04 精霊さんこんにちは
チルギ様に言われていた。
『お前、絶対精霊に目をつけられるから、仲良くしとけよ』
やっとこっちみたー
ひさしぶりのにんげんだー
でもなんかこのこへーん
「……変?」
わーすごーい
ことばつうじるー
やったーやったー
あそぼうあそぼうー
「ええとごめん、ちょっと待って。なんで結界解けてんの?」
こわしたー
じゃまだからー
むしされるからー
こわしたー
「ええええ……」
あそぼー
あそんでー
たいくつだったのー
やっとあそべるこがきたー
泥だらけになりながら、よっこいしょと立ち上がる。
「僕が魔法を使ったのが気に入らなかった? それとも、嫌だったのは結界だけ?」
けっかーい
けっかいだめー
かくしごと
よくなーい
「……そっか、ごめんね。濡れた服を綺麗にしたいんだけど、魔法を使ってもいい?」
いいよー
しかたないねー
どろんこたのしいのに
もったいないねー
「嫌なものは嫌なんだよねぇ……」
ここまで泥だらけになってしまったら一度完全に洗ったほうがいいだろう。
水魔法で僕の身体が丸ごと入る球体の水を作ると、その中に飛び込み水流を操って汚れを落とす。
魔法を解除すると全身びっちょびちょの僕が仕上がった。
「じゃあ今から乾かすね」
と風魔法を使おうとすると、
あーそれとくいー
ぼくたちがやるー
ぬれなくなればいいんだよね
精霊たちが一斉に話しかけてきた。
「え? やってくれるの? うん、濡れてると気持ち悪いし風邪をひいちゃうから、乾かしたいんだ」
わかったー
やっちゃえー
そーれー
精霊たちが緑と赤に光った次の瞬間には、身体中に温風が巻きつき、しばらくして服が完全に乾いていた。
「わーお、すごいね! ありがとう」
ふふふー
とくいわざー
まかせてー
クルクルと精霊たちが回ってみせた。
「そうだ、僕はイオルム。イオルム=ウルフェルグ。君たちの名前は?」
なまえないのー
みんなでひとつー
つよいこにはなまえあるー
「へえ、そういうもんなんだ。よろしくね、みんな」
よろしくー
よろしくイオルムー
あそぼー
「うーん」
遊ぶにも、まだ空は真っ暗なんだよなぁ……
「明るくなってからでも良い?」
えー
やだー
あそびたーい
「明るくなってからの方が、僕はいろんなことができるよ」
いろんなこと?
たとえば?
「水遊び、とか?」
みずあそびー
さっきのふくきれいにしたやつ
あれとびこみたーい
「うんうん、良いね。明るくなってからだと、もっと複雑に大きいのができる」
わー
すごそーう
やってみたーい
「うん、そのために僕、もう少し眠って力を蓄えたいんだ。良いかなぁ」
いいよー
しかたないねー
あしたあそんでねー
「わかった。あ、結界はダメなんだよね?」
だめー
かくしごとだめー
「隠さない、守るだけの結界は?」
それならいいかなぁ
やってみてー
「わかった」
認識阻害のない、純粋な結界を展開する。
「これならどう?」
いいよー
やだなぁ
きもちわるーい
もっとそばにいたいよー
「……君たちが、僕を魔獣とかから護ってくれるなら、これもなくすよ」
わかったー
まもるー
だからけしてー
「わかった。君たちを信じるから、僕のことを護ってね」
はーい
りょうかーい
彼らの言葉を聞いて、結界を完全に解く。
「これで良いかな?」
いいよー
おっけー
「ありがとう。じゃあ僕はもう少し眠るね。明日になったら、君たちのことをたくさん教えてね。おやすみ」
おやすみー
おやすみイオルムー
あしたたくさんあそんでねー
この調子だとめちゃくちゃ遊ばされるんだろうなあ。
水の寝袋を作り直してもう一度くるまる。
すぐそばに精霊たちが集まってきたからか、暖かい。
再び目を閉じると、あっという間に眠りの世界に吸い込まれていった。
イオルムー
おきてー
おきてー!!
目を開ける。
大量の光の粒がわらわらと僕の周りに集っていた。
「うわ! いっぱい!」
おもしろそうなこ
にんげんのこ
あそびたーい
イオルム あそぼー
あそぼー!!
「わかってるから、ちょっと待ってね」
寝袋から降り、寝袋を消そうとして気が付いた。
「これ、ぽよぽよしてみる?」
ぽよぽよ?
どんなのだ?
