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いつも読んでくださってありがとうございます!

「入りなさい」

「はい・・・」


僕は沙紀に促されて生徒会室に入る。中には誰もいなかった。


「そこのソファーに座っててもらえるかしら?」


コクリと頷く。促されるままに僕はソファーに座った。大きさ的には来客用なのだろう。


「これで邪魔は入らないわね・・・」

「え?」


沙紀は生徒会室の鍵をガチャリと閉めた。そして、僕の向かい側の席に座るのではなく、隣に密着して座ってきた。


「ようやく捕まえたわ♡」

「ちょ///沙紀!近いって///」


沙紀はさっきまでの氷の女王としての仮面を捨てて、子犬のように甘えてきた。それに、


「離れてほしいんだけど///その、当たってるし///」


沙紀のスタイルは抜群だ。出る所は出て、引っ込むところは引っ込む。だから、僕の腕には大きなそれが当たっていて、嬉しいというよりも恥ずかしいという気持ちが勝った。けれど、


「いやよ///それに当ててるのよ」


テンプレっぽいセリフをは言いながら、沙紀は離れるどころかより密着してきた。嘆願は逆効果だったらしい。


「それより学年のアイドルから抱き着かれた感想はどうかしら?///」

「っ/////ああ~もう離れてよ///」


沙紀は息まじりのウィスパーボイスで僕の耳に語りかけてくる。僕はそこで我慢の限界になったので、沙紀を無理やり引きはがそうとする。


「悪戯しすぎたわ。ごめんなさい。せめて、後十秒だけこの体勢でいさせて頂戴」


今すぐにでも離れてほしいくらいだったが、沙紀の甘えるような表情を見たらそんなことは言えなかった。


「分かったよ・・・」

「ありがとう!」


沙紀はパアーっと笑顔になって、より一層僕の腕に強くしがみついてきた。一瞬、僕の鋼の理性が崩壊しかけたが、なんとか耐える。


「♪~」


沙紀は鼻歌まじりでとても楽しそうだ。そんな表情をいつまでも見ていたい気もしたが、これ以上は流石に不味い。


(よし、そろそろ十秒だ)


「沙紀。時間だよ、離れて」

「いや」


十秒前の約束は一瞬にして反故にされた。


「沙紀・・・」

「だって、離れたくないんだもん」

「だもんって・・・」


沙紀は幼児退行してしまっていた。


「ずっとこうしたかったの・・・十秒じゃ足りないわ・・・」


沙紀のその言葉に僕は『うっ』と唸る。こんな愛くるしい沙紀を見たら断れない。


「ねぇ、明人、もう十秒お願い・・・?」

「はぁ~、分かったよ」

「ええ、ありがとう!」


沙紀はまた僕の腕に密着してきた。その幸せそうな顔を見ていたら僕の羞恥心など安いものだと思えてしまう。そして、十秒経った。


「ほら、時間だよ」

「いや」

「おい」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はぁ~これで午後の授業も頑張れるわ」

「そうですか・・・」


結局、後十秒は十回近く延長された。沙紀はここに入ってきたときよりも肌に艶が出ていた。僕はその代わりに疲労困憊だけど。


「それじゃあ、本題に入りましょうか」

「本題?」

「ええ、いくら私でも明人とイチャイチャしたいからっていう理由だけで、生徒会室を使ったりなんてしないわよ」

「そ、そうだよね」

「ええ、そうよ」


沙紀は目を逸らしている。なんとなくだが、公私混同している気がする。


「コホン、それよりも」


沙紀は真面目な雰囲気を醸し出した。さっきまでの甘えん坊モードではないと分かって僕も気を引き締める。


「さっき教室で明人を連れ出すときにいったことを覚えてる?」

「え~となんだっけ?」


生徒会室に来た時のインパクトが強すぎて教室での出来事がはるかかなたのように思えてしまった。沙紀は困った子を見るような目で僕に再び教えてくれた。


「問題児である明人を生徒会として更生させることよ」

「ああ・・・」


確かにそんなことを言っていた気がする。他人事のように聞いている僕に沙紀は半眼で言った。


「明人は学校でもトップクラスの問題児扱いをされているって自覚はあるのかしら?」

「え?そんなに酷いの?」

「ええ」


僕は普通にショックを受けた。居眠りくらいならしている生徒はたくさんいると思うのだが・・・


「知っての通り、うちの学校は県内でもトップの進学校よ。そんな学校に朝から昼、果てには午後の授業まで寝てしまう生徒なんていると思う?」

「ああ・・・」


そこまで言われてようやく自分の異常さが理解できた。


(ほとんど授業を受けてないじゃん・・・)


沙紀はそのまま続ける。


「このまま授業で寝続けるなら退学にさせようという話が出てきているくらいよ」

「退学!?」

「ええ。ことはそれくらい重大な問題になっているの。お分かり?」

「う、うん」


やっと自分が窮地に立たされていることに気が付いた。


「でも安心しなさい。退学をさせないために私がいるの。さっきも言ったでしょう?私は生徒会として明人を更生させるって」


沙紀が自信満々に宣う。その姿には頼もしさを覚えた。


「でもどうやって・・・?」

「具体的な指標を何か示せれば退学は免れるわ。例えば地域活動やスポーツで結果を残したりすれば、退学を免れる可能性もある。ただ、そんなものよりも更生を示すのにうってつけのモノがあるでしょう?二週間後に」

