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【本編完結】君のために僕は人を捨てた【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第三章 君に捧げる

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02 最凶の猛毒

「なるほど、毒を触媒にした魔法合金か」

 僕の考えを聞くと、メルグリス様はしばらく考え込んだ。

「……理論上は可能じゃ。おそらく毒見としての性能も高いものになる、しかし毒か。毒を以て毒を制する、よく考えたもんじゃのう。

 それで、次はどうする」


「世界で一番の猛毒を探します」

「探す?」

「より強い願いと意図を込めるなら、買ったり貰い受けたりするんじゃなく、自力で手に入れた毒が必要だと思います」

「なるほどのう。……しかし、毒を触媒にした魔法合金は今まで聞いたことがない。成功するかは未知数。まずは手に入る毒で試作をせい。並行してお前さんが求める猛毒を探すんじゃ。くれぐれも焦るなよ、ヨル坊」

「はい」



 まずは基本的な魔法合金の作り方から調べた。一般的にはオオカミ系の魔石を混ぜることが多いらしい。理由は強度と入手しやすさ。

 銀は万能で、魔石の組み合わせの相性はほとんど気にしなくていい。あと、今回は装飾品として加工する予定だから、パラディームも使う。


 十六階は引き続き使っていいと許可が降りた。

 メルグリス様と話した翌日、ごそごそと合金を作るための道具や材料を準備していると、弁当の包みを持ったトメキがやって来た。

「やあ、次は何をするの?」

「魔法合金を作ろうと思って」

「魔法合金?」

「うん、毒見の魔道具にすることにしたんだ。だからまずは試作から」


「なるほどねぇ。また手伝いが必要なら言って」

「ありがとう。あ、今日の弁当なに?」

「ブリトーだったよ」

「ブリトー?」

「薄く焼いた生地で具材を巻いたやつ。今日は甘辛牛肉と野菜が入ってる人気の組み合わせだから、気になるなら急いだほうがいいよ」

 甘辛の牛肉……想像したらお腹が急に空いてきた。

「ええ……それすごくおいしそう、すぐ行く」


 急いで食堂に降りて行ったが、ブリトーはすでに売り切れていた。しょんぼりしながら頼んだチャーシューメンが意外とおいしくて、スープも飲み切った。完飲というらしい。

 また食べようと思いながら十六階に戻る途中で、シャオと出くわす。


「イオルム、次は魔法合金ですって?」

「ああ、うん。メルグリス様に聞いたの?」

「ええ。魔法合金なら魔石も色々試すんでしょ?魔石師のチルギ様、今日はいらっしゃるから紹介できるわよ」




「あー、お前がイオルムか。今お前有名だぞ」

 連れてこられたのは十八階。中にいたのはボロボロの作業着にボッサボサの髪をした眼鏡の男性だった。見た目は若い。

「俺はチルギ。刻光(こっこう)の称号持ちだ。こう見えてメルグリスとあんまり歳変わらないから、敬えよ」


 十八階の魔石室は加工用の機材が部屋の大半を占めていた。

「悪いけど座るとこはないから、話があるなら立ったままで頼む」

「あ、はい。この前はミミミズクの魔石粉末、ありがとうございました」

「あー、良いのいいの。ちょうど粉末加工機動かしてたし、使い道を聞いたらアレが自分を使えって言ってきたから」

「アレ?」

「ミミミズクの魔石。俺は魔石の声が聞ける。お前、素材の声が聴こえるって言ったんだろ?似たようなもんだ」

「ああ、なるほど」

「んで、次は何やんの?」

「魔法合金を作ろうと思ってます。毒見の魔道具を作りたいので、触媒に猛毒を使うつもりです」


「……面白え発想だな。猛毒ってどんなの考えてんの?」

「世界で一番凶悪な、猛毒を。自力で取りに行こうと思って」

「ハッハー、やばいなお前!ユークリッドが気にいる理由がわかるわ。

 俺は自分で魔石採集するために魔獣狩りに行くからな。心当たりがあるぜ、猛毒」



「えっ」

「この大陸のど真ん中、どこの国にも属さねえ森があるのは知ってるか。深淵の森って呼ばれてる」

「ああ、はい。僕の国も面してます」

「そこの主といわれる大蛇がいる。あの森は大陸中の怨嗟を集める魔の森だ。主は怨嗟を全て飲み込んで森を浄化し、その体に毒を蓄える。今の主は百五十年くらい変わってねえ。熟していい頃合いだろうよ」

「……」


 僕の顔を一瞥して、チルギ様が続けた。

「主は滅多に人の前に姿を見せない。あと、あの馬鹿でかい森だ、入ったまま戻って来ねえやつらも腐るほどいる。文字通り命懸けだ。だが、お前の願いに見合う毒であることは間違いないだろう。

 何もなければ一緒に行ってやっても良いんだが、あいにく俺は魔石採集から帰ってきたばっかりだから加工待ちのやつが大量にあって離れられん。……よく考えて決めろよ? 決まってる顔してるけどな」


