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「前に作った紳士服屋さんにバルトさんの寸法が残っていました。不備があったらお直します」


 コロンナ商会よりもはるかに良い生地だ。


「お似合いのカフスをご用意しました」


 装飾品まで用意されて。


「では、マナーの練習をいたします。令嬢のエスコートの練習でございます」



 不気味だ。こんなしがないおっさんに金がかかる依頼をする。



「あの一体誰をエスコートするのですか?ピニャーテ家の寄子ですか?」


「それは会ってからのお楽しみです」



 夜会当日を迎え。馬車で迎えが来た。


 出むかえる。


「マリカ・ピニャーテ様でございます」


「バルトです」


 ピニャーテの女当主だ。若い。22歳と聞いた事がある。

 元婚約者と同じ年齢だ。

 いかん。いかん。過去を思い出すな。


 おかしい。貴族の女を見たことがあるが、扇で口元を隠さない。


 ジィと俺を見る。

 髪は金髪にアイスブルー、目は垂れ目だ。一見、おっとりしているように見えるが、やり手の領地経営者でもある。


 15歳で実父と愛人と連れ子を追い出し。家を建て直したとの噂だ。



 ・・・・


 プィ!


 顔を背けた。なるほど、どこかにバルトというイケオジがいて、人違いで落胆したな。こういった場合どうなるのであろう。



「あのエスコートをして頂かないと困りますわ」


「失礼しました」



 夜会の会場についた。



「ピニャーテ侯爵マリカと子爵バルト様です」


「「「「オオオオオーーーーー」」」」


 家門名がないから、すぐに名誉職と分かるが、貴族たちは侮らない。

 そうだよな。侮っていいことは何もない。


 コロンナ商会長の女主人はすぐに人定めをする・・・いかん。いかん過去を思い出すな。



「ほお、これはマリカ様、お隣の紳士は」

「ええ、エスコートをお願いしたの」

「バルトと申します!」


 挨拶回りをした。


 そうか、男よけでこんなしょぼいおっさんにエスコートを依頼したのか?

 しかし、それなら、他にいるはずだ。そうか、後腐れのない冒険者にしたのか?


