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【本編完結】君のために僕は人を捨てた【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第三章 君に捧げる

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10 黄金の原木を狙え

 生ハムは数日の熟成を経て、いよいよ乾燥しながら熟成にかける最終段階に入った。


「よーし生ハムー!いよいよ最後の熟成だー!」


 なまはむー

 ふぁいっおー


 表面の乾燥を防ぐ油を塗る。これはフタツノイノシシを解体した時に出てきた脂身から作った油を使った。


 てかてかだー

 なまはむうううう


「ここの熟成をじっくり進めると、おいしくなるんだって」


 ひゃっほう

 じゅるり


「湿度も温度も、この洞穴の状態が合ってるみたいなんだ。だから結界は時間の進行を早めるものだけ張るよ。みんなで生ハムがおいしくなる様子を見守ろう」


 わかったー

 やったー

 たのしみだー




 生ハムの熟成の様子を見守りながら、僕は合金の錬成のための準備に入った。

 携帯用の釜を磨き上げ、材料が揃っているかを確かめる。


 まずは銀。あと、パルディームも。毒見用なら欠かせないだろうとメルグリス様が最高品質のものを持たせてくれた。

 そしてここで生成した深淵の森の主の毒。

 最低限でシンプルだけど、基本はこれ。


 残りはたぶん、状態に応じて何かを入れる感じになるだろうな。

 精製した時に出たものも全て残してある。同じ主から採れたものだから拒絶されることはまずないはず。


 材料は釜の中で僕の魔法を使って融解させる予定だけど、もしかしたら火の精霊たちに力を借りたほうが良いかも知れないなあ。


 全部僕がやらなきゃと思っていたけど。

 精霊たちがまさかの友だちになってくれたから、力を貸してくれるならお願いしよう。


「あとは足りないものはあるかな……」

 地面に並べた材料を見ながら考え込んでいるところに、精霊たちがやってきた。


 いおるむー

 いいにおいがしてきたー

 なまはむー


「ええ?……ああ、本当だね、ちょっと香りがしてきた」


 まだなのー

 まだだめなのー

 なまはむー


「熟成はしっかりさせたほうが良いってチルギ様が言ってたから、それまでは干し肉で我慢してくれると嬉しいなあ」


 うううなまはむうう

 なまはむパーティいいい


「食べ頃になったら、みんなで食べようね」


 わかったぁ

 なまはむ……



 熟成していく原木を見ながら物欲しそうにする精霊たちを微笑ましく思いながら、最終調整をする日々を送った。

 ユークにさんざんやらされた、魔法属性が違う結界の同時展開を日が出ている間ぶちぬきで続けて力尽きてみたり。

 洞穴から少し離れたところにある滝に行って、ただ静かに滝を眺める時間を過ごしてみたり。

 精霊たちと鬼ごっこをして転移魔法を使いまくって全員つかまえてみたり。


 この錬成は僕の人生の集大成になる。


 だから絶対に成功させる。

 そのためには僕自身が一番いい状態である必要がある。

 人間社会なんていくらでも黙らせられる。

 でも、魔女や魔法使いを納得させるにはこの錬成を成し遂げる以外に思いつかない。



 ふふ、でも、それも正直どうだっていいんだ。

 僕の世界に色をつけてくれたリリスが笑ってくれるなら。

 僕に世界を見せてくれたユークたちが喜んでくれるなら。

 別に他は、どうだっていい。


 みんながいなければ、僕はここで精霊たちと出会うことも、一緒に何か(なまはむ)を作り上げることもなかった。



 新月の前の晩。


 わくわく

 なまはむ

 なむはむ


 精霊たちの期待の眼差しを一身に受けながら、生ハムの仕上がりを確認する。


「……うん、大丈夫そう」


 やったー

 なまはむ

 なまはむ!


 なまはむだー!!


「今日は、生ハムパーティーにしよう」



 主が最期を迎えた洞穴の一番奥。

 真ん中に原木を置く。

 表面を切ると赤い部分が見え、固唾を飲んで見守っていた精霊たちがわっと歓声を上げた。


 薄く切り出したものを、精霊一体に一枚ずつ渡していく。


「フタツノイノシシさん!」


 ありがとうございます!!


「深淵の森の主様!」


 ありがとうございます!!


「……みんなお待たせ。どうぞ、召し上がれ」


 いただきまーーす!!!



 おいしーい

 おいしいねー

 みんなでつくったからだねー

 てまひまってだいじだねー

 すてきだねー

 おいしいねー


 みんながわいわい言いながら生ハムを食べている様子を、ぼんやりと眺める。

「……できちゃったなぁ、生ハム」


 生ハム作りに集中する時間があって良かった。

 ただ十日、新月を待っているだけだったら、いくら精霊たちがいたとしても気持ちが張り詰めておかしくなっていたかもしれない。


 生ハムを一枚切り出し、口に入れる。

「……うん、おいしい」

 チルギ様、これで納得してくれるかなあ。王族である僕が納得してるんだからチルギ様にも満足して欲しいところだよなあ。



 はーおいしかったー

 おなかいっぱーい

 なまはむさいこー

 なまはむばんざーい


 満足した精霊たちが、僕の近くに寄ってくる。


 イオルムー

 そとにいこうー

 みんなまってるー


「みんな?」


 精霊たちについて、洞穴の外に出る。

 洞穴の周りを、森の精霊だけでなく、魔獣たちも集まってぐるりと取り囲んでいた。


 イオルムー

 ありがとうー

 ありがとうー

 これうけとってー

 みんなからのおれいー


 ホノオグマがゆっくりと近付いてくる。

 その背中に乗っていたものを、精霊に促されるがままに手に取った。


「……!!」


 イオルムはなかまだよー

 ぼくたちのなかまー

 たいせつななかまだよー


「……うん、ありがとう。僕にとっても、みんな大切な仲間だよ」



 空を見上げる。

 新月目前の夜空は、満天の星が痛いくらいによく見えた。

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