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光翼のリベンジャー  作者: 蒼鳥
第一章
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第九話

「な、何だ!?」

 突如上から爆音がし、ジャスティスの奴らが驚きの声をあげる中、T-SAが宙を舞う。

 どうやらこのビルは、外装以外は全て解体されており一階からだと一番上の天井まで見えるようだ。

 凛華は作戦通り、敵が気づいた瞬間から俺に回していた手を腰の拳銃に回しやつらの武器を正確に射撃している。

「お前ら何をうろたえている! 殺しても構わん、殺れ」

 T-SAの着地のドリフト音にあからさまに眉をひそめながら、リーダーらしき男が声をあげる。

 恐らくだが、今指示を出したやつの近くに焔さんがいるはずだ。

(それにしても……)

 さっきの一声ですぐに体勢を立て直すところはやはりさすがだろう。

 しかし人数が予測と全然違う。このままじゃ焔さんを救出できたとしても脱出は難しい。

 予想以上の状況の悪さに舌を巻いていると、銃声を響かせながら凛華がこちらを向く。

「日向! 援護して!」

「おいおい、無茶を言うな」

 T-SAはアクセルを少し踏んだだけで80kmは出るという、ファンタジーみたいなバイクだ。それを敵を轢き殺さないよう運転しながら、なおかつ敵の攻撃を避けているんだぞ。

さらに銃で援護しろとか……どこのアクションゲームだよ。

「早く!」

 しかし、どうやら選択の余地はないらしい。

「あぁ、もう。分かったよ! 転倒しても知らねえからな!」

 俺は今にも転倒するんじゃないかと思うほどジグザグに走りながら、T-SAに装備してあった銃で凛華を援護する。

「くらえ!」

 一人が金属バットをぶん回しながら襲って来たが、銃でバットを跳ね飛ばす。さらにT-SAで軽く体当たりし、遠くに吹っ飛ばす。

 凛華も敵の武器を狙って撃っている。が……

(おかしい……なんであいつらは銃を持ってないんだ?)

 ほとんどの奴らが打撃武器を持っている。

 まさか銃の訓練をしてないわけでもないし……違和感がありすぎる。

 しかも凛華の弾は、最初は一発一発正確に敵の武器を弾いたり壊したりしていたが時間がたつにつれ命中率が下がっている。

 凛華は射撃の精密性に非常に長けており、その実力は迎撃科の中でもトップクラスなのだ。その凛華が撃つごとに当たらなくなっていくなんて……しかも俺の弾も狙っているはずなのに違う方向にいってしまう。

(一体どういうことだ)

 そう思ったとき、通信機から冷静な声がした。

「ビル内に微量ですがあらゆる方向から風が発生しています。銃撃戦を止め、今すぐ焔香奈を救出し、直ちに脱出してください」

「……あらゆる方向? 風?」

「日向、焔香奈を見つけたわよ!」

 オペレーターからの報告にさらなる違和感を覚えつつも、指示どおりに攻撃をかわしながら焔さんの元へ向かう。

 するとそこには睡眠薬か何かで眠らされているらしい焔さんと、先ほどのリーダーらしき男がいた。

「これはこれは。防弾性に加えて原子力エンジン、か。学園もどんどんとんでもないものを作るな」

 こんな状況でも一瞬でT-SAの性能を見抜く冷静さ。

 やはりこいつがリーダーとみて間違いないだろう。

「ふむ。これにはいくら攻撃しても無駄だな」

「凛華、このまま焔さんを救出する。その間あの男を抑えてくれ」

「分かったわ」

 凛華は指示通り、相手の動きを封じるため男の腕と足にめがけて発砲する。

 二発の銃弾は美しいまでに狙い通りの弾道を描く。

 ――よし、この弾道は絶対当たる。

「おいおい、そんな物騒なものを向けるな」

 なんだこいつ……? なんでこんな余裕でいられるんだ?

