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130 安寧の魔法陣

 ミストを刺激しないように、素早く迷宮扉を使って対岸に渡り、ニーザルディアの北側も調べたのだけれど、成果は芳しいものではなかった。


「王宮広すぎ!」


 じつに、北側の四分の一は、王族の生活の場である、王()の敷地だった。いったい、この広さに何人が住んでいたのだろうか。


(大奥とかあったのかな?)


 側室だの妾だの、それぞれに生まれた王子王女、一人一人に使用人付き邸宅を用意していたなら、このくらいの広さは必要だったのかもしれない。しかしそれにしても、王宮の敷地だけで、迷宮都市がひとつ建てられるだろう。

 他、四分の一は公官庁を兼ねた表向き、つまり政治的な仕事や行事を執り行う王()で、残りの二分の一が貴族たちの邸宅その他だった。


「王宮の中だけでも、ミストがずいぶん多かったな」

「四人だけで隅々まで調査するのは、現実的ではありませんね」


 ソルとスハイルも、うんざりした様子を隠せない。

 それだけ、王宮や王城には、避けようがないほど、ぎっしりミストが詰まっていたのだ。連戦に次ぐ連戦で、僕もいい加減疲れていた。


「仕方がない。本格的な調査は、迷宮に取り込んで、ミストを駆除してからだな。そうだ、調査にはロロナ様や伯父上にも協力してもらおう」


 比較的風雨にさらされることのなかった王宮や王城の中には、色々な家具がまだ形を保っており、重要な歴史的記録も残っている可能性があった。


(ニーザルディア様式も、残っている限り、もっと研究したいしね)


 すでに廃墟ではあるものの、昔取った杵柄と言うべきか、取り込みたいデザインが随所に見られ、僕は密かにワクワクしていた。迷宮の中で、できるだけ保存しておこうと思う。




 僕はかつての王都ディアフラの、北側だけを迷宮に取り込んだ。

 南側はそのままにしておき、この世界の人間の処理に任せることにした。

 遺跡として埋もれさせるにしろ、あらたな町として再開発するにしろ、まあ、あと数年は人が来ないだろう。

 外海に繋がる港もあるので、“障り”さえなくなれば、外国からの往来も増えるかもしれない。


(初遭遇した迷宮都市が『水涯みなはての古都アケルナル』だったら、ちょっとかわいそうかな)


 ゲームの『GOグリ』には、港町がいくつかある。その中でも、軍事色の強い『カノープス』や商業色の強い『フォーマルハウト』と並んで、『アケルナル』は水辺のイベントと関わりが深い。

 尤も、水を渡っての死出の旅路、という意味合いが濃く、「水涯の古都」は「皆果ての枯都」とも言うのだ。特に、「溟鳴うみなりのコライユ」というクエストは、涙を誘う切なく恐ろしいエピソードだった。


 閑話休題。


(だいたい、アケルナルは常設ハロウィンイベント会場みたいな所だからなぁ。都市全部がお化け屋敷なんだよな。わけわからんワープ扉とか、迷路とかあるし)


 ある意味、迷宮らしい迷宮なのだが、心臓の弱い人は滞在に向かないだろう。


 しかも、アケルナルは都市自体がデッドオアライブなダンジョン仕様であり、安全地帯は非常に限られている。即死トラップのようなボスエネミー遭遇死の可能性もあり、入場するだけでも、推奨レベルが六十以上となっている。『背徳街カペラ』よりも、死が近い都市なのだ。


 『水涯の古都アケルナル』の存在は知れていても、現在の冒険者では、まず来ることも入ることもできないだろう。


(それでも、“障り”の濃度だけは、なんとかしないとな)


 魔力を帯びた物品を持ち出すことはできなくても、周囲の“障り”を減らしていかないと、大地が死ぬ。それは、害獣がはびこるよりも避けたいことだ。


 そんなことを考えつつ、アトリエに帰ってきた僕は、実装された『水涯の古都アケルナル』の調整と、実装告知の文面を考えて各迷宮案内所へ通達。さらにミストにたかられていた『ヴェサリウス機工邸』と『老エルフの悪夢』の各ダンジョンに不都合が出ていなかチェックをしていた。


「うん? エラー?」


 パソコンモドキのモニターに、見慣れないエクスクラメーションマークが点灯しているのを見つけた僕は、急いでその箇所を表示させた。


「吸収したディアフラ? ……なんだ? なにがいかんのだ?」


 迷宮に吸収した、旧王都ディアフラの北側。そこに、なにか問題があったらしい。


(ミストを喰い過ぎたわけでも、燿石の貯蔵庫があったわけでもなさそう……。神様がいる祠でもあったのか? えー、何がいけなかったんだよ~。素材? まさか構造?)


