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11  松山side

いつも読んでくださってありがとうございます!

「岩木のくせに生意気になりやがって!」


俺こと松山優斗は苛立ちを隠せないでいた。原因はもちろんあいつのことだ。岩木のいなくなった机に蹴りをいれた。


「お、落ち着けって」

「そうそう。あんな奴のことなんて考えたって無駄だって。ね?」


クラスメイト達は俺の苛立ちに困惑していた。俺を見るクラスメイト達の様子が恐怖に染まっていたので冷静になった。


(こんなところであいつに当たってもしょうがないな)


俺はいつもの仮面を被ることにした。


「悪い悪い。ちょっと乱心してた」


俺がいつもの様子に戻ると、クラスメイト達の間に流れていた緊張感のある空気は一気に霧散した。


「それにしても、キモパンダのやつマジで調子に乗ってたね」


その一言が皮切りになって、みんながあいつの批判を始める。


「ね~、松山君が調子が悪いからって自己主張が強くなっちゃってさ」

「それな。松山が本気になればあんな問題楽勝なのにな」

「今日はツイてなかったね、松山君」


口々に岩木の悪口と俺へのフォローが入る。


(クラスメイトには本当に恵まれたな)


改めて俺は実感する。そして、あの忌々しいキモパンダは次で潰す。今日は偶々調子が悪かっただけだ。昨日は日曜で夜遅くまで勉強していた。それが祟ったのだろう。


「でも、キモパンダのやつ、俺たちが解けない問題を普通に解いていたよな・・・」


ポツリと零れた異分子の声。大きくも小さくもないそのつぶやきがクラスに静寂をもたらした。


「わ、私たちができなくても松山君が本気を出せば勝てないはずがないでしょ?だよね・・・?」


クラスメイト達の不安が伝播した。


(やれやれ)


「俺が負けるわけがないだろう?それにキモパンダが今回あの難しい問題を解けたのだってからくりがある」

「からくり・・・?」

「ああ」


俺は自信満々に答える。というよりもこれ以外にあるはずがないのだ。


「沙紀に今日の授業で出る箇所を教えてもらったんだよ」


それ以外にないだろうとクラスメイト達に伝える。すると、得心がいったらしい。


「確かに、水本さんが教えてくれるなら」

「あいつズルいな」

「ねぇ~水本さんのおかげで勉強ができるようになったのに、自分の手柄みたいに発言してたよねぇ」

「気持ち悪!!」


クラスで岩木落としが始まる。


(これだよこれ。岩木は本当にクズなことをして沙紀を束縛しているんだ。だから正義は俺にある)


自分の敵がこけ落とされて自分の正義が満たされていく感覚を味わう。そもそも俺がなぜあの取るに足らない雑魚に構うかと言うと、それは義妹(になる予定)の沙紀が関係していた。


水本沙紀。俺はあの女に一目ぼれした。俺はスポーツをすれば絶対にエースになれるし、勉強をすれば必ず一番だった。さらに天はおれに最高のルックスと性格をもたらした。おかげでクラスの中心にいることは常に容易だった。


しかし、父が経営する高校に入った時、俺は生まれて初めての敗北を味わった。二位という数字を何度も確認した。俺は悔しさではちきれそうになったが、すぐにそんなことはどうでもよくなった。一位で俺のクラスメイトだった水本沙紀はとてつもなく美人だったのだ。俺はその容姿に一撃で惚れた。そしてこうも思った。


(ああ、この女は俺と同レベルの人間で俺の横に立つにふさわしい女だ)


それからの俺の行動は水本沙紀を落とすことだけに集約された。沙紀はクラスの女子の学級委員だったので、俺は常に一緒にいれる男子の委員に立候補した。そして、時間をともにしていればいずれ俺の魅力に完堕ちするだろうと思ったが、入学してから半年以上経っても全く靡かなかった。


俺はそんな経験が全くなかったため、困惑した。それと同時に、俺の女になるくらいならこれぐらい隙がない人間じゃなきゃいけないなとも思った。そう考えたら俺は俄然燃えてきた。


