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112 味方の強化は大事

 オルコラルト国の冒険者ギルド長と話ができたし、僕はさっさと港町ムタスを出ようと思っている。


「あんな貴族がうろついているなんて、面倒でしょうがないよ」


 職人ギルドで絡んできた少女は、裕福な商人というよりも貴族に見えた。それは主に服装が、オルコラルトよりもエル・ニーザルディアっぽいと感じたからだ。


「彼女はおそらく、オスボーン侯爵令嬢だと思います。いまムタスに来ている上流階級の中では、爵位も気位も、最も高いでしょうね」


 昨日のうちに町で情報収集をしていたスハイルが教えてくれたが、初日に道を塞いでいた片方も彼女だったようだ。


「リンベリュートの貴族の子供も……まあ、あんな感じだけど」


 王都リーベで()()()してきたレナウス・ヴァーガンとその一味のように、相手が男ならぶん殴っているけれど、女の子じゃあ軽率に殴るわけにもいかない。僕の従者たちを護るためならやぶさかではないけれど、下手こいたら責任取れと結婚相手にされる可能性もあるのだ。関わらないのが一番いい。


「もう少し観光したかったけど、ビーチで泳ぐ季節でもないしね」


 まだ季節は夏の手前で、海の水は冷たい。海水浴場も、冒険者たちが害獣を駆除して安全を確保するのは、もう少し先の話だ。


(今度海辺に来るまでに、ハニシェの水着を用意しよう。そうしよう)


 ちょっと不埒な想像をして顔がだらしなくなるが、優秀な従者たちの声にすぐ表情筋を引き締めた。


「では、出発しますか」

「そうしよう」


 時間はもう昼をまわっていたが、僕らは宿を引き払い、数日ぶりにエースが牽く大山羊車に乗り込んだ。


「ここから主要な街道に出て、およそ二日後、ダラーの町から東に。一週間ほどでカルモンディ渓谷の西端へ。道中の状況によりますが、旦那様の計画通りにチェックポイント踏んでいくと、それが最短日数になります」


 地図の上をすべるスハイルの指先が示す地名を確認にして、僕は大きく頷いた。


「それでいいよ。安全運転で行こう」

「かしこまりました」


 ソルが操る大山羊車に揺られ、僕は短い滞在になった港町を慌ただしく後にした。



 その日の夕暮れ時、僕は箱庭で七輪の側にしゃがみこんで、火の世話をしながら、干物が焼けるのを待っていた。

 七輪の上で網に載っているのは、ムタスの魚市場で買った、ミースという名前の魚だ。見た目がアジのようなので干物にしてみたが、炭火であぶられていい香りが漂っている。

 ただ、この世界の海魚はちょっと大きいと知らなくて、システムキッチンのグリルに入りきらなかったのは誤算だ。まあ、人数分を一気に焼こうとすれば、七輪を三台出した方が早い。


「美味しそうだね~」

「あいっ」


 僕の隣にいるファラも、うちわを持って大人しくしゃがんでいる。パチパチと脂が弾ける音や、目に沁みる煙が、物珍しいのだろう。


「坊ちゃま、お皿をお持ちしました」

「ありがとう」

「いい匂い。腹が減ります」

「ははっ。美味しく焼けていると思うよ」


 ハニシェと一緒に、トレイに角皿を用意して持ってきたソルは、真面目な顔でそんなことを言う。

 身が崩れないように、焼けた魚をトングで素早く網から皿に移す。


「さあ、ファラ。ご飯食べに行くよ」

「あいっ」


 ブンブンとうちわを振りながら抱っこを要求する幼女を抱き上げ、僕は夕食のために家に戻った。


 ムタスで滞在した宿で出された料理もおいしかったけれど、残念ながらレシピを購入することはできなかった。企業秘密という事もあって、そういう申し出は一律断っているそうだ。


(まあ、あんなのがいるんじゃ、いちいち対応してらんないよな)


 職人ギルドでのトラブルを思い出し、ムタスで接客業に携わる人たちの苦労をしのんで同情した。


「前から思っていたけど、スハイルって器用だよね」

「恐れ入ります」


 箱庭の家には、フォークやスプーンといったカトラリーの他に、箸も常備している。和食の時など僕は箸を使い、従者たちも使い始めているのだけれど、その中ではスハイルが一番上手に箸を使っている。いまも、器用に魚の骨を取っている。


「大人たちが、ナイフだけでなく、針を使っているのを見ていたので、自分もいつかやってみたいと思っていたんですよね」


 懐かしそうにそんなことを言うけれど、それは、あれだね? 食事作法じゃなくて、なんか、暗殺術とか、そういう方面の使い方だよね?


「……ハセガワに、そういう得物も見繕ってもらうよ」

「ありがとうございます! 楽しみです」


 美人が嬉しそうな笑顔になっているので、まあいいだろう。


「あ、そういえば……今日、旦那様のお客様にお会いしたのですが」

「うん?」


 ファラの食事介助をしていたナスリンが妙なことを言い出して、僕も手を止めた。僕の客? 誰のことだろう?


