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054 子供が関わっていい問題じゃない

 しかしながら、そんな厳しいおじい様と、あのほんわかしたおばあ様から、伯父上と母上が生まれたわけで……。


「母上は、おじい様に似たところがあるのはわかる。伯父上の為人がわからないんだよなぁ」


 子が親に似ない事なんてままあるけれど、祖父母夫婦や両親を見ていると、その血筋で浮気って、どうも結びつかない。


「それについてですが、使用人たちの感想でよろしければ」

「聞くよ」


 ハニシェが集めてきた情報によると、両親が倹約家であった反動か、伯父上は派手な物に目がないそうだ。

 言われてみれば、おじい様は合理主義だし、おばあ様は元々庶民だ。体裁を整えるための衣食住には金を出しても、それ以上の貴族的な派手さは、感性に合わないのだろう。


「母上も綺麗な物は好きだけど、自分から集めに行くってタイプじゃなかったと思う」

「たしかにそうですね」


 プレゼントされれば喜ぶけれど、どちらかと言えば物質的に身を飾る物よりも、精神的な美しさに重きを置くタイプだ。だから、教養とか礼儀とか慈善とかにうるさい。


「マリュー家のご当主であるルジェーロ様ですが、奥方のエレリカ様に一目惚れされて、ご結婚されたとか」

「そんなに美人なの?」

「色々と華やかな、という言葉が付きますが」

「オウ……」


 色々と、ね。見た目だけじゃなくて、交友関係も含む、ってことか。


「あー、じゃあ、お金関係も?」

「そのようです」

「明日、ネロスに聞いてもいいなら確認しよう。父上と母上にご報告することが増えた」


 おじい様が生きていた頃ならまだしも、現在のマリュー家の経済状況は良くないだろう。たぶん、伯父上の収入だけじゃ足りなくて、おじい様が作った財産を切り崩しながら生活している。下手すると、借金まみれな可能性すらある。


「一目惚れして結婚したけど、それ以外がアレで、伯父上は浮気中?」

「なんと言いますか、エレリカ様はなんでも自分の思い通りにしておきたい性分のようで、ルジェーロ様の勤務状況にまで口を出して騒がれたとか……」

「うわぁ……束縛女だったのか」

「浮気に関しては、実は奥様の方が先らしく、ルジェーロ様も諦めたそうです。現在も、複数の男性との交際があると証言がありました」

「……」


 か、関わりたくねーーーっ!!


 ドン引きしてしまった僕に、ハニシェもこういう事をあまり言いたくなかったようだ。そりゃそうだよね。普通、子供に聞かせる話じゃないもん。


「ああ、そう……。それは、かえって、会わなくてよかったね?」

「ハニシェも、そう思います。坊ちゃまに何を言い出すか、わかったものではありません」


 『貴方だけを愛しているから私の支配から絶対に逃がさない』なヤンデレ束縛タイプではなく、『寂しい私に尽くしてちょうだい。私を愛しているなら何でも許してくれるでしょ』なメンヘラワガママタイプだ。どっちにしても関わりたくないが、実に恐ろしい。


 僕に金の匂いを嗅ぎつけたら、どんなすり寄り方をされることか……。思わず身震いをした僕の背中を、ハニシェは優しくさすってくれた。


「エレリカ様については、そのようなご様子です。三日と空けずに『お友達』とお出掛けになり、毎月新しいドレスや宝飾品が増えているようですよ。私が話を聞いたのは、元々マリュー家にいる使用人たちですので、それ以上詳しくはわかりませんでした」

「あー、伯母上たちのまわりは、専任の使用人ばっかりなんだっけ」


 少なくとも侍女を含めた数人は、伯母上の実家であるゼーグラー家の者だろう。その他はどこから連れてきたか知らないが、他家のスパイである可能性は、十分以上にある。


「ぼくの従兄弟たちについては?」

「……坊ちゃまたちに、比べられるものではない、かと」

「オウ……」


 これまた、関わりたくないタイプのようだ。

 兄がアレッサンド、弟がカルロー。弟カルローは、僕の姉上の一つ下で、十三歳。兄のアレッサンドは、もう十七くらいだったはずだ。

 それなのに、僕たちと比べられないって、どんだけヤバいのか。


「成績が不味いの? それとも、性格的な?」

「どちらもです。お二人とも、エレリカ様に溺愛されていたようですが、お勉強が必要な時期には、すでにオラディオ様が亡くなられていて……」

「あー。だいぶ、無軌道な感じなのか」


 伯父上、伯母上のことは諦めても、せめて息子の教育くらいは手綱を取ってよ。


「アレッサンド様は跡取りのはずですが、学校で上手くいかなかったらしく、このお屋敷から出ることは、ほぼないそうです。自室から出ることも少ないようで、使用人たちも、最後に見たのがいつだったか覚えていない者ばかりでした」


 ひきこもりかよ!

