11 祭りのあと
ルルが結界を解くと、メルグリス様とシャオが並んで立っていた。他には人払いがされたのか、誰もいなかった。
「……手間をかけさせたの、クリ坊、ルル」
「んにゃ、こっちこそ長いこと爺さんたちに面倒かけさせて悪かった」
「申し訳ありませんメルグリス様、もう少しで塔を壊してしまうところでした」
「ほっほっほ、ボロい塔じゃがルルの気持ちひとつで崩壊するほど脆くはないぞ」
メルグリス様はそう笑うと、コヌムを一瞥した。
「シャオ、これは懲罰房に放り込め」
「はい、老師」
シャオが鈴を鳴らすと、コヌムの姿はいつかの野郎たちと同じように、ここから消えた。
メルグリス様がこちらを見る。
「ヨル坊、まだ間に合うと言うておったが、あれはまだ間に合うかのう?」
「んー、どうですかねぇ、漏らしちゃうくらい怖かったみたいですから、心を入れ替えられればいけるんじゃないですか?」
「ふぉふぉ、本人次第ということか」
「当然でしょ、僕だってめちゃくちゃ努力したもの」
「まあ、それもそうかのう。
……クリ坊、あれの処置はどうする」
「……精神干渉魔法を使うのは最後の手段だ。今回は怖い思いしただろうから、バングルもう一回はめて様子見にする」
「そうか。わかった。もうしばらく預かろう」
「すまねえ」
「……次に迷惑かけたら呼んでください。あたしがやります」
「ルル。そこまで気負わんで良い。お前はよくやっておる」
「……はい、メルグリス様」
「じゃあ俺たち帰るわ。イオルム、残り頑張れよ」
「ああそうだね。勝負の相手は消えちゃったけど、残り五つ、今日中に片付けるよ」
「イオルム殿下、また遊びに来てくださいね」
「もちろん。ルル、気を落とさないでね」
「……はい、ありがとうございます」
ユークがパチンと指を鳴らし、二人は消えた。
「はーあ、僕なんもしてないなぁ。メルグリス様の期待に応えられなかったなぁ」
両手を頭の後ろで組む。
「いや、期待以上じゃった」
「ええ!? どの辺が?」
「ルルを止めてくれたからのう」
メルグリス様の顔を見ると、とても優しい顔をしていた。
「知っておろうが、あれは自責が強すぎる。お前さんより遥かにな。あれが揺らぐと、世界が揺らぐ」
「ああ、そういうこと。うん、そうだね。ルルを見てると、もっと自分に優しくしても良いのに、って気持ちになるよ」
「お前さんもな。それよりあと五つ早く仕上げててっぺんに来い。待っておるからのう」
「はぁい」
そして、夜。
最後の一つに決めた大型の投影用魔道具を丁寧に解体する。僕の肩くらいまである、古くて大きなタイプ。魔法で外装を丁寧に外しつつ、部品を材質ごとに異なる洗浄剤で洗い、乾かす。
「……あれ」
小さなパーツが落ちている。これが外れたから動かなくなったのかな?と考えながらつまみ上げると、それは小さな飴の包み紙だった。世界中で売ってる、子ども向けの飴。
「どこかの隙間からねじ込んじゃったのかな」
「……映写機に、食べさせたかったのかもしれないね」
そばで見ていたトメキが笑う。
「そうかも。ふふふ、これからもたくさん、ちっちゃい子たちのために頑張ってね」
基盤には、少し術式と回路を書き足して効率を上げる。基盤用の魔石を交換して、外装をネジで留めた。
フロアの照明を消し、スイッチを入れる。
初期映像に設定されている満点の星空が、筒状になっている塔の壁に映し出された。
「お疲れ様ー!」
「ほんとに三日でやっちゃったねー!」
「これ見ながら酒飲もうぜ、酒!!」
作業道具や机を片付けて、終わりを見届けてくれたみんなとお祝いをした。
とりあえず、寝室の環境は改善されるとシャオから聞いて安心安心。
あ、僕、今日からどこで寝ようかな。
そんな心配をしたけれど、お祝いは朝まで続いてしまって、寝床の心配は杞憂に終わった。




