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【本編完結】君のために僕は人を捨てた【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第二章 誰がために

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09 溶かして固める

「効率化できるところはして、丁寧にやるところは丁寧にやるね。思わぬところで勝負事になっちゃったからスピード上げると思うけど、どうする?記録用の魔道具とか、もし必要なら付けてもらって構わないから」


「わかったわ。確認する、たぶん付けることになると思う。デザートも寝室も死活問題だもの」

 シャオがうなずいた。



 下働きってどれくらいさせられるのかなぁ……一生って言われちゃうとさすがに困るから、やっぱり勝たないといけないよね。ふふ。


「楽しくなってきたなぁ」

 思わず舌なめずりしてしまう。ああ、ダメダメ悪い癖。リリスにもたくさん叱られてきたのに。

 ……また、叱ってもらいたいな。リリス。


 ぶんぶんと首を横に振る。

 今は目の前のこと! リリスはちゃんと目覚めるから心配しない!!


 昨日受け取っていた素材が違う同型のパーツ、そして補強剤を作業机に並べる。

「あと何かあった方がいいものってある?」

「……たぶんだけど」

 アルディナが手を挙げた。

「その二つの素材を繋ぐ添加剤があった方がいい。そのパーツ自体が大きくないから本当に量は少し」


「ああーなるほど……薬剤系かな?それとも、魔物のにかわとか?」

「補修キットの中にどっちもあるわよ」

「ありがとう、見てみる」


 補修用の道具が入った箱から、添加剤を出す。薬剤か、もしくはにかわか……金属だけど、この際何でできているかはあまり関係ない、問題は合うか合わないかだ。


 少しパレットに取り二つを眺めて比較する。

「あ」

「どうしたの?」

 夜中に使っていたインクの瓶を取り出す。

「一滴の半分だけ入れよう。あとはにかわも小指の先くらい。たぶんこれでいける」


「根拠は?」

「魔石と混ざってる溶剤の方がたぶん魔物同士でにかわと相性がいい。あと、これの魔石はミミミズクだから繋ぎとしてもちゃんと働いてくれるはず。強度も高めてくれると思う」


「……面白い」

 バッシュがつぶやく。この人、普段から端的なんだろうな、話し方。


 新しいパレットににかわとインクを乗せて混ぜ合わせる。魔物からつくられたにかわにインクが反応したのか、ほのかに光った。


「よーしこれでやります!ちょっと離れてて、かなり温度上げないといけないから」



 二つの金属パーツ、そして作った添加剤と補強剤を、左手で作った球状の結界の中に入れる。

「いくよ」

 結界の中の圧力を高めパーツたちを溶かし、手首をひねりながら混ぜ合わせる。

 全てが均等に混ざり合うと、目を凝らして状態を確認した。


「……融点が思ってたより低い。これだと摩擦に耐えられない」

 たぶんもう少し何か素材を足す……足す、そうだ!