 唸りながら散々こねくり回した挙句、僕はディアフラの南側も一度迷宮に含めてデータを取った後、やっと壊れた魔法陣を見つけることができた。


「……うっそだろ」


 それはディアフラをまるごと使った、巨大な魔法陣だった。


 バダァド川を組み込んで、おそらく地下水路として引いた線、街路として整備された線、奇妙な形の敷地に建てられた重要そうな建物……。それら他層が重なることで、真上から見た時に、なにかの魔法陣を描いていたのだ。

 王都建設の最初から、大規模な都市計画に携わっていなければ、こんなものは造れない。三百年近く前にそれができたのは……。


「カガミ! シロ! 大至急、大賢老シュナミスの情報をくれ! シュナミスの魂が残した記憶、全部だ!」


 僕の悲鳴のような声に、カガミとシロが直ちに情報を集めて提出してくれた。

 まだ精査がされていなくて、雑多な情報も混ざっていた。それでも、ディアフラに敷かれた魔法陣が、なんのための物かはおおよそ判明した。


「“障り”を吸収する魔法陣……そんなものがあったのか」


 シュナミスの認識によると、それは“安寧の魔法陣”というもので、不安や怒りを取り除き、心安らかにいられるという効果がある、らしい。

 ただ、迷宮のように魔力に変換する能力はなく、“障り”の素になりそうな感情を素早く吸収して、決められた場所に排出するという、下水道みたいな働きをしているそうだ。


 シュナミスには、これで反乱などを未然に防ぐ狙いがあったようだが、実は別の使い方をしていると思われる場所もあった。


「まさか、聖都ソロイルも同じだったなんて。まったく気が付きませんでした」

「僕もだよ。いやまさか、迷宮を創れって言われているのに、こんなものが存在したなんて、わかるかよ」


 情報収集担当のカガミが落ち込むけれど、こんなものがあったなんて、僕だって全然知らなかったよ。

 旧王都ディアフラの“障り”は、集められたらそのまま海へ流されていたが、聖都ソロイルでは、吸収された“障り”が、どうも聖地シャヤカー大霊廟に送られているらしいと、シュナミスの記憶にはあった。そこで浄化などされているのではないか、と考えられたが、シュナミスには聖地に入る資格がなかったので、真偽も詳細も不明だという事だ。


 この“安寧の魔法陣”は、当然というべきか教皇国の重要秘匿技術だった。秘密すぎて、忘れ去られるほどに。


「シュナミスは当時の、教皇候補者の側近だった。しかし同時に、古い魔術師の血筋も持っている技術者で、聖都ソロイルに隠されていた“安寧の魔法陣”をほぼ理解できていた。だが、主人が教皇選抜に敗れた余波で、教皇国を出奔し、統一前のニーザルディア地方に流れ着いた……」

「そこでローポーに出会い、ニーザルディア国の王都建設に携わったのですね」


 ディアフラの設備が、妙に進んだ技術を持っているはずだ。シュナミスが教皇国の高位技術者だったなら、稀人の知識もがっつり持っていただろうよ。


「この魔法陣が、約六十年前に、何らかの理由で壊れたせいで、ディアフラが崩壊した……。ディアフラの外には“障り”が蔓延していたのだから、一気に押し潰されても、不思議ではないな」


 壊れていて、しかも魔法陣の一部とはいえ、迷宮の“障り”を吸収する機能に干渉する可能性があったために、ラビリンス・クリエイト・ナビゲーション上にエラーとして出てきたようだ。


「……ボス、教皇国は、このディアフラの魔法陣を、知っていたのでしょうか?」


 カガミが半ば顔をこわばらせながら聞いてきたので、僕もしょっぱい顔にならざるを得ない。


「そこなんだよなぁ。なんでも、ニーザルディアが崩壊したのは、教皇国との正式な国交が始まったばかりだったらしいよ?」

「……」


 僕らは顔を見合わせ、互いの表情に「やっちまったなー」と書かれているのを見た気がする。


「それはもう、なんと言いますか……黒では?」

「カガミもそう思うよね? そう考えるのが自然だよね?」


 “安寧の魔法陣”が壊れただけなら、“障り”の吸収ができなくなるだけだ。

 だが、それだけで国が一瞬で亡びるだろうか?


「ロロナ様が言っていたんだよ。『息ができないほどの“障り”が蔓延した』らしいって」

「何者かが意図的に、ミストが発生するほどの“障り”をばらまいた可能性が?」

「どうやってそんなことができたのかは、全然わからないけどね」


 だが、教皇国だけにあるはずの、『“障り”がない場所』が、他国にあるのを許すだろうか?


「それまでに積み重なっていたものもあるだろうけれど、王都ディアフラ、並びにニーザルディア国崩壊の直接的原因は、教皇国からの攻撃であった可能性が大、ってことかな」

「ボスのお考えに、私も賛同いたします」


 僕はため息とともにしばらく頭を抱えた後、“安寧の魔法陣”の記録を残し、エラーが出ない程度にディアフラ北部を分解して保存することにした。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

次回より三話分、番外編となります。

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