交渉
「交渉は上手くいった様ですね」
取り調べ室の隣の部屋ではマジックミラー越しにマイクの声を拾っている。
「交渉人の基本で大事な事は2つ」
話を聞いてやる事、相手の言う事を否定しない事。
「取り調べも一緒ですよ、話を聞いて調書を取る、矛盾点があってもその場では否定し無い」
証拠を取ってから矛盾点を示す、それで自供すれば御の字である。
「住居不法侵入、器物破損、窃盗」
この程度ならば短期刑、初犯なら執行猶予もつくかも知れない。
「それよりも、金になるってのがわからん」
そんな疑問も、兄貴分の取り調べで薄らと、わかり掛けて来た。
「大口の寄付が入って来たんす」
右翼団体の資金源は、基本は会員からのカンパだ、一口いくらかで金を集め、時には政治団体の名前の入ったステッカーなども売る。
「部屋のパソコンか出来れば住人を押さえて欲しい」
成功したら追加で金を出すと連絡先のメモを渡された。
連絡先の番号は生きている、しかし電話会社によれば。
契約時の初回だけは入金されていたが、現在では契約者と連絡が取れない為、数ヶ月後には解約する予定だと言われた。
「飛ばしのスマホ…キナ臭いな」
しかし現状ではこれ以上の追跡は不可能に近い。
連絡先の番号もいつまで使えるか。
「背格好が兄貴分に似ている警官はいるかな?」
その日の夜、近鉄八尾駅のバスターミナルで、近鉄百貨店の紙袋にパソコンを入れた捜査員が居た。
背格好が似ているからと夜なのにサングラスを掛けて愛国とプリントされたジャンバーを着ている。
近鉄八尾駅のバスターミナルは複雑だ、歩道橋から目当てのバスに乗れる用に細分化されている。
指定された近鉄藤井寺駅のバス停で待っていると、一台の乗用車が近付いて来た。
黒のアルファード、スモークを張っているのか窓ガラスが黒い。
捜査員の前まで来ると、後部座席のスライドドアが開いた瞬間。
中から発砲された!パンパンパンっと乾いた音が辺りに響くと、捜査員が後ろ向きに倒れた!
アスファルトに頭が当たると、ゴリッと鈍い音がしてそのまま動かなくなる。
中から男が出て来た!っと思った瞬間、パソコンの入った紙袋を鷲掴みにするとアルファードの中へ吸い込まれる!
タイヤが悲鳴を上げながら走り出す、焼けたゴムの匂いが辺りに漂う!
「救急車!早く!」
張り込みをしていた捜査員達が慌てふためく中、アルファードは夜の闇の中に消えて行った。




