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【本編完結】君のために僕は人を捨てた【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第二章 誰がために

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06 驚きの白さ

 順調に解体洗浄(オーバーホール)は進んでいる。

 生活魔道具はほぼ終えた。


 ベッドサイド用照明魔道具

 据え置き型通信魔道具

 洗濯用水流制御器

 乳幼児感知センサー

 自動書記ペン

 食堂用簡易転移器

 など。


 ……だいぶやったと思う。

「じゃあそろそろ、基盤書くのをやろうかなあ」

「……イオルム、一度休憩したら?昼前からノンストップよ?もう日が暮れるわ」

 窓の外を見ると、下の方にぼんやりと夕焼けが見える。ほぼ夜だ。


「わー、やっちゃった。シャオありがとう、シャオも休憩して!」

「ありがとう。さっき、この後はトメキが入るって言ってくれたから、私は明日の朝からに備えてしっかり眠るわ。イオルムも仮眠はとりなさいよ」

「うん、ありがとう、そうするよ」


 うーん、と大きく伸びをすると、結界を解除する。外で見ていた人たちが近づいてきたと思ったら、修理を終えた魔道具を手に取り、しげしげと眺めた。


「すごい」

「作業は早いけど丁寧だったよね」

「水魔法ってあんな使い方もできるんだなあ」


 たぶん僕のやり方はセオリーからは外れている、そんな自覚はある。

「イオルム!」

 呼ばれて振り返ると、初めてみる顔の男の子が、さっき直した照明を持っていた。

「ささって修理しててすごくかっこよかった!今度やり方教えてね!」


「……うん、いいよ」

 なんだかむず痒い気持ちになりながら立ち上がる。


「俺も!」

「わたしもお願い」

 次から次へと話しかけられて、普段の王族用の笑顔とは違う引きつった笑顔で応えながら階段に向かった。


 さて、そのままにして出てきちゃった書庫を片付けてきた方が良いなぁ。

 食堂に寄ると、今日の弁当はおにぎり? という名前の携帯食だった。二個セットだったのでひと包みもらって書庫に入る。



「遅えじゃねえか」

 背後から声がして振り返ろうとした瞬間、僕の身体は突き飛ばされて床に転がった。

 見上げると、さっき僕に絡んできたズィトと、何人かの男が僕を取り囲んでいた。

「……何、逢引が図星で赤っ恥かいた逆恨み?」


 心がどんどん冷えていくのがわかる。

 適当にあしらってかわせば良いのに、それができない僕も、好きじゃない。


「うるせえな、お前が余計なこと言わなきゃ恥かかずに済んだんだよ!」

 蹴りがみぞおちに入る。肩や足、手も踏みつけられ、僕に馬乗りになったズィトに思い切り顔を殴られた。


「……っ」

 口の中が切れて、血の味が広がる。

 感情を忘れた目でズィトを見ると、わずかに怯んだのがわかった。

「……な、なんだよ」



「魔道具師塔って、もっとみんな魔道具に対して熱心っていうか、魔道具が大好きでここに来てるもんだと思ったんだけど、そうじゃない人もいるんだね」

「俺は魔道具なんてどうでも良い、家も継げねえし、たまたま勧められたから来ただけだ」


「ふうん」

 なんだ、つまらない。

「ここにいるみんな、そうなの?」


 ぐるりと見回すと、ズィト以外の男たちは躊躇いがちに目をそらした。

「目を合わせられないのが肯定か否定か知らないけど、先にケンカを売ったのは、君たちだからね?」


 はあー、嫌だ嫌だ。

 またユークに怒られちゃうかなぁ、それ以前にメルグリス様に追い出されちゃうだろうか。

 そしたらどうするか考えなくちゃ、リリスに顔向けできないもの。


「本に血が飛んだら綺麗にするの大変だなぁ」

 口元を手の甲で拭う。さて、どう処理するのがベストか。ここを追い出されちゃうと結構本気で詰むから、できれば避けたいよね。



 ()しちゃう? ……あーダメダメ、一番ダメ。

 一人殺したらもうあとは何人やっても一緒って話、あれ本当だなあ。抵抗感がまるでない。


 とりあえず穏便に済ませよう。身体は傷つけない方向で。

 一番心を折れる方法……ああ、でも折りすぎちゃうと、また逆恨みとかされてリリスを傷つけられちゃうかもしれない。


「手加減って大変だなあ」

「……さっきっから一人で何いってんだお前、いい加減に…」

 僕の顔を見たズィトが目を見開いた。



 鏡を見なくてもわかる。

 僕は今、嗤っている。



「うんうん、ごめんね?殖やせなくしてあげようかと思うんだけど、たぶん物理で握りつぶすよりは、気持ちの方で機能させられなくした方が、良いよねえ?」