 次の瞬間、絶対に当たる弾道にあった弾がやつに当たる直前にそれは起きた。金属が擦れ合うかのような音とともに、まるで男を避けるかのように弾が曲がったのだ。

「なっ……!?」

「ったく、危ねえな。まぁそれよりもそのバイクに乗られていては厄介なんだよ。だからさっさと降りろ」

「――っ! 何をふざけたことを!」

 もう一度アクセルを踏もうとしたそのとき、

「と、止まった……!?」

 アクセルを押しても進まないどころか、押し返されているかのようにバックしていく。

「早く、降りろ」

 先ほどよりも低く、威圧のある声と同時にT-SAが宙に浮く。そして俺達ごと横に、まるで突風にとばされる傘のように簡単に吹っ飛ばされ、壁に激突する。

「きゃっ!」「ぐっ!」

 その強い衝撃に思わず声が出てしまい、ついには俺たちは本当にT-SAから降ろされてしまった。

「まさか……念動力者エスパーなの……!?」

「嘘だろ……?」

 凛華の言葉に俺は驚きを隠せない。

 ジャスティスはホントに超能力者を育成したって言うのか? 

 それもこんなも物を持ち上げ、吹っ飛ばすことができるほどの力を。

「ふん。見たところ貴様らはブレイカーを持ってないようだな。ということは一年か? だとすれば我々もなめられたものだな」

 男はあからさまに不愉快な顔をするが、何を思ったかすぐに余裕の笑みを浮かべる。

「まぁ、いい。暇つぶしにはなる。遊んでやる」

「なめんじゃないわよっ!」

「やめろ凛華! むやみに突っ込むな」

 しかし完璧に見下されているからか、頭に血が上った凛華は太ももにいつも隠し持っている双短剣を握る。

「こんのっ!」

「まだまだだな」

 男は小さい体を生かして小刻みに鋭く攻撃してくる凛華をいとも簡単に避けている。

「~~っ!! これなら!」

 凛華の得意とするサイドステップでの高速の切り返し攻撃。しかしそれさえも男は足をほとんど動かさず、地面を滑るようにかわす。

 俺はというと銃で援護しようにもただでさえ動きが速く、標準が捉えられない上に先ほどのように曲がってしまっては凛華に誤射する可能性がある。

(俺はただ見守ることしかできないのか……!)

「もらったぁ!」

 男を壁際に追い込んだ凛華が大きく宙に跳び、回転しながら男に大根切りのように大きく短剣を振るう。

 が、目の前にまで振り下ろされた短剣が男を捉える直前。またもや金属が擦れあうような音がし、壁にでも当たったかのように刀が止まった。

「そんなっ……!?」

「邪魔だ」

 驚いて気を抜いた隙に、またあのわけの分からない能力で凛華を突き飛ばす。

「大丈夫か?」

「う、うん。けどやっぱあいつエスパーなんじゃ……」

 飛ばされてきた凛華を受け止めつつ、俺はまたも感じた違和感に頭を悩ませる。

 弾を曲げるときも刀を止めるときも使っていたあの超能力。

 そして足を動かしている様子もないのにまるで地面を滑るようなあの動き。

 そしてあの奇怪な音は短剣を止めていた間ずっと鳴っていた。

 本当にエスパーならどんなものも一瞬で止められるのではないのか? あれではまるで勢いがなくなるまで盾で防いでいたかのような感じだ。

 いや、そもそもだ。なんでエスパーがあんな金属音のような音を出すんだ?

 下級生徒のときの対超能力者の授業で習ったが、念動力なら無音のはずだ。

 少なくとも何かと擦れ合うような音はしない。

 何かがおかしい。

 だがあと一歩で分かりそうなのに全く分からない……。

(くそっ! 結局俺は何もできないのかよ……)

 何もできない己に怒りがこみ上げてくる。

(安全なところから見ているばっかで……凛華に辛いことを任せっきりで……)

 そこでふと自分のなかにある『あるもの』を感じる。

(どうなるかはわからないが、いっそこれを発動させてしまうか――)

