第十四話
結局昼休みをフルに使うことによってなんとか香奈の誤解を解いた。
「それにしても……」
昼休みが終わり、生徒たちが集合するなり狼火は、「今日は組んだチームごとに作戦や連携の打ち合わせをしとけ。明日チームごとで対抗戦だ」とだけ言い残しどこかへ行ってしまった。
ちなみにチームは俺、凛華、香奈、リアの四人だ。
そして今俺らは迎撃科の棟の一つの個室で陣形を考えているんだが――
「私と日向で前衛ね。香奈は後ろから援護、場合によっては前衛に切り替えてもいいわ」
「ちょ、ちょっと待ってください。凛華さんも中距離タイプなのでは?」
「とりあえずリアは後方から狙撃って決まってるから関係ないの。だからお兄ちゃん遊ぼぉなの」
「ちょ、ちょっとリア! そうやってすぐ日向に抱きつかないでよっ」
「そ、そうです。そうやって胸を押しつけちゃ駄目です! ……リアさんばっかずるいですよ」
「あれれ~、二人ともリアに嫉妬してるなの?」
……陣形どころか一番重要なチームワークの欠片もねえ。
「……んでだ。お前らは一体何の武器にしたんだ?」
俺はとりあえずまた頭をすりすりしてきたリアを離しながら聞く。
ブレイカーはその適性率の高さや所有者の意思にもよるが、変化させることができる武器の種類は結構ある。
しかしまぁ戦いの最中にそれができるのはかなりの上達者だし、まだ慣れたてのこの時期は得意とするメイン武器と、サブの武器計二種類を決め、まずはメインのほうを完璧に使いこなせるようにする。
確かこいつらは俺が入院している間に迎撃科でブレイカーの起動訓練を受けたはずだ。でもって運のいいことに、ここにいる全員が専ブレ持ちだ。
だからこいつらが使う武器――正確にはブレイカーを変化させたときの武器――がすでに決まってるはずなのだ。
「私は弓です。子供の頃弓道を少しやってたので……まぁ、他にも理由はあるんですけどね。ちなみにサブは槍です」
弓か。銃が普及し始めてからはあまり聞かないが……まぁ香奈にはなんとなく似合っている気がする。
「私はもちろん両短銃と双短剣よ」
「リアはもちろん狙撃銃だけなの~」
「となると狙撃銃だけのリアは後方からの狙撃で援護に決定で……」
今聞いた武器の特性を考えながら陣形を練る。
「とりあえず俺は前衛だとして問題は凛華と香奈だな。普通に考えたら後ろから援護する役目なんだろうが凛華は近距離も得意だしな……」
実際ブレイカーとなると銃だから遠距離、剣だから近距離というわけではない。
あくまで形とおおまかな性質が同じになるだけなので、剣ならば振るときに衝撃波がでるようなイメージすればリーチ外からでも衝撃波で攻撃できるし、銃もでかくて威力がある弾などを使いこなせば近距離でも十分戦える。
そのためリベンジャーのブレイカーを使ってによる戦闘は複雑で、正直やってみない限りベストな陣形はわからないのだ。
それに凛華は下級のときの対零距離戦の訓練で、銃を使ってかなりの好成績を残していたはずだ。
「やっぱ俺が前衛で香奈が中距離から。凛華は状況に合わせ前衛と後衛をやってくれ」
「私は日向と一緒に前衛よ。これ命令」
「私は構いません」
香奈も了承してくれ、凛華も……まぁ、前衛に変えてやれば大丈夫そうだ。てか凛華のやつ、遂に「これは命令よ」と言うのが面倒くさくなって「これ命令」に短縮しやがった……。
結局決まった後もまた凛華たちが言い合いを始めたのでそれ以降は進まず、陣形を決めただけで本日は下校時刻となってしまった。
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「よし、集まったな。では今から対抗戦をおこなう」
まだ朝早い時間だからか、どこか優しげにみえる狼火は欠伸をしながら目を擦る。
今俺達は午前中だが迎撃科棟にある演習場にいる。今日は休日で授業がなく、午前から所属科別授業なのだ。
そしていよいよ対抗戦が始まるわけだが……
「お兄ちゃん一緒に遊んでようよなの~」
「だからそうやってすぐに抱・き・つ・く・な・っ!」
あ~。ずっとこんな調子なわけで、結局作戦とかも立てられなかったし、これじゃ一回勝てたらいいねくらいだし、マジ凛華さんお願いだから俺を睨まないでください。まるで俺が言わせてるかのような目つきですけど俺は全く関係ないです。
(あぁ、大丈夫なのか……これ)
俺は一人気づかれないようにため息をつく。
そうこうしているうちに狼火の話は進み、対抗戦の説明になっていた。
「それでは今から簡単な説明をする。まずこれからチームごとにリーダーを決めてもらい、私に報告してもらう。対抗戦ではそのリーダーが戦闘不能になったら負けだ。ちなみにリーダーに目印はない。誰がリーダーなのかは戦えばおのずとわかるからな」
そうか、リーダー以外は戦闘不能になっても負けにはならないから必然的にリーダーはあまり戦闘に参加しない奴になるのか。
年下に抱きつかれ、幼馴染に睨まれている俺をよそに説明はさらに続く。
「それと今回はこの演習場のフィールドで行うわけだが、このフィールドはアグレッシンと戦う場を再現している。なのでキミ達には一刻も早くこのフィールドに慣れてもらいたい」
狼火が顎で指した方をみると、ところどころに障害物があるかなりでかいフィールドがあった。
この建物自体はコンクリートでできているのに、フィールドは下が土のところをみるに、かなり本格的なつくりらしい。
「ではまずはAチーム。成宮日向、杉原凛華、焔香奈、加羅崎リアは私のところにチームリーダーの報告にこい」
だいぶいつもの調子になってきた狼火に呼ばれ、ようやくAチームであることとリーダーをまだ決めてなかったことを思い出す。
やはり避けるのが得意な奴が適任なのだろうか。
「なぁリーダーどうする?」
「日向やってよ」「日向さんお願いします」「お兄ちゃんに決まってるなの」
……なんでこういうときは息ぴったりなんだよ。
こうして三人から同時にご指名を受けた俺は断れるわけもなく、肩をすくめながら素直に狼火に報告をしにいった。




