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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幽霊

君は涙に濡れた瞳で上目遣いに僕を視ながら、言葉にならない叫びを上げてキッチンナイフを右に左に振りかぶる


しかし、君が僕を傷付ける事は無かった


僕は「もう止めてよ」と言いながら、君の手を握ろうとした

だが、その指が君に触れる事は無かった



───生きていた頃、まだ幼かった僕は君と、誰に気付かれる事も無く密かに愛し合っていた


男同士が恋をするなんておかしいから、総ては二人だけの秘密だった



あの頃、人々が寝静まる時間が来るたびに僕は窓から家を出て、君の部屋を訪ねていた


君の部屋のベッドで僕達は、朝の日差しが来るまでの時間だけ、毎晩、蛇の様に躰を絡め合っていた



「永遠にこうしていたい」と二人とも思っていたけど、ある時、僕は遠い街に養子へ出された


それから、風の噂で君は狂ってしまったという話だけが僕の元へ届いていた



僕は君を助けるために家を出て、君の居る街へ帰りたかった

望みは叶わず、養子先で毎日激しい暴力を受けて直ぐに僕は死んだ


そもそも僕は、「そういう目的の為の」養子だった



───何回目かも解らない、君の手にした刃がまた空を切る

君が僕を殺そうとし始めてから、既に何日も時が流れていた


僕は本当は君を抱きしめて、共に涙を流したかった


昔のように君の体温を、

自分のもののように近くで聞こえる鼓動を、

少し骨張った白い躰の総てを、

自らに刻み付けたかった


しかし、君が僕に触れる事が出来ないように、僕も君に触れる事は絶対に出来なかった



──ふと、金属の音が聴こえた


ナイフが床に落ちている

君はついにナイフを握る力さえ無くなり、死を待つけだもののように、小さく呻きながら這いつくばり、儚い呼吸を繰り返すだけになった


「…大丈夫?……苦しいの?」


僕が声をかけると、君は獣じみた唸り声でそれに応えた

瞳だけが深い憎しみに染まり、僕を視続けていた



ふと、ナイフが眼に付いた


──僕は知っている、彼を救わないといけない


──僕は知っている、『この世界には痛みしかない』


ナイフに触れる


冷たい金属の感触

僕はそれを掴むと、手に取った


刃を見つめる

そこには、確かに僕の姿が映っていた


這いつくばった君の(うなじ)に、ナイフを振り下ろす


握り手を通して、君の痙攣が伝わってくる

そして次に、溢れ出た君の血が手に触れた


それは、暖かかった



少しして君は起き上がった

そして、僕を押し倒すと馬乗りになる


「誕生日おめでとう」


「つらかったよね」


「もう、一緒だからね」



君の両手が僕の首を絞めた

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