ある日、女子たちが沙紀といわゆる恋バナをしているのを聞いた。俺はその時男共と話していたが、聞き耳を立てていた。


「水本さんって好きな人っているの?」


俺は心の中でナイスと叫んだ。


「いるわよ」


沙紀は即答した。そして、女子は黄色の悲鳴をあげてどんな人間かを聞いた。沙紀は少し声を弾ませていった。


「ずっと一緒にいる人。何度も何度もサインを送っているのに、全く気が付いてくれないのよね」


沙紀は頬を紅潮させていた。


「後は勉強ができた・・・はずだわ。スポーツも私の記憶違いじゃなければできたはずよ」


「へぇ~。ただ勉強は水本さんの方ができるんでしょう?」

「どうかしらね。まぁできれば私よりも頭が良い方がいいわね」


俺は沙紀の言葉を一言一句噛み締めていた。


「おい。松山?どうした?顔が赤いぞ?」

「いや、なんでもない」


沙紀が好きなのは間違いなく俺だ。その事実を知った瞬間に俺は勝ちを確信した。


(なるほどな。俺がテストで沙紀を負かすのを待っているってことか)


面倒な女だなと思いつつ、そんなところも愛おしいと思ってしまった。俺はより本腰を入れて勉強に取り組んだ。しかし、困ったことに沙紀にはまったく勝てなかったのだ。一年のテストの順位はすべて俺が二位で沙紀が一位だった。


これではいつまでたっても平行線だと思ったが、神は俺を愛してやまなかった。一年の二月ごろ、なんと、俺の父親と沙紀の母親が再婚することになったのだ。俺は歓喜した。神が俺と沙紀をくっつけようとしていると。義妹と義兄の関係になれば普段よりも一緒にいれる。


沙紀の母親と沙紀と俺の父親と俺で対面した時、相手の義母には好感しか持てなかった。物腰がやわらかく、とても優しそうな印象を受けた。ここで初めて知ったのだが、沙紀には義兄がいたらしい。しかし、沙紀の母、美紀子さんが言うには、血が繋がっていないからという理由で沙紀と美紀子さんにDVを行い、そのまま行方をくらませてしまったらしい。


俺はなんてやつだと思った。俺はまずは義兄として沙紀の心の拠り所になろうと思った。俺は兄妹として沙紀に仲良くしようと言った。しかし、


「貴方と兄妹なんてごめんだわ」


と言われてしまった。強い言葉でこんなことを言われたら普通なら心が折れる。だが、俺は言外の意味を掬い取った。


(つまりは俺と恋人関係になりたいんだろ)


察せられる人間はこういうところで凡人と差が開くのだと自身の天才ぶりに天を仰いだ。俺は二年になったら絶対に沙紀の点数を超えてやると誓い、より一層努力をした。


二年になると、俺と沙紀はクラスが分かれてしまった。残念だが、仕方がないと割り切った。沙紀は一年の後半から生徒会に入った。生徒会に入れるのは一年のうちだと首席だけだ。だから、学級委員は沙紀から別の女になった。


二年になっても沙紀は引き続き生徒会に入ったままだった。このままでは中々接触できないと思い、俺は学級委員を引き続き、引き受けた。生徒会と学級委員は距離が近いからな。そして、沙紀もそれを望んでいるだろうと思った。


(いじらしい義妹のために一肌脱いでやるか)


しかし、学級委員になった瞬間に問題が起きた。それは授業中も休み時間もすべて寝ている生徒がいたことだ。そいつは登校時間にしっかり登校して、そのまま放課後のチャイムと同時に起きて慌ただしく、学校を去るやつだ。


俺は生徒会の会議に出席した時の帰りの廊下で沙紀に話題を与えてやった。


「俺のクラスにずっと寝てるやつがいるんだよ。どうすればいいかね?」

「貴方のクラスメイトのことなんて興味ないわ」


沙紀はそっけない。


(照れ隠しだってことだと分かると可愛いもんだな)


