない……。
せめて最後は飾ろうと俺は最後に残った敵リーダーに刀を向ける。
「さぁ、後はお前一人だ。覚悟しろ――」
「な、なんでこんな強いんだよぉ!」
「えっ?」
セリフの最中に敵は予想外にも逃走した……。
いや、まぁこんな化け物ぞろいじゃそうなるのも分からなくもないけど逃げんなよ!
「くそっ、まちやがれ!」
すぐに俺と凛華は追いかけるが恐怖に陥った人間は速くなるのか、全然追いつけない。
香奈も後ろから矢で狙ってみてはいるようだが、やつは武器である鎖を体に巻きつけるようにして盾代わりにされ、防がれている。
これ以上追いかけるのは無理か。
俺と凛華が諦めかけたそのとき、どこからか銃声が鳴り、同時に男がその場に倒れる。
「な、なにが!?」
ビイィィィィィと試合終了のホイッスルが鳴り、「おぉおお」と歓声が沸くが、当の本人の俺たちは何故倒れたのか全くわからない。
それは凛華も同じだったようで、俺と凛華はブレイカーを停止させつつ男に駆け寄る。
すると男の首の辺りに撃たれたような後があった。
「これって、まさか……」
「リアの狙撃銃の弾だわ」
「けど首なんか撃ったら即死じゃ――」
「掠めただけだから心配ないなのー」
ぎゅっ。
狙撃したところから走ってきたリアが俺の背中に抱きついてくる。
「掠めるって――こいつは走ってたんだぞ? しかも鎖が邪魔で当たらないんじゃ」
「走っていようが関係ないの。鎖だっていくら巻きつけようが鎖の隙間を撃てば当たるなの」
鎖の隙間って……まさかあの小さな輪の部分のことか? だがいくらなんでも動いているやつにそれを、しかも掠めるだけだなんて――。
だがそんな俺の気持ちを読んだのか、リアは満面の笑みで、
「弾が細くなるようイメージすればできるなの。リアに不可能はないなの! お兄ちゃん、リアのこと褒めて褒めて~」
これが下級生徒にして学園一とも噂されている天才狙撃手の実力なのか。
(もはやなんでもありだな……)
内心で舌を巻きつつ言われたとおりリアの頭を撫でてやろうとすると……
「ヒュ、日向! 私も二人も倒したんだから褒めてよね」
「え?」
「な、何度も言わせないでっ! これは命令よ! ほら、早く」
いきなり言い寄ってきた凛華にたじろいでいるとこれまたリアが一言。
「えー、リアが先なの」
「む、私が先よ」
「リアなの!」
「だから私よ!」
……また喧嘩か。この二人は初めて合ったときから何故か仲が悪い。
「あ、あの……せっかく勝ったんですから喧嘩は……」
深紅から黒に戻った髪をなびかせながら、喧嘩を止めに入る香奈に二人を任せ俺は一人、先ほど思ったことの間違いを訂正しながらむなしくため息をつく。
俺がいなくても勝てる、じゃない。
俺はいてもいなくても変わらない、だろ……。