水の粘度を上げる。そしてそこに飛び乗ると、ぽよん、と僕の身体が跳ねた。
「ほらね」
わー
ぽよぽよだー
とつげきー
精霊たちが突っ込んで行った隙に、固く焼いた携帯食を口に放り込み、身支度を整える。
一帯を霧状の水魔法で綺麗にすると、「お待たせ」と声をかけた。
これたのしー
ぽよぽよー
「それはよかった。早速だけど、夜に話してたざぶざぶのやつ、やってみる?」
やるー
ざぶざぶー
「オッケー、任せて」
水で大きな球体を作る。
外から見てわかるように、水でうねりを作り出す。
「さあ、どうぞ」
やったー
とびこめー
それいけー
色とりどりの光の粒が、水球の中に突っ込んでいく。
波やうねりに揉まれて、精霊たちがキラキラときらめく様子は、なかなか幻想的だな。夜はもっと映えるんだろうけど、それはまた今度。
ぶぶぶぶぶぶ
ひゃーすごーい
ぐるぐるするー
ぶぶぶぶぶぶぶ
「ふふ、楽しい?」
たーのしー
ぶぶぶばばぶぶぶ
すごーいイオルムー
ひとしきり遊ぶと、精霊たちは満足したのか水から飛び出してきた。
ひゃーすごかったー
おもしろかったねー
イオルムありがとー
「どういたしまして。
ところで僕、ウルフェルグ側からずっと歩いてきたんだけど、昨日この辺に来るまで君たちいなかったよね? この辺りからが君たちのすみかなの?」
ちがーう
はしっこにもちょっといるー
へんなこがいるってー
まほうつかうへんなこがいるってー
あっちのこがしらせてくれたー
「端っこにもいるの? 気付かなかったなぁ」
ようすみー
かんさつー
みきわめー
「ああ、なるほど。僕を見てたってことか」
そうー
もりのおくにくるやつー
へんなのおおいー
わるいひとー
しににくるひとー
ぼくらをねらうひとー
たくさんいるからー
「そうなんだね。それで僕は遊んでもいいって思ってもらえたってことかな」
そうー
おもしろそうだからー
あとチルギのにおいがしたからー
「チルギ様の……ああ!」
魔獣の死体から魔力と魔素を抜く魔道具を出すと、わっと精霊たちが集まってくる。
チルギのにおいー
ひさしぶりー
「これはチルギ様から借りてきたんだ。僕はこの森の主に会うために来た」
ぬしさまに?
どうしてー?
「主を……狩りに来た」
かりってころすってことー?
わーぬしさまー
でもぬしさまげんかーい
げんかいみたいだったー
ぬしさまずっとみてないー
「見て、ない?」
みてなーい
かくれてるー
ぬしさまつらそうだったー
ぬしさまいっぱいいっぱーい
「辛そう?いっぱいいっぱい?
……というかみんな、僕が主を狩ることについては反対とかしないの?」
しないよー
じゅんばんだからー
せつりなのー
「順番……?それって、倒したやつが次の主になる決まりとか、ある?
そういうのじゃないー
すぐこうたいじゃないからー
もりがつぎのぬしをまつのー
「なるほど、そうなんだね。すると、僕が今の森の主様を討伐すること自体は、問題ではないってことでいいのかな」
それがうんめいならー
うけいれるだけー
「……ふうん」
つまり、チルギ様が言っていた『毒は熟していい頃合い』というのは出まかせでもなんでもなく確定事項。
「僕が来ようと来まいと、主の討伐は時間の問題だったってことか……。
ところで主を殺すのは人間とは限らないのかな?」
かぎらなーい
つよいまものもくるー
うでだめしー
どうじょうやぶりー
けっとうー
「おお……」
なかなかおっかない世界らしい。
でもぬしさまかくれてるー
さがしてるー
じぶんをたおしてくれるやつー
「倒してくれるやつ、か。僕がそれに見合えば良い……いや、見合うと認めてもらわないといけないんだ。僕の大切な女の子のために」
おんなのこー?
かのじょー?
かたおもいー?
「こ・ん・や・く・しゃ! ちゃんと両想いですうっ!!」
りょうおもいー
きゃー
そのこはどうしたのー?
「……眠ってる。毒に冒されたんだ。解毒は済んでるけど、まだ身体が回復してない」
きゃー
たいへーん
でもなんかへーん
どくをのんだこにどくがいるの?
「ああ、うん。そう。もう毒に怯えなくて良いように、毒見の魔道具を作りたいんだ。そのために、世界で一番の猛毒を手に入れたい」
あー
ぬしさまのどくー
きょうれつだからねー
もうどくだからねー
でもイオルムたいへんだよー?
「大変? 大変なのはわかってるつもりだよ」
そうじゃなくてー
しんじゃうよー?
「死ぬ?」
ぬしさまのどくはすごーい
わるいやつをとかすのー
きえてなくなっちゃうー
「……溶かす、か」
かなり強い毒性があるのは間違いなさそうだ。
「消えてしまうなら、そこまでだよ。その覚悟は、ある」
すごーい
みんなちからくらべなのにー
すきなおんなのこのためにー
がんばるイオルムー
すてきー!!
「素敵かなあ? ありがとう。僕、リリスのためにここに来たからさ。僕のせいで、リリスは毒を盛られちゃったんだ。だからもう、同じ思いは二度とさせないって決めたんだ」
だから、なんとしてでも認めてもらわなくちゃいけないんだ。
そっかー
ぬしさまでてきてくれるといいねー
「……うん、そうだね」