「日向! 大丈夫!?」

「えっ、ああ」

 夢から目覚めるときのような感覚で我に返る。

「いきなり顔色が悪くなってたけど……それよりもどうする? あたし達じゃ勝てないし一回撤退する?」

「いや、今を逃したら恐らくもう助けることはできないだろう。少なくとも焔さんが生きていられる可能性はない」

「だったらせめて狼火先生のところまで……」

「駄目だ。その隙に逃げられちゃ元も子もない」

「じゃあどうすれば」

 不安そうにこちらを見る凛華を安心させるように、あえて確信をこめて言う。

「……大丈夫だ。あいつはエスパーなんかじゃない」

「――っえ!?」

 しかし、別に根拠もなしに言ったわけではない。

さっき凛華に呼びかけられる前。ほんの一瞬だけ不思議な感覚がし、今まで感じてきた違和感がパズルのように解けた。

 俺の考えが合っていればこいつはエスパーではない。

「まぁ、見てろって。お前にも手伝ってもらうことになるけどな」

 そう言いつつ俺は自分の銃を――不良品の銃をホルダーからだし、さっきまでの不快感がなかったかのような余裕の笑みを浮かべる。

「凛華、もう一度だけあいつに突撃しながら銃を撃ってくれないか?」

「で、でもあいつに銃は利かないんじゃ……」

「頼む。最後にもう一回だけ確認しておきたいんだ」

「…………わかったわ」

 少し戸惑った顔を浮かべながらも凛華は頷いてくれた。

「よし、それじゃ今から三秒後だ」

「うんっ!」

 俺たちが会話終えると、男があざ笑いをしていた。

「終わったか。さて作戦はできたのか?」

「あぁ、今からその余裕そうなつらをぶっ潰す作戦をな」

「ほぅ……それは楽しみだ」

そして――三秒!

「凛華」

「うん!」

 やつが言い終えた直後、凛華は全速力で走り出し一気に距離を詰める。

「またか。どうやら期待はずれになりそうだが?」

「凛華、撃て!」

「言われなくてもっ!」

 パアァン。

 やつの腹にめがけて銃弾を放つ。

 しかし銃声の直後、また弾はやつの体に当たる直前――さっきと同じところで曲がった。

 そして男は手を前に突き出し、

「きゃっ!?」

 凛華は真後ろにいた俺のほうに吹っ飛んできた。

「大丈夫か?」

 先ほどと同じように凛華をキャッチし、負傷してないか確認する。

 どうやら足首を軽く捻ったらしく、赤くはれている。

「う、うん。でもこれでよかったの?」

「あぁ、よくやってくれた。後は俺が何とかする」

「で、でもっ……!」

「まぁ、見てなって。――ここまで頑張ってくれてありがとな。後は俺に任せろ」

 安全な壁際に凛華を座らせ、安心させようとさらさらな髪を撫でてやると……いきなり凛華の顔が赤くなった。

 なんで赤くなるんだ? まるでキュンって音がしそうな感じだぞ。

「ヒュ、日向も気をつけてよねっ」

「わかってる」

 俺は銃を持ち、男に向かって凛華と同じように突撃する。

「……はぁ。貴様らは一体何度同じことをやれば気がすむんだ」

「はっ、勝手にほざいてな!」

 男は俺たちが奇襲してきたときからエスパーのような力を使っている。

 そしてこれは凛華が突撃しているときにもう一度確認してわかったのだが、あいつは全くもって弾道を見ていなかったのだ。

 そう、あいつは銃を、恐らくは種類をみていたのだ。

 仮にだ。もし男が銃を知り尽くしているのならば、敵の銃の種類さえ知れば弾の初速が、もっと言えば自分のところまでの弾の速度もわかり、自分にあたる直前がわかる。

 そしてさっきのオペレーターの報告にあった、本来屋内に吹くはずがない風。

 昼休みのときには結構強い春風が吹いていたというのに作戦開始前は全く吹いていなかったあの違和感。

 その全てがこの男に繋がっていた。

 こいつは超能力者ではあるがエスパーではない。

 いやはや、下級生徒のときに対超能力者の授業で嫌々ながら超能力の種類を覚えた甲斐があったってもんだ。

「さっきの女と同じように吹っ飛ばしてやる」

「はっ、やってみな」


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