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第4話 初配信

 単純に配信するだけなら悩んだり躊躇(ちゅうちょ)することなどなく配信することができたんじゃないだろうか。変化を求める気持ちが強過ぎ気負っている。


 普通に配信しているだけでは仕事で定期的に行われる他支店とのビデオ会議と同じ。寧ろ秘匿性が高く仕事と違い簡単にやめることができるだけ難易度は低いように思える。


 これまで変わる為にチャレンジした様々なことを思い返してみると簡単に一人で始められ一人で続けられることばかりだった。やはり殻を破る為には何か負荷のようなものを掛けて配信した方が何か得られるのではないだろうか。


「やっぱキャラ作りするべきか・・・・・・ 俺の嫁になって行けよな!!・・・・・・」


 先程まで視聴していたファイバーのセリフをマネしてみたが配信初心者には、かなりハードルが高い。そもそも越える越えない以前の問題として本質的なカテゴリーが全く違っている気がする。


 本人は否定していたが魅力的な声、高いトーク力でリスナーを魅了するイケカテと呼ばれるカテゴリーに属している配信者なのだが不思議と嫌味が無い。成りたい自分と重なる部分があるのならイケカテでも良いのだが方向性が違う。


 そもそも雑談中心の配信なのだから自然体で話せばいいと理解しているが実践できるかというとなかなか難しい。そんな拙いトーク力をリカバリーする手っ取り早い方法と言えば、キャラ付けすることじゃないだろうか。


 暫く考えていたが思いつかず昼食を軽く済ませると部屋に戻り配信の準備を始める。準備と言っても配信するだけならスマホ一台あれば事足りるのだが枠タイと呼ばれる配信内容をリスナーに伝える為のタイトルを決める必要がある。


 何を話し何を行うか。プレゼンの延長だと考えていたが視聴して、その考えが間違いだと気がついた。リスナーのコメントを拾いながら流動的に話題が変化していく。ただし枠タイという本筋は外れない。


 それはファイバーの配信を基準として考えているからとも言える。人気配信者を目指している訳じゃないのだが殻を破れたら今と全く違う景色、目標が見えてくるのかもしれないが今の自分に見えているのはこの程度の景色でしかない。


 結局、出来る事といえば雑談ぐらいしか思いつかずタイトルを雑談に決め配信を始めることにした。そもそも何かやろうと意気込む以前の問題としてリスナーとコミュニケーションが取れるかどうか。


 営業という仕事上、初対面の人と話す機会も多くそれなりに場数は踏んでいるつもりなのだがプライベート領域に足を踏み込んだ会話になると何故か躊躇してしまう。


 そんな自分を変えるための第一歩。


 スマホの画面が設定画面から配信ルームへと切り替わる。配信終了ボタンをタップしたい衝動に駆られたが辛うじて耐えリスナーを待つ。


 三分ほど経過したが雑談以外書いていないタイトルと個性のないおじさんアバターでは誰の目にも止まらないのか未だ誰一人として現れない。


 (そりゃそうか・・・・・・)


 五分ほど経過したが誰一人現れない。諦めて配信を止めようとしたその時、入室を知らせるコメントが表示される。


「こ、こんにちは。ファイバーさん来てくれたんですね。ありがとうございます」


 配信するとコメントしたことを気にかけ駆けつけてくれたのだろうか。挨拶コメントからは何も読み取ることができないが、どんな理由だとしても来てくれたことが何より嬉しい。


「まだ方向性とか定まってなくて。何を話せばいいのか・・・・・・」


 一言話すと後に続く言葉がなかなか出ず黙り込んでしまう。コメントに対しての返事は辛うじて返せるが話を広げられない。


 そんな状況を見兼ねたのかファイバーからコラボを打診するコメントが書き込まれた。リインカーネーションには最大四人で同時参加できるコラボ配信という機能が実装されていて配信者が許可すれば簡単にコラボ配信ができる。


 ただ人気配信者とコラボしてしまうとフォロワーが大挙して押し寄せる可能性がある。それだけの人数を捌ききれるとも思えない。その反面、直接アドバイスを貰うことができるチャンスだけに承諾したほうが良いと分かっているのだが即決できず返事を返せなかった。