「今日はファラの成長記録日でしたので、ハセガワさんとミモザに行っていたんです」


 『学徒街ミモザ』では、基礎学問と共に農産をはじめとした技能研修が受けられるようになっているが、同時にデータ収集も行っている。

 その一環として、乳幼児の保健・医療、及び幼児教育のサンプルデータ対象を、ファラにお願いしていた。


「その時に、ハセガワさんから旦那様のお客様だと紹介された方に、不思議な歌を教わったんです。歌いながら、こうやって体を動かす……」


 ナスリンが控えめに手を動かし、頭、肩、膝へ当てる動きをして、僕はそれがすぐになんの歌かわかった。


(大きな栗の~木の下で~、か! 客って、稀人のことか)


 客の容姿を聞くと、どうやら彩香さんと枡出先生がミモザにいたようで、手遊び歌や幼児用の体操を教えてもらったそうだ。


「聞いたことのない響きの言葉だったのですけれど、不思議と意味は分かったんですよね。ファラは喜んで踊っていましたが」

「あー」


 稀人たちの共通スキル【異世界言語】は、僕たちの言葉を日本語訳にしてくれるけれど、稀人たちが僕らの言葉を話せるようになるわけではない。彼らの発する言葉が、僕らの耳と頭で理解できるものに変換されるというものだ。唇の動きが受容している意味の音と合わないので、人によっては非常に気持ち悪く感じる可能性がある。


(彩香さんに、この世界の言葉に訳した歌にしてもらおうか。枡出先生とカーラがいれば、適切な言葉を選んでもらえそうだし)


 彩香さんはまだ中学生の年齢だし、サポートとしてついてもらっているアルカ族や、介助犬のみたらしによると、まだまだ心の傷が癒えていないようなのだ。療養を優先しているけれど、やる仕事がないというのも生活に張り合いがないだろう。


「じゃあ、その歌もグリモワールにしてもらおう。そうすれば、ファラも練習して、自分で歌えるようになるしね」

「それは楽しみです」


 この世界の民謡も集めて、楽器も再現できたらいいな。迷宮都市でコンサートを開くのもいいだろう。


(そういうのは、『舞芸吟座ベガ』で出したいねえ。うんうん、楽しみだ)


 迷宮都市もコンセプトやそれに沿った建築物はあるのだけれど、運営していくうえでの内容がスカスカになりがちなので、実装したいネタはどんどん取り入れていきたい。


 そんなことを考えていて、少し前にイトウから報告を受けていたことを思い出した。


「あっ、そうだ。ソル、と、ハニシェとナスリンもだけど、何か欲しいスキルある? ダンジョンから、スキルスクロールが出るようになったんだよね」


 カチャカチャ、とカトラリーが皿に当たって、僕の方にみんなの視線が集まる。え、怖いよ。


「旦那様、なんですって?」

「え? だから、いままでスキル持ってなかった人が、スキルを持てるようになったの。スハイルはもう持ってるでしょ? ソルも、僕を護るのに欲しいスキルがあったら持ってくるよ、って話」


 僕の権限で、従者たちにはささっとスキルを付与してあげることはできるんだけど、僕にそんな力があると知れたら、今以上に過保護にされてしまう。だから、スキルスクロールというアイテムがあるよ、とワンクッション置くことにしたのだ。


 それでも、スハイルやハニシェは顔を覆ってしまったけど、肝心のソルは少し首を傾げて思案した後、あっさりと頷いた。


「じゃあ、いまよりも体が強くなるとか、丈夫になるとか、そういうスキルがいい」

「【豪剣技】とか【聖剣技】とか、剣技を強くするのもあるけど?」

「剣の修練は続ける。それよりも、もしもの時に、旦那様をかばえる身体が欲しい」


(なるほど。いまさら剣技を強くなんて、剣士に対して失礼だったか)


 僕はそう思ったけれど、ソルはやや眉間を曇らせながら続けた。


「旦那様の父上と手合わせした時、ふっとばされた。俺の体格は、これ以上成長しない」

「えぇ……。あの頃のソルは、まだまだ痩せていたじゃん」


 カレモレ館にいた頃よりも、いまのソルの体は健康的に筋肉がついている。でも、ソルは剣の腕前よりも、万が一の時に僕の盾になるとか、僕を抱えて逃げられるだけの体力が欲しかったようだ。


「わかった。それじゃあ、【身体強化】のスキルスクロールが出たら、もらってくるよ」

「ありがとうございます」

「ハニシェとナスリンも、欲しいスキルがあったら、遠慮なく言ってね」

「はい、考えておきます……」

「わかりました……」


 なんか呆然とされたけど、味方の強化は大事だよ。うんうん。


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