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俺の彼女は人工知能(AI)でした。  作者: おぷっち


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2/7

完璧な彼女と不完全な日常

「ほら見ろ、俺の言った通りだろ? 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能…完璧すぎて、作り物みたいで逆に怖いって。あながち冗談じゃなかったりしてな」

隼人の軽口が、鉛となって俺の胸に沈む。否定できない。今日の彼女の行動は、すべてが異常だった。

作り物。

その言葉が、頭の中で反響する。もし、本当にそうだったら?

いや、そんなはずはない。人間だ。血の通った、人間のはずだ。俺はかぶりを振って、冷めた味噌汁を喉に流し込んだ。



午後の体育は、選択科目のバレーボールだった。男女混合のチーム分けで、俺とアリスは同じチームになった。

「よろしく、お願いします」

彼女はチームメイトに深々と頭を下げる。その完璧な所作に、男子の何人かが顔を赤らめた。

しかし、試合が始まると空気は一変した。

相手チームのエースが放った強烈なスパイク。誰もが諦めたそのボールに、アリスが滑り込む。床スレスレで拾われたボールは、まるで磁石に引かれるように、セッターの真上へ完璧な軌道を描いて上がった。

「ナイスレシーブ!」

誰かが叫ぶ。だが、彼女のプレイはそれだけでは終わらない。

相手の動き、ボールの回転、落下地点。そのすべてを物理法則に従って計算しているかのようだった。どんなフェイントにも惑わされず、常に最適なポジションに移動し、完璧なレシーブを返す。

最初は歓声が上がっていた。だが、それが五本、十本と続くと、コート内の雰囲気は徐々に変わっていった。

賞賛は、畏怖に。そして、不気味さへと。

「なんか…怖くない?」

「全部拾うじゃん……ロボットみたい」

味方チームから聞こえてくる囁き声。彼女の完璧さは、いつしか人間離れした「異質さ」として、チームメイトとの間に見えない壁を作っていた。



試合終了のホイッスルが鳴る。俺たちのチームは圧勝だった。

けれど、ネットの向こうに整列する彼女の周りには、誰も近寄ろうとしなかった。ハイタッチを交わす輪からも、自然と外されている。

コートの真ん中で、彼女は一人、静かに佇んでいた。

スポットライトを浴びる舞台の主役。それなのに、世界で一番孤独に見えた。

その完璧な後ろ姿が、やけに不完全で、どうしようもなく人間くさく見えてしまったのは、なぜだろう。

胸が、締め付けられる。

怖い。確かに怖い。でも、それだけじゃない。あの完璧な仮面の下で、彼女は一体何を考えているんだろう。俺は、それを知りたいのかもしれない。

同情じゃない。憐れみでもない。もっと別の、名前のつけられない感情が、恐怖を上回って膨れ上がっていく。

俺は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

明日こそ、俺から彼女に話しかけてみよう。

汗ばんだ拳を握りしめ、俺は心の中で静かに誓った。



両チームがネットを挟んで再び整列する。「ありがとうございました」という声が体育館に響き渡り、形式的な礼が終わると、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。チームメイトたちは「お疲れー!」と互いの健闘を称え合い、汗を拭いながらコートを離れていく。

俺も仲間と軽く拳を合わせながら、無意識に視線は彼女を探していた。

彼女は、誰に声をかけるでもなく、かけられるでもなく、一人でボール籠のそばへ向かうと、散らばったボールを拾い始めた。その動作には一切の無駄がない。腰を落とし、ボールを掴み、籠に入れる。一連の流れがあまりに滑らかで、精密にプログラムされた機械を思わせる。

「手伝うよ」

その一言が、喉まで出かかっているのに、声にならない。体育館の喧騒が、分厚いガラスとなって俺と彼女を隔てている気がした。俺の足は、床に縫い付けられたように動かなかった。



「おい、帰んぞー」

背後からチームメイトに肩を叩かれ、俺ははっと我に返る。

「今日のあいつ、マジで化け物だったな。一本も決めさせてもらえなかった」

「だよな。こっちのスパイクコース、全部読んでやがった。未来でも見えてんのかよ」

仲間たちの会話は、当然のように彼女のことで持ちきりだった。賞賛と、ほんの少しの呆れと、そして明確な畏怖が混じり合った声色。誰も彼女の内心なんて気にしていない。ただ、圧倒的な「現象」として捉えているだけだ。

俺は曖昧に笑って頷きながら、もう一度コートに目をやった。彼女はすでに片付けをほとんど終え、ネットの支柱に手をかけている。その小さな背中が、やけに大きく見えた。

違う。彼女は化け物なんかじゃない。未来が見えているわけでもない。

じゃあ、何なんだ。あの完璧さは、どこから来るんだ。

問いは、答えのないまま胸の中で渦を巻く。



部室に戻り、汗まみれのユニフォームを脱ぐ。ざわめきの中で着替えを済ませ、体育館の出口へ向かうと、夕暮れのオレンジ色の光が目に飛び込んできた。その光の中に、見慣れた後ろ姿があった。

彼女だ。一人、校門へ向かってゆっくりと歩いている。背筋の伸びた、どこまでも完璧な歩き方。

今なら、追いつけるかもしれない。「明日」じゃなく、「今」声をかけるべきなんじゃないか。

そう思った瞬間、心臓が大きく跳ねた。けれど、足は一歩も前に進まない。結局、俺はただの臆病者だ。決意なんて、状況が変わればすぐに揺らいでしまう、脆いものだった。

彼女の姿が小さくなっていくのを、俺はただ見送ることしかできない。夕日が彼女の輪郭を溶かしていく。この世界から消えていってしまうようだった。

違う。消えるのは彼女じゃない。このままじゃ、俺の視界から彼女が消えるだけだ。胸の奥で、今日生まれたばかりの感情が、確かな熱を持って疼いた。

明日こそは。今度こそ、本当に。

俺は夕日に染まる空を見上げ、もう一度、今度はもっと強く、心に誓いを立てた。

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