「さあ、紳士淑女の皆様、これから歓談の時間になります。少しの間、パートナーと別れて、男女別々の部屋でお話をお楽しみ下さい」



 紳士の歓談室に入った。


「さあ、バルト様はこちらの席に」

「お話を聞きたいですな」

「なれそめは?」


 ここは正直に話した。俺は冒険者で子爵の称号はつい先日頂いたこと。

 名誉職に近いこと。王宮で陛下から直々にもらったものではないこと。



「君はマリカ様の顔を見たかな」

「いえ」


 そう言えば見ていないな。


「完全に恋をしている乙女だったよ」

「我らの縁談を断り続けているから不審に思っていたが納得した」


「はあ、こんなおっさん・・・ただの冒険者ですよ」


「たとえ、マリカ様の隣がコジキでも我らは歓待する。それが貴族だ」

「君、この幸運を逃してはいけない」

「親交を結ぼう」



 ・・・・・・・・・



 依頼は終わった。


 だけど、俺は薬草探しをする。


 野営道具を揃えて、中級の森に行こう。

 薬草図鑑も買ったし。



 そんなとき。コロンナ商会のロメリオがやってきた。



「バルト君、君、生活に困っていない?」

「まあ、生きていけますが」


「ヘレンナと私の下で働かないか?」


「働かないです」


「薄情だな。恩を返しなさい!」


「これから仕事だ」


「おい、待てよ!」



 話を聞くと。



 ☆


『麦を買ってやるよ。多めに買うから安くしてくれ』


『はん?お断りだ』


 バカか?サムさんの所の小麦は高級品だぜ。

 すべてこんな調子らしい。

 中には。


『バルトのバカはいつ帰ってくるんだい!』


 と言ってくれる人もいるそうだ。



 ・・・・・・



「お前、何をした。キャッシュバックをしていたのか?」


「しないよ。それこそ貴族学園経営科卒なら、帳簿を点検しなさい」



 アドバイスくらいはしてやるか。


「あのな。サムさんのところはな」



 ☆


『小麦を見せて下さい』


『おう、見て高く買えって、お前、麦はわかるのか?』

『うっすらと、少しもらっていいですか?』


『おい・・』

『よくわかりませんが、濃いですね。これは看板に偽りなしと思います』

『まあ、お前の所に卸してやるよ』



 ・・・・・・


 こんなことを話した。職人気質の所は、物をちゃんと見なければならない。たとえ、わらかなくてもいつか分かるようになる。


「大体、コロンナ商会の商会長は機能していなかった。婿のポジションは現場と商会長の立場半々だ。

 現場仕事はそれこそ子どもの頃からやらないと分からないぞ」


「・・・・ヘレンナの元婚約者だろう?先輩だろう?また、戻ってきたら、服を二着仕立ててやる。給金も銀貨11枚、いや、12枚払う。孤児なら破格だろう?」



「いや、時間が掛かるが、真っ白にして、自分流の経営を身につけるしかないよ」


 断り続けたら、やっと帰った。


 例えば、俺が他の商会に行っても、すぐに使えるようになるわけがない。

 それなら、若くて素直な新人を採る。

 俺が商会長でも、俺を取らない。


 さあ、薬草探しだ。


 と思ったら、


「バルトさん。大変、指命依頼だよ!」


「そうか、薬草探し。伸びたな」



 何回か。エスコートする。

 相変わらずマリカ様とは必要以上の事は話さない。


 薬草探し。高級薬草以外は、クエストの掲示板にかからない。

 気ままに持っていけば、その時の相場で買い取ってくれる。



「よし、今度こそ。中級の森に行こうか」


「バルト様!これから社交界のシーズンです。ピニャーテ侯爵の依頼がありますので、遠征はお控え下さい」



「ルイソさん。俺は冒険者だぜ。自由のはずだが」


「それなら、この役を他の方に依頼してもいいんですよ」


「分かりました。それで良いです」


「なっ!?」



「お止め下さい!口が過ぎました。どうか、お願いします。依頼を受けて下さい。私には学園に入学中の子どもがおります!」


「はあ?お前の家族知らないよ。しかし、何故、俺に依頼をするのか?話してくれたら考えなくもない」


「それだけは・・侯爵は待っておいでです」

「何を?」



「アハハハハハ、バルト殿、そこまでだ」


 ゾロゾロ~


 と王太子殿下たちだ。


「私に免じてこの場を抑えてくれないか?バルト殿」

 と王太子に言われれば。


「畏まりました」


 と答えるしかない。



 こんな悶々とした日々を送っていたら。


 ある日の事だ。ピニャーテ侯爵家での夜会だ。王太子ご夫妻もいらっしゃる。


 そこでコロンナ商会の女主人とヘレンナとロメリオにばったり出くわした。



「マリカ様!そいつは、冒険者のバルトです!子爵なんて嘘です!」

「そうよ。こいつが取引先に私達の悪口を言いふらして、出て行った極悪使用人です」

「マリカ様には相応しくありません」


 ビシッと空気が凍り付いた。


 ざわめきもない。


「あら、貴方たちはコロンナ商会だったわね」


「マリカ様、ロメリオです。お久しぶりです!」


「あら、私、貴族学園には行かなかったのよ。どなたかしら」


「・・・一度、ピニャーテ家の園遊会に参加させて頂きました。その時、前侯爵閣下、貴方のお父様よりお言葉を頂きました!

 ヒンメル子爵家のロメリオです。その時、お隣にマリカ様がいらっしゃいました」


「何年前かしら」


「9年前です!」

 うわ。9年前、一度会ったきりかよ。この感覚は分からないな。


「バカね。お父様は失脚したわ。貴方があったのは愛人の連れ子ね。私はその時、市井に放り出されて妹と路頭に迷っていたのよ」


「なっ」



「それに、ルイソ」


「はい、お嬢様、バルト殿は、コロンナ商会で一方的な婚約破棄を受けて商会を放逐になり。それまでお給金は月に銀貨10枚(10万円)でした。準家族と言うことでした。極悪人ではございません」



「バルトはまだ当商会員です。商業ギルドに届出は出していないわ。出していないわよね」


 女主人がさも勝ち誇ったように宣言する。ただ、書類仕事を適当にやっていただけだ。いつもこんな感じだ。


「どうしても、当商会員のバルトが欲しかったら、金貨1000枚で移籍してもらわないと割に合いませんわ」


 どの口が言うと思ったが。


「まあ、お安いわね。金貨一万枚を差し上げますわ。契約書を作るから、その代わり速やかに退場を願うわ」


「マリカ様、そんなことをしたら」


 あの女主人はバカな働き者だ。

 金があったら、思いつきで事業を始め。絶対に破綻する。


「いいのよ。貴方が自由になるのなら、お安いものよ。私の金貨をどう使おうか自由でなくて?」


「そうだが」


「受け取った金貨をあちらがどう使おうか関知することではないわ」



 ヘレンナとロメリオは顔がパァとなっている。

 しらないのか?この女の散財くせを。



 しかし、マリカ様は苦労したのだな。俺との接点は・・・



「王太子殿下と王太子殿下のご入場でございます!」



「「「オオオオオーーー」」」


 場の雰囲気が変わった。


 うん?


 王太子妃殿下は、マリカを釣り目にしたようだが、顔の右上に薄らと痣がある。

 それが、他の顔の部位を更に引き立てているのか?



 ツカツカ~


 貴族の男は頭を下げ。女はスカートの裾をあげ。礼をする。


 それでも人が別れ。道が出来る。


 向かっているのはマリカ様と俺の方だ。俺もならいたての礼をするが、ピタと俺の前でドレスのスカートが見えた。


 こちらから話しかけてはいけないルールだ。


「バルド殿、お姉様、お顔をあげてくださいませ」


 姉妹であっても公式の場では臣下として礼をしているのか。まあ、当然・・・


 あれ、見覚えがある。この痣は昔流行った熱病だ。体中に痣が出来る病気。

 流行った当初は回復術士に高い金を払わなければ治らなかった。



 過去が思い出される。思い出してはいけない。あの顔は・・・・


 ガタン!