 たしかに、王都の学校は蟲毒だと聞いていたけれど、そこで無難に立ち回れなかったんじゃ、家督を継いでも社交界でやっていけないかもなぁ。


「カルロー様は逆に、乱暴なところがあるようで、なにか気に入らないと、使用人が怪我をするまで殴るそうです。ですから、使用人も余計に何も言わなくて……」

「なにそれ、ひっど!」


 どっちとも関わりたくなーい!

 思わず顔をしかめてしまったが、よく考えてみれば、普段は正面エントランスすらカギをかけてしまうくらい、玄関別の二世帯住宅が如く、同じ屋敷の中でもおばあ様とはキッチリ生活圏を分けている伯母上たちだ。表向きである客室にいる僕たちとは、会おうと思わなければ顔を合わせることはないだろう。


「……アレッサンドに会うことは、ほぼないね。気をつけるとしたら、カルローの方か。ちょっかいを掛けられる前に、急いで住む場所を探さないと」


 もしもハニシェやエースが殴られたら、従兄弟とはいえ魂をダンジョン送りにするぞ。


「……ハニシェ、悪いんだけど、明日からも引き続きマリュー家周辺の情報収集と、エースのこと見ておいてもらえる? 王都の中じゃ、エースの大山羊車は大きすぎて動きにくいと思うんだ」

「かしこまりました。お任せください。……坊ちゃまは、お一人ですか?」

「ネロスに誰かつけてもらうよ。冒険者ギルドにも行くから、案内役か、かたちだけ護衛を雇うのもありだ」

「わかりました。お気をつけて」

「ハニシェもね。嫌なことがあったら、無理に我慢しないで。ここの連中よりも、ぼくの方が強いんだからね。本当になにかあっても、来年には父上と母上が来るんだからね」

「はい、坊ちゃま」


 ハニシェは僕を安心させるように、にっこりと笑ってくれた。

 だけど僕は、僕自身のことよりも、マリュー家の屋敷で留守番させるハニシェとエースのことが心配で仕方がない。


(何事もなく、このまま出て行かせてもらえればいいけれど……)


 そんなフラグが立つようなことを考えながら、僕の王都一日目は終わった。



「……とまあ、こういう状況でね」


 屋敷の中が寝静まった後、パジャマ姿で迷宮のオフィスエリアに向かった僕は、さしあたっての情報共有を済ませた。予想にたがわず、集まってもらった側近たちがドン引きしている。


「とんでもない状態ですね」

「場合によっては、なりふり構わず箱庭に避難する可能性もあるから、そのときはまた色々頼むよ」


 呆れているミヤモトに、万が一の時はエースの世話をお願いすることになる。


「王都周辺の迷宮建設予定地に関する情報は集めていますが、その亡くなったメイド長の家族についても調べておきますか?」

「うん! 頼むよ、カガミ」

「旦那様、王都の拠点となる屋敷を迷宮化して、アルカ族に警護させますか?」

「あー、それは今のところ考えてないな」


 ハセガワの心配もわかる。伯母上たちからのたかりや逆恨みがあると予想して、防犯対策を講じる必要はある。


「ぼくがここに出入りするために、局地的な迷宮化はするけれど、積極的に“障り”を吸収することはしない。これから教皇国の人間が来るし、その中にポルトルルのような人間がいないとは言い切れないからね」


 姉上から聞いたけど、冒険者ギルド長のポルトルルは“障り”が見える特異体質らしい。そんな人からすると、“障り”がない屋敷なんて、明らかに異常だとわかってしまう。教皇国や教会関係者に、余計な警戒を持たれたくはない。


「なるべく、信用のおける人間を探して警備させるよ。年明けには、父上たちがブルネルティ家の衛士を連れてくるしね」


 場合によっては、姉上が王都の学校に通う間や、兄上が軍人として仕官することになった時の邸宅になる。それなりの屋敷を探す予定だ。


 僕はしゃべりつかれてあくびをすると、側近たちと別れてマリュー家の客室に戻り、今度こそベッドの中で休むことにした。


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