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10 雷の正体

 泡を食う部下に引っ立てられたオーウェンに続き、イゾルデとユーハルトも慌てて現場に駆けつける。

 ちょっと、そこには、未成年には刺激の強い光景が繰り広げられていた。



(『押されてる』……そうね。間違いではないわね)


 言葉のあやではない。

 一見すれば手弱女(たおやめ)のベロニカに、ロドウェルが押し倒されている。

 見張りに残っていたふたりのうち、ひとりは壁を背にうずくまっていた。

 意識がないらしい。どうやら、何かしら攻撃を加えられたあとのようだった。




   *   *   *




「ぐっ……うぅっ」

「本当にひどい方。約束は守らねばならないのよ?」

「守るも何も!? いいか、(やぶさ)かではない! ないが! その体はだめだ! きみは――()()()()!?」


 目のやり場に困る薄衣。艶めかしい肢体がロドウェルに覆い被さり、腹の上で馬乗りになっている。ロドウェルの両手首は掴まれ、床に押し付けられていた。


 長く垂らした髪でその表情は窺えないが、ベロニカは愉しげと不機嫌を足して二で割ったような声音で話している。


 ――人間ではない、と、ロドウェルは言った。

 であれば、あれは彼の義姉の体に宿った“何か”なのだろう。きっかけは、(いかづち)


(人外の、意志あるもの。いにしえの魔物……? まさか)


 普段の格好ならいざ知らず、帯剣していないイゾルデは、手を出しあぐねた。

 その姿は、惑う令嬢そのもので。


 ふ、と目が合う。

 やわらかな金糸の髪の(とばり)越し、ベロニカの青い瞳がこちらを見た。その瞬間だった。


「ッ!??」

「危ない、イゾルデ嬢!!!」

「やめろ! ――()()!!」


 パリパリ……と小さな音。空気が鳴り、肌を粟立てて産毛を総立ちにさせる磁場のようなものが生じた。


 イゾルデは目を細め、とっさに胸の前で両腕を交差させたが、攻撃は物理ではない。目に見えぬ“何か”だ。背後で倒れた魔法士を無事な部下に託し、退出させたオーウェンの叫びとユーハルトの制止の声が重なる。


 迫る、得体の知れない気配はとたんに霧散した。

 ぱち、ぱちと瞬くイゾルデを背に庇い、ユーハルトが間に立ち塞がっている。攻撃の余波か、ユーハルトの黒髪と上着の裾が風になぶられるようにはためいていた。その前に、今まで見たことのないほど大きな氷壁が出現している。


 クリスタルのような壁は中央の一点を穿たれ、やがてヒビが広がり、カシャン……! と、音を立てて崩れ落ちた。破片は残らない。夢幻のごとく消え失せる。――魔法の氷だ。


「ユーハルト!」

「下がってて、イゾルデ」

「でも」

「いいから」


「お前……何なの? その力。()()は、わたしたちに近い力よ。何者なの?」


「僕は人間だよ。少しだけ、氷の妖精と仲がいい。きみこそ何? 何の精霊?」


「……いやだわ。せっかく、べつの体にしようと思ったのに」

「させないから! 質問に答えて!」

「きゃあぁっ!? な、何よ、生意気な!」


 語気を強めるユーハルトは、いつになく容赦のない氷魔法を展開させている。

 ぶつぶつと物騒なことを呟くベロニカの睫毛が霜で白くなるほどの氷風を浴びせかけ、ロドウェルから遠ざけることまで成功した。


 立ち上がったベロニカは舌打ちし、おざなりに右腕を斜めに振るう。すると、一陣の熱風が生まれてユーハルトを襲った。これに、今度はオーウェンが駆け寄って対処する。「風よ……!」


 ぶわり、と額を撫でる生暖かい風に熱気が相殺されたことを知り、イゾルデは動けずにいた。

 完全なる魔法戦だ。しかも、高度な。


 人外の何かを宿すベロニカに、正面切って相対するのはユーハルトとオーウェン。

 枷の外れたロドウェルは素早く起き上がり、ユーハルトの隣まで移動する。三者それぞれがイゾルデを背で庇うように立ち塞がった。


 それに、ベロニカが(まなじり)を吊り上げて怒りだした。



「ロドウェル貴方まで! この体がいやだと言うから、そっちの娘にしようとしたのよ? どきなさい!」



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