第十三話
「大丈夫なのか?」
教室に入ると一番ドアに近い席のカルラが声をかけてきた。
加羅崎カルラは下級のときから同級生としてまた、トオルなんかとは違い親友としてよくつるんでいた一人だ。
身長190越えにNBAの選手にも負けない体つきをもち、髪はトオルの染めたのとは違う、地毛の金髪。
さらにはモデル顔負けのイケメン面で性格まで完璧なのだからあのトオルがカルラを見るたびに「チキショー! 神は不公平だぁぁぁ!!」と叫ぶのも頷ける。
ちなみにお父さんが外国人でハーフだが、カルラと妹さんは日本生まれ日本育ちらしく日本語ペラペラだ。
「あぁ、もう大丈夫だ」
ちなみに俺は一日で退院できたのだが、医師と狼火から今週は学園には行かなくていいから体を休めろと言われていた。
だから今日はあの事件以来となる久々の登校だった。
「そうか、それはよかったよ。なにやら襲撃任務を受けたとか……本当なのか?」
「ん、まぁな」
まるで噂話を確かめるかのように聞いてきたカルラに適当に答える。
別に口止めされているわけではないから普通に「やった」と答えていいのだろうが……なにぶんシステムのこととかできる限り触れたくない話題だ。
「一年なのにすごいなぁ。ま、万が一怪我でもしたら僕でも呼んでよ」
「おう、そうするわ。カルラが来てくれるなら怪我したときも安心だな」
ぐっ、しゅぱっ! と手術前にするあの薄い透明な手袋をはめる執刀医の真似をしたカルラは、見た目のわりに手先が器用で迎撃科ではなく実は治療科なのだ。
「席につけー」
その後もカルラと世間話に花を咲かせていると、チャイムが鳴り担任がきた。
「おし、今日は全員きてるな。それじゃ今日のHRは……」
久々のHRに、いつもなら欠伸をしているところだが今日はなぜかやる気があった。
いや、別にHRだから特にやることはないけど久々だとなんかワクワクすんだよね――
「うん、やることないからこれでHRは終わりな」
はやっ! 俺のわくわくを返せ!
思わずトオルといることによって鍛えられたツッコミ魂が反応してしまったが、その後トオルに聞くと、「いつもこんな感じだぜ」と一蹴されてしまった。
いや、まぁ無駄に長い挨拶をする教師とかよりはいいんだけどね。むしろありがたいくらいだけどね。
しかし今日だけはなぜかがっかりしてしまう俺だった。
昼休み。
朝凛華が、「着替えに戻るの面倒だし、これからは迎撃科の制服で行きましょ」と決めたので、飯をゆっくり食べても時間が余った俺たちは先に迎撃科の棟に向かっていた。
「あんたいきなり動いて大丈夫なの?」
「あぁ。医者に駄目とは言われてないしな」
「いや、そういう問題じゃ……」
そういいかけて「まぁ日向に聞くだけ無駄よね」と凛華はため息をつく。
どういう意味だ、それ。
「そういえば今日はこの前できなかったチームごとでのブレイカー戦らしいわ」
「へえ。やっとブレイカーをつかえるのか」
ちなみにバーサーカーになったときに一回使ったが、あれはノーカンだ。
しばらくして迎撃科棟の前に着くと、凛華がなにやら思い出したような顔をしてこちらを見てきた。
「そういえば今日の迎撃科のチーム戦のチームのことなんだけど、四人くらいで一チームみたいよ」
「そうなのか?」
案外少ないんだな。てっきり六人くらいかと思ってたんだが。
すると俺と凛華と香奈。
「後一人足りねえや」
「そうね、あと一人は……」
後一人をどうするか悩んでいたそのときだった。
「リアがお兄ちゃんと一緒のチームになるなの!」
「リア?」「お、お兄ちゃん!?」
いきなりの声に、俺凛華の順に驚きの声を上げる。
「……日向。あなたに妹なんていなかったわよね」
隣からものすごい殺気を感知。機嫌メーター急降下中の模様。
「えっと、これはだな……」
説明しないと殺されそうなので、ついでにリアにも凛華たちのことを話しながら説明する。
加羅崎リア。苗字から分かると思うがこいつは決して俺の妹ではなく、カルラの妹だ。年は十五で、世間一般ではまだ中学生だ。
髪は少し多めに肩に被るくらいのサラッとした綺麗な髪で、カルラとは違い薄い桃色だ。白い天使の羽をモチーフにした髪留めがよく似合っている。
瞳はカルラと同じでひまわりのような黄色。身長は凛華と同じくらいで所属は迎撃科だ。
狙撃に関しての実力はもはや天才で、その実力は上級生徒をも凌ぐだとか。
ちなみに俺がまだ下級のときに、リアが髪の色が理由でクラスのやつらからイジメられていたところを俺とカルラでそのイジメっ子どもをぶちのめしたことがある。そのときからなぜかお兄ちゃんと呼ばれ懐かれている。
「……と、言うわけだ」
「ふぅん。てっきり無理やり呼ばせてんのかと思ったわ」
ひ、酷いな。そんな風に思われてたのか。
「お兄ちゃんはいい人なの。悪い人じゃないなの。イジメないでなの」
リアに責められた凛華が、むっとなり言い返す。
「そ、そんなの知ってるわよ」
「そうなの? じゃあ凛華ちゃんはお兄ちゃんが好きなの?」
「えっ!? そ、それは!」
「だって好きな子のことイジメたくなるんじゃないなの?」
いきなりの質問に顔を真っ赤にしながら狼狽する凛華を問い詰めるリア。
凛華が目で「どうにかしなさいよ」といってくるので、なんとか俺は話題変更する。
「ところでリア。なんでここにいるんだ? お前はまだ下級生徒だろ。下級はまだ普通の授業のはずだが……」
それはどうしたんだ? と聞く前にリアは俺の腕に抱きつきながら幼い子特有の無邪気な笑みを浮かべて嬉しそうに言う。
「えっとね。この前リア、狼火先生に『お前はこれから上級生徒と一緒に午後から迎撃科棟にこい』って言われたの。だからこれからはお兄ちゃんと一緒にいられるなの!」
下級生徒が上級生徒と一緒に訓練だと?
そんな話聞いたこともないが……まさかそれほど実力があるのか。
しかしそんなことよりも今気になってしょうがないことは、その……このやわらかくてふにふにしている……胸が腕に当たってるんだが。
しかもこいつ、中学生くらいのくせに案外育っているらしく、香奈や凛華と比べると、香奈〉〉〉〉〉〉リア〉〉凛華って感じだ。
異性を感じさせるその感触にドキドキしていると、凛華がなぜかリアじゃなく俺を睨みつけてきた。
でもってそれを知らぬふりをしているのかリアは「お兄ちゃ~ん」とご機嫌の様子で頭をすりすり肩にすりつけてくる。
さてこの状況どうしたものかと俺が困惑していると――
「ヒュ、日向さんに……妹が……!?」
どうやら俺たちを追ってきたらしい香奈が、普段はおどおどしているその顔を驚愕の表情にして固まっている。
(あぁ、またあらぬ誤解が……)
結局その後俺は香奈にも凛華たちと同じ説明をするはめになった。