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短編 78 魔女のお話

作者: スモークされたサーモン


 魔女ってどうなってるんだろう。


 そんな疑問から生まれたお話です。


 


 

 私は魔女。


 ……の見習い。


 うちの家系は代々魔女の家系だ。遡ると、すごい魔女もご先祖様にいたらしい。


 私も十二才になったので魔女の修行が始まることになったのだ。


 まずやったのはこれ。


「はーい。魔女と言えばほうきねー。とりあえず跨がって飛んでみましょうねー」


「はーい!」


 先生はお母さん。これも代々の仕来たりらしい。母から子へ。それを繰り返して魔女は現代まで連綿と続いているのである。


 まぁそれはどうでもよくて。


 やっと魔女っ子になれる!


 その方が大事なのよ。


 というわけで跨がってみました。家にあったほうきに。


「……お母さん。どうやってここから飛ぶの?」


 ふと気付く。どうやって浮かぶのか全く知らないことに。


「……なんで浮かんでないのか、お母さんも疑問なのよねー?」


 魔女っ子計画、いきなりの頓挫。


 ちょっと絶望に飲まれる。


「……お母さんはどうやって飛んでるの?」


 困ったときは先生に聞くべし。小学校でも習うことだ。すこし、いや脇汗がすごい事になっている。お母さんなら何か知っているはず。何せ魔女だし。


「……う~ん。何となく?」


 ……フワっとか!? いや、そういうこと!? え、そういう感じで魔女なの!?


 脇汗だけじゃなくパンツも汗でずっしりし始めた。


「あ、ちゃんと『飛びたーい!』って思わないとダメよー?」


「……はーい」


 お母さんは少し変わっている。分かってはいた。天然お母さんだけど、ものすごく変わっているお婆ちゃんよりはマシだと思う。耐えるんだ、私。


 魔女っ子になるにはお母さんに師事するしかないんだ。お婆ちゃんに教わると多分『悪い魔女』一直線だ。鍋を混ぜて怪しい紫の液体とか作っちゃうのは魔女っ子ではない。あれは錬金術士だ。


 私は魔女っ子になる!


 魔女っ子になってアイドルになるんだ!


「どりゃぁぁぁぁぁぁ!」


 飛べぇぇぇ! ほうきよ! 私を乗せて浮かび上がるのだぁぁぁ!


「あらぁ。我が娘ながら変わってるわねぇ」


 今だけはお母さんの呟きも聞こえない。お母さんにだけは言われたくないし!


 気合いを入れたお陰か、股に挟んでるほうきからすさまじい力の波動を感じた。


 これなら!


「あだだだだだだ!?」


 股にほうきが食い込んだ。


 死ぬかと思うほどに痛かった。股から二つに裂けるかと本気で思った。


 魔女は……股間が鉄製じゃないとなれない事が分かった。


 十二才の春。桜の花びら舞う麗らかな日。私は股間を押さえて大泣きすることになったのだ。


 で。


「お母さん。股間に何を仕込んでるの?」


「お母さんのおまたには何も仕込んでませんー!」


 私は空を飛べない魔女になった。ほうきには乗れないけど、魔法はすぐに使えるようになった。爆裂魔法のイオナズ○とか、火炎魔法のベギラ○とか。ラナルー○は難しい。血筋的に氷結系は苦手だけど、それ以外は何でもいける。


 ……空は飛べないけど。


 私だって魔女っ子アイドルを諦めきれず、何度もチャレンジしたのだ。


 その度に股間が悲鳴をあげた。


『裂ける! いや、切り裂かれてるよ!? 私のおまたが!』


 と。


 男の子の魔女っ子が居ない理由はこれだったのだろう。絶対に潰れる。ほうきは容赦なく股間にめり込んでくる。去勢待ったなし。魔女って怖いと思った。


 勿論、跨がり乗りだけじゃなくて横乗りも試した。


 うちのほうきは頑固な野郎だった。頑として浮かなかったよ、こんちくしょう。




 私が魔女見習いになって三年が経った。アイドルになるにはここらがデッドラインである。


 十五才になった私は最終手段に頼ることにした。


「おばあちゃーん! 助けてー!」


「ひっひっひ……まぁ魔女なら一度は通る道さねぇ」


 お婆ちゃんは『魔女』だ。誰が見ても『あ! 魔女だ!』と口に出してしまうくらいの魔女だ。黒のローブを羽織った腰の曲がった老婆。顔はしわくちゃでカギ鼻というかワシ鼻。そして手には杖を持っている。頭には勿論とんがり帽子。


 顔は全部仮面で腰も本当は真っ直ぐなんだけど、魔女としての正装がこれなので仕方無い。私もイベントの時は変装するし。


「はぁ……あの子の娘だから大丈夫かと思ってたんだけど、変な方向で魔女だったのねぇ」


「おばあちゃん。キャラ崩壊してるよ」


 仮面を脱ぎ捨てて背筋を伸ばした美魔女がそこにいた。肩をコキコキしてる姿はお母さんよりも少し年上に見えるくらい。


 おばあちゃん。お母さん。私。


 この三人で街を歩くと三姉妹に間違えられる。

 

 母親と祖母。これと姉妹扱いされるのは非常に気に食わない。私は十代なの! ピチピチなの!