 今まで封印していた過去と緊張からか俺は倒れた。

 夢を見た。


 あれは俺がイケイケだった時代だ。


 それなりに儲かって、皆で飲んでいた。





『ウハハハハ、バルトさん。今度、商売の秘訣を教えてよ』

『ないよ。地道に探すしかないね』


 そんなときに、少女が、妹を抱いて、絶叫していた。

 ボロを着ている。顔は整っているが貧乏人だ。



『妹が病気なの!誰かお金を貸して下さい!私はピニャーテの姫よ!お礼なんて、私が復権したらいくらでもしてあげるのだから!』


『ハア、ハア、ハア、お姉様』


『ピニャーテ家?知らねえな。詐欺師かよ!』

『貴族なら何でこんな所で歩いているんだよ?』


『それは、お母様が亡くなってから、お父様に追い出されて、ドレスは売ったわ』


 ビシャ!


 誰かがビアをかけやがった。


『あっちいけ。病気がうつる』

『キャア、平民!許さない!ピニャーテ家の正統な跡取りに対する無礼・・・キャ』


 ドカン!


 足蹴りにしやがった。


 見てられない。俺も孤児だった。飢え死にしそうな時に義父が手を差し伸べてくれた。


 だから、俺は前に出た。



『おい、おい、ピニャーテ家と言えば、侯爵様だぜ。貸しても取りはぐれは無さそうだぜ!』


 ジャリン♩


 財布ごと金を渡した。


『お前は何者?」


「バルトだ。ロンザ商会のバルトだ。お嬢様、大きくなったら、私を贔屓にして下さいな』


『信じるの?』


『お嬢様が言ったのだろう?ほら、妹を背負ってやる。この先に熱病に対応出来る回復術士さんがいるんだ。まだ、痣は薄らだ。治るぜ』



 ・・・・


『あの、お金余った』

『投資だ。取っとけよ。生活の糧にしろ』

『バルト、覚えておくのだからね!』




 ・・・・・・



 目が覚めた。まだ、会場の屋敷の中か。

 ベットの中だ。


「バルト殿、そのまま」



「あの後、父と愛人とその子供達は、馬屋番に落としたわ。

 これも、すべて、あの残りのお金のおかげだわ。投資しても皆、成功したの。不思議ね」


「バルト殿、御礼を申し上げます」

「妻の命の恩人だ」


「いや、気まぐれです」


「それでもよ、私はずっと貴方を探していた。コロンナ商会に婿入り。しかも、相手が同年齢と聞いて、胸が苦しかったわ」



 その後、俺はまだピニャーテ家の屋敷にいる。


 ピニャーテ家の帳簿係だ。

 大きな家はいい。

 完全分業制だ。


「バルト殿、馬車を出します」


「宜しく」


 コロンナ商会に行く。

 あの後、金貨一万枚を使って、いろいろな商売を始めたが思いつきで始めた商売で破産をした。

 凱旋ではない。恩返しだ。



「ピニャーテ家が全債権を買い取った。お前達の奉公先は用意した」


「バルト、また、結婚してあげてもいいわよ」

「ヘレンナ!」

「まあ、私、メイド長かしら」


「家族仲良く皿洗いだ。お給金から残りの債権回収する」


「「「ヒィ」」」


 何故、嫌がる。やり方次第によってはチャンスあるのに。

 皿洗い舐めてはいけない。それに貴族のお屋敷の皿洗いはそれだけをやれば良いのだ。

 まあ、知らないか?


「いや、皿洗いはやめだ。それが嫌なら債務奴隷で農場行きだ」


「なら、皿洗いでいいわ」


「なら?」


結局、一時間、心構えを話した。


 元コロンナ商会は家族ごと屋敷で働いている。



 その後、俺はマリカと結婚した。

 周りは反対をしない。

 いや、出来ないのか?


 相変わらず女侯爵は忙しそうだ。

 これは幸せなのか?


 それから、10年ほど経過した。娘と息子を授かった。


 プィ!


「お父様なんて、大嫌い!こっちに来ないで」


 おお、反抗期か。可愛いな。と思っていたら。


 ダダダダダダ!


 マリカだ。走って来る。何故だ?


「サリア!貴方、こんな出来たお父様に!何て残酷なことを言うの」


「ヒィ!」


「出て行きなさい。貴方にバルトはもったいないわ!」


「やめろ。マリカ!家族会議だ!」


 娘と息子、俺とマリカで話す。



「お母様は10歳で家を追い出されたの。グスン」

「母上、そこで父上と知り合ったのですね」


「ごめんなさい」

「いいのよ。私、父親ってヒドイ事をする存在にしか思わなかったから、反抗期なんて知らなかったわ」


「ああ、何だ。お父さんも孤児だ。だから、本当の家族は・・・」


 義父の言葉が脳裏に浮かぶ。


『バルト、家族はな。作る物だ』




 ・・・・・・


「これから、うちだけの家族、ゆっくり作って行こうぜ」


 マリカと子供達は静かに頷いた。





最後までお読み頂き有難うございました。

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