「……ちょっ、お前……」


「ああ、大丈夫、自己処理はできるようにしてあげるから心配しないで。本番でだけお仕事できないようにしておくから」


 そういう風に精神(なかみ)を書き換えるだけ。簡単、簡単。

 魔方陣を展開して全員の動きを封じる。

「いや、待て、話せば」


「話す前に手を出したのは、そっちじゃないの?」

 魔方陣に魔力を重ね掛けして、あとは起動するだけ……




「はいストップ」

 ドアが開いて、シャオとメルグリス様が入ってきた。


「め、メルグリス様……」

 ズィトがホッとした表情を浮かべたのもつかの間、メルグリス様が杖をトンと床に突くと、僕も含めて書庫にいた全員が触手のようなものに囚われた。触手は天井近くまで僕達を持ち上げる。


「わっ!」

「メルグリス様あっ」

 ズィトを始めとした雑魚たちが叫び声を上げた。


 すごいなあ、あの杖、というかこの魔法。たぶん書庫の防犯機能を自分のモノとして発動したんだ。応用が効くとああいうこともできるんだな。



「……小僧、申し開きはあるか」

「ありません。ただ、先に突き飛ばされてボコボコに殴られました」

「……ふむ、なるほど、わかった。シャオ」

「はい、老師(せんせい)


「これらは全部返せ」

「はい、老師」


 シャオが懐から鈴を出すと、シャン、と手首をひねって鳴らした。

 次の瞬間、囚われていた僕以外の全員が瞬時に消えた。


「……わあ」


「とりあえず懲罰房に放り込みましたよ、老師。あとで報告書をつけてそれぞれの家に返品します」

「それで良い。……して、イオルム」

「……はい」


 メルグリス様の目が僕を射た。

()()()()?」




「……来たら面白いな、と思っただけですよ?」

 にやりと笑ってメルグリス様を見返すと、メルグリス様も同じように僕に笑い返した。


「……まあ良い。そろそろなんとかしなければならんところじゃったから、良い理由を作ってくれただけ礼を言おう。どうせお前さんは少しも傷ついてはおらんじゃろうからの」

「口の中が切れたのは本当ですよ。それ以外は防御魔法で相殺しましたけど」

 僕の言葉に肩をすくめ、「アグナが手を焼くのもわかるわい」とメルグリス様は独りごちた。



「シャオ、あやつらの処理を頼む」

「はい、老師。……イオルム、明日ね」

「うん。シャオ、面倒かけてごめんね」

「どうってことないわ。おやすみ」


 シャオが先に書庫から出て行った。

「あれは弟子の一人じゃ。この塔にはシャオも含めて三人の弟子がおる」

「意外といますね。みんな魔道具師ですか?」

「いや、シャオは厳密には魔道具師ではない。残りの二人は魔道具師、そのうち一人は称号持ちじゃ」

「へえ……ねえメルグリス様、僕ってやっぱり弟子入りは難しいです」

「ダメじゃ」

「……最後まで言わせてくださいよお……」


 トン、とメルグリス様が杖を突く。

 僕の身体がドサリと絨毯の上に落ちた。

「……ったぁ」



「小僧、お前は純粋すぎる」

「……それ、ヨランド様とデゼルにも言われました」

 腰から落ちたから結構痛い。右手で腰をさすりながらメルグリス様を見る。


「弟子入りのためには、魔力量や魔法のスキルだけじゃない、毒気が必要じゃ」

「毒気」

「純粋すぎる上に潔癖すぎるでの。その歳でそれだとたぶんこれからも弟子入りは無理じゃ、諦めい」



「……デゼルには、人間も魔女たちも黙らせるような何かを持てって言われたんですけど、メルグリス様、なんかヒントくれませんか」

 そう投げかけると、メルグリス様はじっと僕を眺めた。


「ぴゅあっぴゅあを貫くしか、あるまいのう」

「ぴゅあっぴゅあ」


「お前さんの純粋さは、人間にも我々(まじょたち)にも眩しすぎるのよ。じゃから変わろうとするな、弟子入りも勧めん。お前は誰かの下についてはいかん」


「……」

「もっともそれは、茨の道ではあるがのう」


 メルグリス様は僕に手を差し伸べて、こう続けた。

「そのぴゅあっぴゅあ街道を満身創痍になりながらひた走る、お前さんの応援団には加入させてもらうとするかのう。ほら立て、()()


 メルグリス様の手を取り、よいしょと立ち上がる。

 意外と足腰しっかりしてるな、階段の上り下りが良いんだろうか。


「……ありがとうございます、メルグリス様。で、応援団って他に団員は誰がいるんですかね」

「さあなあ……お前さんと面識がある称号持ちは、みんなそうじゃと思うがの」

イオルムはヨルムンガンド(イオルムンガンドル)から名前を採っているので、愛称のひとつとしてヨルを採用してます。

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