 

 一緒にしないでよね!


 ま、それは置いといて。

 

「おばあちゃん。ほうきが股に食い込んで超痛いんだけど」


 私がわざわざ隣に住んでるおばあちゃんを訪ねたのはそういう理由だ。うちの隣がおばあちゃんの『薬屋さん』なのだ。いつも変な臭いがしてるけど、もう慣れた。


 夕飯も一緒に食べるのでわざわざ訪ねてる感じはしない。夕飯の時に聞けば良いと思うかも知れないが、ここには『魔女ルール』があるのだ。


 魔女の教えは母から子へ。祖母から教えを受けるには『魔女』としての筋を通さなければならないのだ。面倒だけど、そういう仕来たりなので仕方無い。


「お股に食い込むの。超痛いの。あれって、なんとかならないの?」


「そりゃ痛いわよ。私だって股で全体重を受けたら泣き喚くわよ」


「……お母さんが変態なの?」


 お母さんは平気な顔で空を飛んでいる。あまりにもすいすいと飛んでいるので股間が鋼鉄製だと私は思っている。もしくは痛くても大丈夫なド変態。だってお母さんだし。


「……あの子、人に教えるの下手くそ過ぎるでしょ」


 おばあちゃんは頭を抱えていた。


 おばあちゃんはその後教えてくれた。正しい空の飛び方を。


 ほうきの正しい扱い方を。


 その代償はとても高くついてしまったが、魔女との取引はそういうものなので納得するしかない。


 魔女ってものすごく『えっちぃ』存在であることもおばあちゃんから教わった。お母さんはそういう事をスルーして魔女になったらしい。ある意味で異端。やっぱりお母さんだ。


 私もえっちぃ事には興味津々な年齢なので、今度そういう事をするときにはおばあちゃんに誘ってもらう事にした。魔女ってすごい。鼻血出る。


 そんなこんなでこうなった。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 飛ぶのだ! 今度こそ私は空飛ぶアイドルになってみせる!


「あらー」


「……やっぱり変な方向に行ったわねぇ」


 叫んでいる私には二人の呆れた声など届かない。二人にだけは言われたくないし!


「全力全開よ! チャーリー!」

 

 私の愛車。自転車チャーリーが唸りをあげる。


 魔女ってさー、別にほうきで無くても飛べるんだって。とりあえず跨がれるサイズの物なら何でも平気って事らしい。


 いや、確かに魔法のバイクに乗って空をかっ飛んでる人もいたけどさ、まさかバイクがほうき枠とは思わないじゃん?


 サドルとペダルで股間に掛かる圧力は許容範囲内。ほうきのえげつない食い込みとはおさらばなの。まぁ立ち漕ぎしてるから尻はフリーなんだけど。


「魔女……いっきまーす!」


 魔力で作られた歪曲カタパルトを通り、大気圏を突破するような勢いで天へと駆け上がる私とチャーリー。


 このカタパルト式ロケットスタートはロボットアニメから着想を得た。


 宇宙船の発射プロトコルをパクってみたのだ。ちなみに私の尻からは爆裂魔法のイオナズ○が出ていて、それが加速動力となっている。レールガン的加速は魔力でも無理だったの。覚えて良かったイオナズ○。立ち漕ぎでチャリをかっ飛ばすのは爽快でした。


 パンツ……爆裂したけども。


 ノーパンで空を飛ぶのは爽快でした。はい。


 その後、おばあちゃんに要求されてた同級生との合コンをしたりアイドルオーディションを受けたりしながら私の中学時代は波乱とロマンとエロスに彩られ平穏に過ぎていった。


 異色のアイドル『チャリ魔女ノーパンティー』として私がアイドルデビューしたのは高校に入った直後となる。

 

 アフターバーナーで尻を隠したノーパン女子高生アイドル……という売りで私は一世を風靡……してたまるかこんちくしょう!


 私はエロ枠じゃねぇよ! どう見ても清純派だろ!


 こうして私は『厄災のノーパンティー』として魔女の歴史に名を残す事になる。とりあえずアイドル事務所は爆裂した。きっと世界は平和になったことだろう。機動隊とバトったりもしたが、あれはきっとお遊びだ。


 おばあちゃんは笑っていた。お母さんも笑っていた。やっぱり二人はおかしいと私は思うんです。


 だって私は普通の女の子ですから。アイドルに憧れるごく普通の女の子。ノーパンだけど、それはただの……あれよ。


 ノーパンなのは、あれよ、あれ。


 完璧過ぎても嫌われるって言うし、丁度良いの。うん。開放的だし。


 ね?


 だって……ほら、飛ぶ度にパンツが爆裂するとストックパンツがすぐに無くなっちゃうし。


 ……ね?




 今回の感想。


 パンツは履きましょう。女の子は特に。お腹を冷やすのはよくありません。


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