「来いっ!」

 右手で引き寄せたのはミミミズクの魔石の粉。加工が難しいこれなら、強度をあげてくれるはず。


「君の強さが必要なんだ。もう少し、使わせてね」

 粉を指で摘むと、左手の結界の上だけ穴を開け、そこからパラパラと振らせる。


「長く長く、君たちが良い仕事を続けられますように」

 結界炉の中で溶けた金属が強い緑色に光る。


「シャオ、見本ちょうだい!」

「はいどうぞ」

 右手で見本のパーツを受け取ると、形状を改めてスキャンして頭に入れる。


 見本を右手に、ドロドロの合金を結界炉ごと左手に、それぞれ浮かせて泳がせる。

「……よし」

 トレースした見本をもとに 、水魔法をベースに鋳造型用の土と混ぜ合わせて即席で作った型に流し込む。


 二つ分均等に流し込むと、はあああと長いため息がこぼれた。

「あとは型から出して細かいところ調整すれば良いと思う」



 ……あれ? だいぶ静かだけど。

 周りを見ると、みんながキョトンとしていた。

 シャオだけがニマニマと笑っている。


「おおおお!!!」

 バッシュが興奮気味にこっちに近寄って来て、僕の両手を硬く握った。

「すごい! すごいぞ! 感動した!!!」


「えっ、えっ!?」

「強度の上げ方! 咄嗟の応用! 素晴らしい!! 特に型を作る速さ!!」


 ああ、それは人を痛めつけるために勉強と実戦を積んでいたからだね……。

「ありがとう」

 でも、褒められたことには変わりない、素直にお礼を言う。


「合金の知識が既にあるってのが良いね。あたしは金属加工が専門なんだ」

 アルディナがうなずいた。

「だから今あんたがやったことのすごさはよくわかる。あれを理論と勘でやってるのは、もはやセンスだね」

「ありがとう、これで仮定通りの仕上がりになってれば良いんだけど……そろそろかな」


 型の温度を下げていく。パシャンと音がして型が水になり床に落ちると、二つのパーツが仕上がっていた。


「仕上がりはあたしが見ても良いかい? バリも取っておくよ。時間がないんだろう?」

「やってくれるの? 助かるよ。ありがとう。そうしたら組み立て始めるから、終わったらちょうだい」


「しかしよくこの数の結界を同時、しかも常時展開できるわね」

 シャオがため息をつく。

 

「ユークのしごき、めっちゃきついんだよ……大小さまざま、水と風と雷と、みたいな感じで、属性バラバラの結界を同時に十個二十個展開したまま八刻キープとかさせられるんだ。思い出すと吐きそう……」

「鬼教官……」


 結界からバラした部品を取り出して、組み立ての準備をしながら話し続ける。

「やり方ゴリラだけど、ちゃんと理屈はユークも理解してるから強いよね。公務で皇族の結界全部一人で張れるのも納得だよ」

「へえ」


「でも聞いて!そんな長時間キープさせる中で属性混合の結界作らされたり、リリスの話をさせられたり、ルルがどれだけ可愛いかとか聞かされたりするんだよ!?たまに魔力と集中力を削ぐために物理で雷も落ちるし、地獄だよ!?」

「惚気は地獄ね……」

「さすがルルだね可愛いねって言わないと怒るし、言ったら言ったで怒るし、ほんと何が正解かわかんないよねぇ……」

「…………ユークリッド殿下って、難儀な人なのね」



「お待たせ、バリ取れたよ」

 アルディナがパーツを持って来てくれる。

「元々あんまりついてなかった。見本のパーツと比べてみたけど、形の再現度も見本と遜色なかった。あれは長く使える」

「良かった、ありがとう」


「今度あたしの作業部屋にも来な。婚約者のために強い魔道具を作るんだろ?参考になるはずさ」

「うん!行かせてもらうよ」

 そう言ってアルディナは作業に戻って行った。バッシュは組み立てが終わるまではここにいるという。




「うまく合わせられたのか?」

 メルグリス様が顔を出した。

「はい、この通りに。アルディナにもお墨付きをもらいました」

「それなら問題ないのう。して、コヌムが来たと聞いたが」

「老師、明日夜までに三十仕上げられなかった場合、コヌムの気が済むまで下働きをしろと言い、イオルムが了承しました」


「……っかーっ、お前さん売られたケンカはことごとく買うんじゃのう」

「だってせっかく売ってくれたケンカじゃないですか。高値で買い取らないと。ね?」


 メルグリス様に近付き、そっと耳打ちする。

「それにメルグリス様、彼の扱い()()困ってたんじゃないですか?……心を折るのは僕の得意分野だ、任せてよ」

 そして顔を離してメルグリス様を見、にっこり笑ってみせた。


「なので勝ちまーす、負けませーん」


「……ほう、期待して良いのかの?()()()

「必ずや応えてみせましょう、剛砕のメルグリス様」

 これ見よがしに恭しく礼をして見せる。

「ふふ、よかろう。うまく転がしてみせい、イオルム」

「はぁい」


 じゃあますます、『格の違い』を見せてあげないといけないね。


「楽しくなって来たなぁ」

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