神秘の目撃
初めての創作物なので至らぬところもあるかと思いますが楽しんでいただければ幸いです。
都内のとある住宅地の外れに小高い丘になった森が存在した。その日、其処には大雨が降り強い風が吹く中にも関わらず傘もささずにしゃがみ込む少年が居た。
少年が丘の斜面に突き出た岩の上で蹲っていると
「蒼太…風邪引くぞ…そろそろ帰えらないか?」蒼太と呼ばれた少年に傘を差し出し、優しい眼差しで微笑みながら青年は声をかけた。
「蒼也アニキ…」蒼太は自身より7歳年上の兄の名を呼んだ。
「中学生生活最後の試合で思ったような結果を出せなかったのは分かるしそれに落ち込むなとは言わないけど今は帰ろう…雨も風も強くなってきてる。今日はお前の好きな唐揚げを作るからさ」
「僕はいつもそうだ。肝心なときに結果を残せない。他の剣道部の部員たちも励ましてくれたけど僕は僕を許せない。」
「いつも言っているだろう。自分を許せない気持ち、悔しい気持ち、悲しい気持ち、それらの感情をバネに次に繋げることを考えろと」
「そのセリフ、もう耳タコだよ!そういうことじゃないんだよ!」
そこからしばらく蒼太が愚痴をこぼしそれを蒼也がなだめるという流れを繰り返した。
程なくして溜め込んでいた感情を吐き出して気持ちの整理がついたのか蒼太は立ち上がった。そして兄が持ってきていたもう一本の傘を受け取り「アニキ…ごめんなさい…それから……ありがとう」そう言うと家の方向に向かって歩こうとした。その瞬間、強烈な突風が二人に向かって吹き抜けてきた。
「痛っ…」腕に急な痛みが走り痛みを感じた箇所を見ると何かに切られたような傷が出来ていた。
「今の風はなんだったんだ?それよりアニキは大丈夫だった?」そう言いながら蒼太が振り返ると、赤く染まった手で足を抑えながら蹲る兄が視界に入った。
何が起こったのか分からず混乱しつつもこのまま何もしないのが一番良くないと判断した蒼太は兄の怪我を確認しようと近づこうとした、その瞬間誰かに傷が無い方の腕を引かれた。
すると、さっきまで蒼太が立っていた所を再び風が吹き抜けていった。思わず引っ張られた方に目を向けると、少し目つきの怖い青年が立っていた。
青年はこんな雨の中なのにも関わらず傘もささずに険しい目つきで周囲を睨んでいてなんとも言えない怪しさが漂っていた。そして何よりもその青年は刀らしきものを手にしており明らかに普通の人がする様相では無かった。「妖魔め!姿を現せ!」一体何が起きているのか蒼太には理解できなかったたが次の瞬間「見つけた!雷よ我に神秘の恵みを」
青年の言葉の直後、握っていた刀が幅広で稲妻の様な形の剣に変わり剣の周りは帯電しているのか時折バチバチと音を発しながら光が散っていた。
そしてその光は空中のある一点を目指して飛んでいった。
「ギャァァァ」と聞こえた後声がしたあたりから黒い煙のようなモヤが発生していた。
「鎌鼬か…中級の妖魔ではあるがこの個体はそれなりに成長していたな…それはそれとして」青年は蒼也の方に歩いていき黙って傷を確認した後、所持していたであろう包帯で応急処置を済ませて蒼太の方に向き「この者を病院に連れて行くから一緒に来い」そう言われたが、あまりの出来事の連続に「分かりました」と答えるのが精一杯で、何が起きたのか、この青年が何者なのかを聞く余裕はこの時の蒼太には全く無かった。
だがこのいくつもの偶然が重なって起きた出来事が、この先の蒼太の人生を大きく変えることになる。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。是非続きも読んでいただけると幸いです。