目覚め
こんな夢を見た。
じっと立ったまま、斧を握りしめていると、仰向けに寝た老婆が、しゃがれた声で「ひとごろし」と云う。老愛は白髪まじりの髪を床に広げている。
老婆の目は今にも飛び出しそうにこちらを見ている。灰色にくすんだ類の底に冷たい紫紺の血管が浮かんで── 「死人」と形容するのが最もらしい。
老姿は「ひとごろし」と云う。濃紫色の蚯蚓みたいに気色の悪い唇をもぞもぞと動かした。二匹の姫蚓の隙間から、黄ばんだ歯が垣間見える。
自分はそれを見て、埋めなければと思った。この老婆をどこか見えないところに仕舞わなければならない。そう云う強い念が私の精神の奥底から浮かんできた。
私はそれから庭に降りて、埋める場所を探した。大きな丸い石の下に埋めようと思った。そこなら誰にも見つけられないと思った。
私は大きな丸い石をどかし、手で穴を掘った。土を掘るたびに蚯蚓が沢山出てきて、気色悪かった。田んぼを植える時の土の匂いがした。しばらく掘った。
老婆をその中に入れた。そして土を戻した。それから、大きな丸い石を戻した。
「よかった」と思った。
意識が戻ってきた時、私は自分が裸で、奇妙な感触の上に寝ていることに気づいた。
硬くなく柔らかくないものが、私を支えているように感じた。
皮膚にざらつくような砂の感触がした。私の下敷きの物体の冷たく乾いた感じがした。
何だろうか。私は大きく息を吸って、目を開けた。
と、薄明かりのなかにごつごつと歪曲した岩が見え、それが壁や天井なのがわかった。洞窟という言葉が頭に浮かんだ。
それから上体をゆっくりと起こし、自分の体を確かめた。足や手に欠損はなかった。痛むようなところもない。安堵の息を吐いた。
すると、体の下にあるものが目に入った。自分が何の上にいるのかわかった。私は死体の上に寝ていた。1人や2人ではない。沢山の死体の山の上に私は寝ていた。
と、薄明かりの向こうから怯えたような顔をした誰かがやってきた。その誰かはすぐさま私のところ(死体の山)に駆け寄り、大きく声を上げた。
「生きている!生きているのか!」
「まぁ、はい」
声の主(誰かさんと呼ぶことにする)に私は胡乱げな目線を向けながらも、小さな声で答えた。
誰かさんが私の返答を聞いたどうかはわからないが、すぐにどこかへと走り出していった。
ここはどこだろうか。問答をする暇すらない。どこか聞きたかったのだが。工場の床が抜けて、落下したのだと思い出した。
となれば、ここは工場の下か。工場はなぜ崩落したのだろうか。そして、直前に色々なものが帯電したのはなぜだろうか。
まあ、なにはともあれ死体の山から降りよう。死体の隙間や、手とか足とかを握りながら、ゆっくりと降りて行った。 地面は見たままの感触で、岩のゴツゴツした感じと、砂の感触が足裏から伝わった。
この死体の山は、私と共に働いていた労働者諸君だろうか。かわいそうに。見た感じでは、死体の山の構成する者らは、かなり出血が激しいのか、赤く染まっているのがほとんどだった。
それから、私は意識を失ったものの外傷がないことに疑問を抱いた。
さて、ゆっくりと死体に背を向けて歩き出す。この場所はどうやら洞窟のようになっているらしい。元々、工場の地下にこのような洞窟があったのだろうか。疑問と共に足を進める。
幸いにも、折り重なった死体が放置されているところからは、一本道でどこかにつながっているようで、誰かさんの跡は追えそうだ。
壁に吊るされた貧相な電球が頼りなさげにチカチカと点滅をしながらも、足元を照らす。どうやら、これは新たに設置したものらしい。その電球かと思ったものは、工場の警告灯であり、ケーブルは見覚えのある絶縁部分が緑色に巻かれたものを使用している。
となると、やはり先ほどの人も労働者であり、崩落に巻き込まれたのだろう。などと考えながら、裸足のまま一本道を進む。。




