第1話 死の感覚
――この埃がかった場所が俺の棺になる。
大小様々なモニターやパソコンが立ち並ぶ、モニター室か操作室かのような広く薄暗い場所で、唯一明かりの灯っていた大きなモニターの光を浴びながら、ふとそんな観念を抱いていた。
「――よくここまで来たな」
「っ⁉」
そんな不確かな意識の背中を押したのは、背後から突然聞こえた年配の男の声。
「おっと、忠告しておくが動かない方が身の為だぞ」
反射的に振り返ろうとするも、カチッという拳銃の撃鉄を起こすような音と、男の一言で身体が硬直してしまう。
「……動いたらどうなるんだ?」
「風通しがよくなる、と言えば分かるかな?」
……それはつまり、動いたら撃つ。――いや、殺すという意味で間違いないだろう。
普段なら冗談だと思うような台詞も、ついさっき目にした文章を思うと、一笑に伏すことも出来ずにいた。
「……お前は誰だ?」
時間稼ぎと思われない程度の疑問を口にしつつ、すでに握っていた携帯電話を気付かれないよう操作する。ちょうど背後の男からは死角になっている。電話は無理だとしても、メッセージ程度ならこの状況でも送れるだろう。早く彼女にこの事実を伝えなくてはならない。そして、一刻も早くここから脱出を――。
「もういいかね?」
数秒後、ちょうど俺がメッセージを送ったタイミングで、嫌に落ち着いた、熱の失せた声音で男が聞いてきた。
――もしかして気付かれていたのだろうか? そんな浮かび上がる疑問をすぐに振り捨てる。もし気付いていたのだとすれば、俺が携帯を操作していたのをわざと見逃したことになる。この状況でそんなことをしても、この男にメリットは無い。
実際、遠まわしな言い方ではあったものの、動けば殺すとまで宣言したのだ。俺が携帯を操作していると気付いたなら見逃さないはず。
あの発言が冗談だという線は……この張り詰めた空気と後頭部にピリピリと感じる殺気からして考えられないだろう。
どちらにせよ、今できる返答はこれしかない。
「……なんのことだ?」
「恍けるか。……まぁいい、どちらにせよ計画は一から練り直しになるだろうしな」
「計画……? ……まさかUtopia計画とかいうやつのことか?」
「ふぅ、そんなことを気にするような状況とは思えないが。よほどの大物か、それともただの馬鹿か」
「その〝計画〟とやらを練り直さなければならなくなったお前は一体どっちなんだろうな?」
「くっくっ……口だけは達者なようだ。だが、悪いな。これから死ぬ人間と、これ以上お喋りするほど暇ではないのでね」
「――ッ‼」
その瞬間、男の語気から明確な殺意を感じ――そして、同時に細胞すべてがヒリつくほどの〝死〟の感覚を背後に覚えた。
「……柊志樹。お前には期待してたんだがな」
男が俺の名を口にするのと同時に、パンッという乾いた発砲音が室内に響き渡る。
そうして、聞こえた音と寸分の誤差もなく後頭部に強い衝撃を覚え――俺の意識は深い深い闇の底へと落ちていった。