「二週間後・・・テストか!」

「That's right(その通りよ)加えて、テストの点数が全く出せないっていう結果があれば退学にもしやすいからそこが最後の砦でもあるわね」

「なるほど、天国と地獄が共存しているわけか・・・」

「ええ」

「ちなみに成績の方はどれくらい取ればいいのかな・・・?」


テスト結果が今の僕が更生を示すのにうってつけと言うことは分かった。しかし、そのためにどれくらいの結果を示せばいいのだろうか。


「うちの学校って総合で三十位以内に入ると、張り出されるでしょう?それに載れば問題ないはずよ」

「え・・・?」


沙紀はしれっととんでもないことを言う。高校一年生の頃の僕の成績からすると夢のまた夢だろう。


「私が教えるんだから安心しなさい。明人はただ私を信じていればいいのよ」

「う、うん」


沙紀は一片も僕が落ちることなど考えていないようだ。むしろ載って当たり前くらいに思っているのだろう。


「でも、やっぱり、義母さん、じゃなくて、美紀子さんには勉強については散々言われてきたから、ちょっと自信がないな・・・」


勉強に関しては沙紀に比べて全く勉強ができないと刷り込まれたまである。沙紀は美紀子さんの名前がでて不快そうな表情を浮かべた。


「あのバカ親は本当に余計なことしかしないわね・・・」

「バカ親って・・・」

「あんなクソババアの言うことなんて気にしちゃダメよ。基準が私だから色々おかしいだけで、明人は県内トップのこの高校に入れているだけで勉強はできる方よ」

「そうなのかな?」

「ええ、そうよ。明人はまず自信を持ちなさい。貴方はできる子よ」

「う、うん」


ここ最近は全く褒められることがなかったから正直ちょっと嬉しかった。ただなぁ


「沙紀って毎日三十分くらいの勉強で学年トップでしょ?」

「その情報がどこから発生したのか気になるのだけれど・・・自慢じゃないけど、毎日それの十倍くらいは毎日勉強してるわよ?」

「え?そうなの?去年美紀子さんには沙紀は毎日三十分の勉強でこの学校のトップになれるのに僕は半分より下しか(・・・・・・・・・)取れない(・・・・)って馬鹿にされ続けてきたんだけど・・・?」

「そんなわけないでしょう・・・え?」

「ん?」


沙紀は一瞬考えこむ姿勢を取った。そして、信じられないものを見るかのような目で僕を見てきた。


「ちょっと確認なんだけど、明人」

「う、うん」


沙紀が真面目な顔で僕に探りをいれるように聞いてきた。


「貴方、去年はどうやって乗り切ったの?今ほどではないにせよ、クソババアにこき使われてきたんだから、勉強時間なんて中々取れなかったでしょう?」


(自分の母親をクソババア呼ばわりは良くないと思うんだけどなぁ・・・話の腰を折りそうなので口には出さないけど)


「そうだね、寝る前に教科書を十分くらい眺めるくらいかな。それ以上明かりをつけてると電気代がもったいないって美紀子さんに言われたから・・・」

「それで順位はどのくらいだったの・・・?」

「二百人中百三十位くらいだったと思うよ」


沙紀は僕の言葉を聞いて、ソファーに深く座り込んだ。そして、ため息をつく。その後、僕にギリギリ伝わるか伝わらないかの声量で。


「うちの学校って県内トップの学力を持つ学生が集まるのよ・・・?それなのに一日十分程度の勉強でその順位はおかしいわ・・・」

「そ、そうかなぁ」


沙紀は僕の言葉に瞑目した。


(僕何か変なこと言ったかな・・・?」


もしかしたら、何か気に障ることを言ったのかもしれない。僕が不安に思っていると、沙紀は目を開いて、僕を見た。


「明人」

「は、はい」


僕は敬語で返事をしてしまう。


「今回のテスト、二週間本気で勉強しましょう」

「え?」

「お金は義父さんの残してくれた分があるから平気でしょ?だから二週間をフルで勉強に費やしてみて。これは命令よ」

「わ、わかった」


沙紀は圧のかかった声で僕に命令してきた。


(そういえば、勉強だけに集中できるのっていつ以来だろ)


今までは家事とか美紀子さんの頼み事等で全くテスト勉強なんてしてこなかった。だから、初のテスト対策だ。しかも、退学のかかった大一番。僕は全力で臨むことにした。


(沙紀の顔に泥を塗らないように頑張らないと!)


僕はフンスと気合を入れた。


「もしかして、明人って天才・・・?明人と一緒にいれるし、生徒会での実績を積めるしで、一石二鳥くらいにしか思っていなかったけれど、もっと欲張ってもいいのかしら・・・?」


ポツリとこぼれた沙紀の言葉がテストに向けてやる気を出した明人の耳に届くことはなかった。

『重要なお願い』

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