「そういうなって、岩木明人っていうんだけどさ」

「今、岩木って言ったかしら?」

「ん、ああ」

「そう・・・」


その時、沙紀は俺が一度も見たことがない顔を浮かべた。俺はその表情を見て黒い感情が湧き出てくるのを感じた。


「そんな問題児がいるなら私直々に生活態度を叩き直さなきゃいけないわね。お手柄ね。松山君」

「あ、ああ」


沙紀の足取りは不思議と軽そうだった。代わりに俺の気分は最悪を極めていた。


次の日、俺は沙紀の手を煩わせないように岩木の指導に当たることにした。


「おい、岩木、起きろ?」


俺はいつもの調子で起こそうとするが、全く起きない。いつもの俺なら根気強く粘るのだが、何も知らずに沙紀の手を煩わせようとしている岩木に腹が立ってしょうがなかった。


「おい!クソ野郎起きろや!」

「グフ」


俺は岩木の頭を教科書を丸めて思いっきり叩いた。教室中に音が木霊した。


「ん、何・・・?」

「何じゃねぇよ。岩木?お前さ、授業中いつも寝ているけどさ、先生に申しわけないとか思わないわけ?」

「う、うん」


目が隈だらけだった。大方ゲームでもやっていたんだろう。そんな岩木の様子に余計に腹が立つ。なんで沙紀がこんな奴にあんな表情をしたのか。考えれば考えるほど苛立ちが募ってく。だから俺は沙紀の代わりに徹底的に指導をしてやる。悪いのはすべて岩木だ。だから俺の行いはすべて正しいのだ。


俺はその日から岩木に対する徹底的な指導を行った。最初は周りもやりすぎなんじゃないかと止めてきたが、生活態度を改めない岩木に対して、クラスメイトどころか先生方も苛立っていた。だから俺はすべて正しい。周りもみんな味方だ。だから悪いの岩木だ。


そして、岩木という問題児から沙紀を開放する。そしたら、あいつも俺の良さに気が付いて俺のモノになるだろう。だからそれまでの辛抱だ。


「お、おい大変だ」


岩木と沙紀の監視に行かせていたクラスメイトが慌てた様子で戻ってきた。それを見て俺も現実に戻ってきた。


「どうしたの?」

「キモパンダのやつが水本さんに勉強を教えてたぞ?」

「は?」


俺は本当に何を言われているのか分からなくてクラスメイトに強く当たってしまった。


「だ、だから岩木の野郎が水本さんに勉強を教えてたんだって!」

「・・・それは本当なのか?教わっていたとかじゃなくて」

「ああ!この目でしっかり見た」


ざわざわとクラス中が騒ぎ出す。


「もしかして、あいつって本当に頭がいいの・・・?」

「まさか」

「だけど、水本さんが教えを乞うなんて」


俺はため息をつきながら手を叩いて、動揺を鎮めた。クラスの注目が俺に集まる。


「見張りありがとな。多分疲れてたんだろ?幻覚を見るぐらいにはな。ごめんな?ゆっくり休んでくれ」

「え、あ、うん」


俺はこれで学食でも買って来いと金銭を渡した。


「けど、松山君、これが本当なら」

「ありえないよ」


俺は自信をもって応える。だって沙紀に教えるなど、この土日だけで(・・・・・・・)すべてのテスト範囲を(・・・・・・・・・・)終わらせなければ(・・・・・・・・)不可能だ(・・・・)。それも完璧に。


そんなことができる人間なんて存在するはずがない。俺は余計なことをしてくれたなとため息をつく。


「松山がそういうなら・・・」


みんな渋々ながら納得してくれたようだ。


「それに今回のテストでは秘策があるのさ」

「秘策?」「何々!?」


クラスメイト達が鯉のように口を開けて聞いてきた。これは沙紀を倒すために元々用意していた秘策だ。父さんも説得したし、俺が学年一位になることはほぼ確定だろう。


「他のクラスのやつには内緒だぜ?後はキモパンダにもな。本当は当日に発表される予定なんだからな」


うんうんとみんなが頷く。そして、俺はクラスメイト達にテストの概要を伝えた。


『重要なお願い』

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[一言] さすがに違うクラスなのに授業で出るところを教えてもらってたに納得するのはクラスメイトをアホにしすぎじゃない?
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