「ありがとうございます、チルギ様。ちなみに、その主、魔石も採れますか?」

 僕の質問に目を丸くしたチルギ様は、すぐに真顔に戻り、ニヤリと口端を持ち上げた。

「採れる。加工しやすさは保証できねえな……多少でも持って帰ってきたら装飾品用に加工してやるぞ」

「ありがとうございます。指輪にするので、その時はよろしくお願いします」

「上等。待ってるからな。死ぬなよ」

「はい」



「……というわけで深淵の森に行くことに決めました」

 僕の報告を聞いて、メルグリス様が深いため息をついた。

「お前さんもチルギも血の気が多くて似た者同士じゃのう……。チルギが言う通り、深淵の森の主ならお前さんの願いを叶えられるだけの力はある。しかし数年見つからん可能性もある。

 ……お主なら自分で毒の研究を始めれば一年経たずに猛毒が作れるようになるじゃろう。それでも、取りに行くか?」


「行きます」

「それならば止めはせん。ただし、魔法合金の基本的な作り方はしっかりここで実践して叩き込んでから出ること。準備も怠らんようにの」

「はい、ありがとうございます。メルグリス様」



「そういうわけで、次の行き先が決まったよ」

 様子を見にきてくれたユークに告げる。

「……お前、早えよ」

 ユークがくしゃくしゃと自分の頭を掻きむしった。

ウルフェルグ国王陛下(おまえのおやじさん)から連絡が来てた。イオルムを頼むってな。どうする?なんて返しときゃ良い」


「考えとく。ないとは思いたいけど、最悪のパターン(ぼくがしぬかのうせい)もあるからね。出るまでに決めるよ」

「わかった。しっかり準備して行けよ。たとえ普通の森でも、一人で、しかも無期限で入るって相当キツいからな」



 出発まで毎日、銀ベースの魔法合金の作り方を徹底的に練習した。魔石の種類はチルギ様に相談しながら、あれこれと試す。同時に、毒も手に入る範囲で、毒の強さも変えながら数種類試した。

 動植物から採れる毒の方が出来上がった合金が加工しやすく、鉱毒や化学的に調合した毒を使うと耐久性が上がることがわかった。



「イオルム、ちゃんと寝てるかい?」

 食堂で食後にテーブルでつっぷしていると、アルディナが隣に腰掛けた。

「あ、ああ。うん、ちょっと寝不足気味かな……試作が大詰めなんだ」

「あんたが作った合金はうちで加工してるからわかってるよ。どれも良い仕上がりだった。レポートもきちんとまとめてくれてるから、工房でも再現もできるし助かるよ。だけどちゃんと休みな。事故につながる」

「ああ、確かにそうだね。ありがとうアルディナ。今日はちゃんと寝ることにする」


「……心配だねぇ」

 わかる。僕も寝るって言っておきながら寝ない気がするから。

「それなら俺が見張ろう」

 声がして振り返ると、そこには解体修理の時にアルディナと一緒に作業を見てくれたバッシュがいた。

「バッシュ?」

「お前が寝てるかみんなで見張る。それならどうだ」

「えええ……見張るの……」

「そうでもしないと寝ないだろう」


 この話はあっという間に広まり、夜寝る頃には十六階に十人ほどの人が集まっていた。

「……こんなに見られてたら、逆に眠れないよ……」

「でも、誰もいなかったら絶対徹夜で作業するでしょ?」

 寝袋を抱えたトメキが笑っている。

「なんか、パジャマパーティーみたいね」

 シャオも笑っている。

「ねえ、せっかくだから、婚約者の話、聞かせてよ。そんなにイオルムが一生懸命になるほど大切な女の子、どんな子なんだか聞いてみたいな」




「……ってなわけでリリスめちゃくちゃ可愛いんだよー!!お茶会で棘があること言われても十倍百倍にして返しちゃうの!もう苛烈で惚れ惚れしちゃうー!!」


 水魔法で作った枕を抱きしめながら叫び、周りを見回すと、ぽかーんとする人が半分、明らかに引いてる人が半分だった。

 ……いや、わかってる、ちょっと? だいぶ? おかしい自覚はあるよ……。


「えーと……イオルムにお似合いの人なんだっていうのは、よくわかった」

 トメキが苦笑いしている。

「そうね、たぶんイオルムだから釣り合うんだなと思うわ」

 シャオが肩をすくめた。


「ふふ、聞いてくれてありがとう。なんか今日はリリスのいい夢見られる気がしてきた」

 話を聞いてくれたお礼に、全員分の水魔法ベッドを作る。

「それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみイオルム、抜け出しちゃダメよ」

「抜け出さないよお。第一僕、ど真ん中じゃん。絶対バレる」


 はははっと部屋の中に笑い声が溢れた。

「おやすみみんな、良い夢を」


 目を閉じると、疲労感がずっしりと身体にのしかかってくる。

「……リリス……」

 毒の苦しみは抜けたかな? 穏やかに眠れているかなあ。早く、会いたいな。


 気がつくと外は明るく、先に起きていたみんなが朝食のおにぎり弁当を準備してくれていた。

 念願のきれいな三角おにぎりは、めちゃくちゃおいしかった。

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