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第5話 起点

 配信に使用するアバターはベースとなる体形や身長、髪型だけじゃなく顔の各パーツも細かく設定することができる。


 ただし衣装やウィッグなどのレアアイテムに関してはガチャを引かなければ入手できない。天井機能でもあれば課金するのも(やぶ)かではないのだが青天井ということもあり課金しないことを決めた。


 無課金でも初期配布されている衣装等を上手く使えばそれなりのアバターを作りあげることができそうだ。問題はどんなアバターを作るのか。


 カッコいい、可愛い、笑える。サムネイルを見て配信ルームへ入室してくる人の割合が高いことから何らかに全振りした方がいいとファイバーからのDMに書いてあった。


 フォローしているファイバーと兎牙、二名のアバターはカッコいいと可愛いに全振りしているように見えた。それが全てじゃないし人気配信者を目指しているわけじゃないのだがリスナーが居なければ何も始まらない。


 初期配布されているアバターのパーツ一覧を眺めながら男アバターを三パターンほど作ってみた。アニメで登場しそうな主人公風に仕上げ自分的にはカッコいい部類だと思うのだがしっくりこない。


 そもそもリスナー受けするアバターという一点に特化させるのなら可愛い女の子アバターが正解じゃないだろうか。実際、視聴した男性配信者の半数近くが可愛い女の子アバターと男性アバター両方を使い分けながら配信していた。


 初期配布されている服やケモ耳などを使い可愛い女の子アバターを作りあげる。うさ耳、ツインテール、茶髪の身長低めの少女。自分で言うのもなんだが、なかなか可愛く作れたんじゃないだろうか。


 うさ耳アバターをメインアバターにするのならオネエキャラは封印した方が良さそうな気がする。普通に会話しながら何かオリジナリティの高い配信方法を模索していけばいい。


 新しく作成した少女アバターで少し配信してみようかと思ったが時計を見ると十八時を回っている。昔から十九時頃、夕食にするという実家ルールがあり、帰省してからというもの夕食前に風呂に入るのが日々のルーティーンとなっている。



 急いで準備を済ませ風呂場へと向かう。今日は湯船に浸かりながら配信を視聴しようと思いファスナー付きプラスチックバックを用意した。参考になるような配信を探すにしても時間なりルールを決めておかないと視聴しているだけで一日終わってしまう。


 そういう意味では入浴時間を活用するのは理に適っている。実質、湯に浸かっている間、時間にして十分程度、風呂から出れば夕食となるので否応なしにアプリを閉じるという選択肢しか存在しないからだ。


 全身洗い終え湯船に腰を下ろしながら雑談配信している枠を適当に選ぼうとした次の瞬間、態勢を崩しスマホを湯船に落としてしまう。


 防水対策は万全、慌てる必要なんてないのだが体勢を崩した事もあり慌てて拾い上げようとしてしまった。その結果、大問題が発生してしまう。スマホを拾い上げ画面を見ると何故か配信ルームが立ち上がり配信が開始されていた。


 枠タイトル「mb」拾い上げようとした時、スマホの画面に触れ奇跡的に入力された言葉が枠タイとして登録されている。そしてこんな日に限って二名の入室があり心配するコメントが並んでいた。


「こ、こんばんは。入室早々心配かけちゃったみたいで、申し訳ありません。浴槽にスマホ落としてしまって」


【浴槽?】【お風呂ですか?】安堵したコメントより先に浴槽という言葉が興味を惹いたのか風呂に関したコメントが勢いよく流れていく。それ以上にリスナーが経験した事ない勢いで入室してくる。


 アバターを可愛くした効果なのだろうか。リスナーが増える一方で声を聞いて【おじさんかよ】といったガッカリしたようなコメントも増えてきた。ただ大半のコメントは温かく不思議と緊張が解けていくような感じがする。


 依然としてコメント欄は風呂と枠タイに関する推測コメントで盛り上がっていた。配信が始まったのも枠タイが「mb」となったのも偶然なのだが事故で済ませるのは勿体ない気がしてきた。それ程にコメント欄の雰囲気がいい。


「それでは改めまして。三十八歳のおじさんが風呂に入っているだけの枠なんだけど大丈夫そうですか? それと枠タイの意味なんだけど・・・・・・ えっと、む、め・・・・・・ メタバース・・・・・・ バニー」


 咄嗟に出たメタバースバニーという言葉が何とも響きが良い。そして男の風呂枠というのに不思議と盛り上がりを見せている。配信し始めて五日、初めて心底楽しいと思えた瞬間だった。


 この楽しい時間を継続させたい。風呂という場所が開放感を与えているからか配信されていると気がついたときのような恥ずかしい気持ちが薄れていき楽しさの方が勝ってきている。


 殻を破れなくても傷ぐらいなら入れれそうな千載一遇のチャンス。何か・・・・・・ リスナーの記憶に残る何か。風呂に入りながらできることが無いか考えているとリスナーの一人がギフトをプレゼントしてくれた。


 課金することで得られる有償コイン、無料配布された無償コインを使い交換することで配信中に限り配信者へアイテムなどをプレゼントできる。広告動画を見ることで得られる無償コインは少額、無課金で楽しんでいる者にとって貴重なコインと言える。


 そんなコインを使いギフトをプレゼントしてくれた。昨日までの配信を考えると天と地との差があり嬉しさが何十倍にも増幅される。感謝の気持ちを伝えるだけでは足りない。そんな気持ちから自分でも驚く行動を起こしてしまう。


「ユウさん。ギフトありがとう・・・・・・」


 感謝を伝え終わると立ち上がり昔からやっていた事のように臀部(でんぶ)を力一杯引っ叩いてしまった。風呂場という事もあり反響効果でエコーの利いた破裂音のような音が響き渡る。


 やってしまった。何故そんな事をしたのか自分でも分からない。切羽詰まり反射的に叩いてしまっただけだとしても、リスナーの嫌悪感に火をつけてしまったと考えて間違いない。  


 素直に謝罪して即刻枠を閉じようと思いスマホの画面に目を落とすと思いもよらない光景が広がっていた。


 批判的なコメントは一つもなく、笑ってくれているかのような好意的なコメントで溢れていた。ファイバーやトガの配信を視聴したときに見た楽しくて温かい光景が今、目の前に広がっている。


 昨日までとアバター以外に何が違うのか正直分からない。ただズレた歯車が噛み合い動き出したように思えた。


 その後も尻を叩く条件など質問が相次ぎ最終的にはギフトをプレゼントされる度に叩き続け、配信を止めるまで何発叩いたのか分からない。


 結果、フォロワーが十五人、入室者は四十三人と激増した。ただし代償は大きく、尻は赤く腫れあがり激痛が翌朝まで引かなかった。




最後まで読んで頂きありがとうございます。次回「第6話 新たな出会いと進む道」お楽しみに。

次回更新:4月19日(土)


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