 少し悩んだが結果的に承諾した方が良いという結論に至ったのだがスマホへ目を向けると【ごめんなさい。急用で落ちます】とコメントが表示されていた。


 考え過ぎてしまいタイミングを失うことが昔から多く、迅速な決断を迫られた時に限って言えば悪癖、一度気持ちを落ち着かせるため配信を終了しアプリを閉じる。


 初めての配信は想像より遥かに難しかった。現実と違い仮想空間上で不特定多数の人達とコメント頼りにコミュニケーションをとることは直接会話するより何倍も難しい。


 導き出した言葉がリスナーの意図と一致していない。間違った解釈をしている。恥ずかしいといった様々な感情により言葉が打ち消され話を続かせることができない。


 時間をかけ回数をこなせば配信慣れしていくだろうし多少はトーク力も向上する。殻を破れなくても亀裂程度なら入れることができるのかもしれない。だが成りたい自分とは今の自分、その先にある将来像の理想形なのだから配信慣れしたからといって成れるような簡単なものじゃない。


 そして同時に一つ気がついたことがある。配信者の特色、元々の性格やキャラメイクが配信スタイルやリスナー層に多大な影響を与えるということ。


 出会い系アプリと勘違いしているのかと思うようなコメントで溢れていた配信では、配信者が甘く誤解を生みかねない言葉を多用することで好意を持ったリスナーを集めているように思えた。


 一方で強めに感情移入してしまったリスナーに対し恋人を奪われたかのような勢いで他のリスナーが攻撃する。結果的に見るに堪えない配信と荒れたコメント欄となっていた。あんな状態になってしまうと元に戻れない。仮に方針転換できたとしても相当苦労するのではないだろうか。


 自分の性格的にも不要な要素でしかないのだがリスナーを楽しませているという一点においてだけは今の自分より遥かに優れていると言えなくもない。


 次回の配信をどうするべきか悩んでいるところにファイバーからのDM(ダイレクトメール)が届いく。これはリインカーネーション内でユーザー同士が安全に連絡を取ることができる基本ツールの一つで幾つか制約はあるものの簡単に個別に連絡を取り合うことができる。


 直接連絡を取るわけではないので安心感がある一方で簡単に誰とでも連絡を取り合える。秘匿性が高いといっても現実と仮想が交わる接点が存在する以上、危うさが消えることなどない。


 結局のところ使用者の倫理観次第で善にも悪にもなる。


 メール内容を確認してみると配信途中で抜けたことの謝罪と視聴した感想、そして実体験に基づいていると思われる幾つものアドバイスが記されていた。


 ほんの数分で何を伝えたいのか理解しアドバイスまでしてくれた。これが人気配信者のスキルなのだろうか。いや多分、配信者としてというより現実世界でファイバー自身が持つ素の部分なのだろう。


 その後、アドバイスを元にキャラ作りをしてみることにしたのだがどれもしっくりこない。イケカテ、イケボ、モノマネはできず断念。陰キャは論外、陽キャは地球を怪獣から守る巨人の戦士のように三分程度しか持続できなかった。


 他に何か出来ないか考えていると新入社員の頃に忘年会で上司に無茶振りされ一ミリも似ていないモノマネをやらされたことを思い出した。ただただ恥ずかしく会社の忘年会、上司の命令じゃなければ絶対にやっていない、長年記憶の奥底に封印してきた黒歴史の一つ。


 ただその場に居る全員が爆笑していた事だけは覚えている。


「はぁい。いらっしゃーい。よく来たわねぇ・・・・・・」


 当時オネエキャラで活躍していたタレントのモノマネなのだが今やってみても全く似ていない。ただ当時と違い若干だが恥ずかしさが薄れている。これなら短時間の配信なら対応できるかもしれない。







                      一月三日


 始めて配信した日から今日まで、時間があれば配信し視聴者も増え先程の配信では十人、だがフォロワーは相変わらずファイバーと兎牙の二人のみ。


 入室してくれる新規のリスナーは増えたが大半は入室するだけで反応が無い。稀に反応があっても大抵は挨拶コメントをした後、反応が無くなる。


 心が折れそうになりながらも何とか続けられているが限界が近い。アドバイス通りキャラ作りしてみたものの不評過ぎてリスナーが残らない。


 足りてないことがあるとすればトーク力の無さとアバターを際立たせることぐらいだろうか。アバターは身長や体形、髪色など細かく設定することができる。だが服やアクセサリー、レアな髪形や顔パーツなどはガチャを回す必要がある。


 大抵この手のゲームの排出率は高くない。広告動画を見たりすればガチャなどに使えるコインが僅かだが貰えるのだが何か欲しいのなら課金するしかない。


 掲示板でガチャについて調べてみたが、予想が覆る事など無く課金しない方がいいという結論に至り、無課金で可能な限り際立つアバターを作ってみることにした。





最後まで読んで頂きありがとうございます。次回「第5話 起点」お楽しみに。

更新予定日:4月12日(土)18時を予定しています。


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