潜伏
犯人側の話になります
タワータイプのパソコンからログインした記録を消しながら、ヤン少尉は手元に置いてあるチョコをボリボリと齧っていた。
潜伏している府営住宅の中では、ケン中尉は2発発射した拳銃の分解整備を、マー軍曹は腕立て伏せなどの筋トレをしていた。
パソコンの記録を消すのがひと段落する頃には、すっかり身体が凝り固まる。
パーカーを羽織りながらヤンは自転車の鍵を取ると。
「食事買って来ます!」
そう言って玄関から飛び出して行った。
それを見て、マー軍曹が渋い顔をして。
「また…あれですかね?」
不足した弾を弾倉に足しながらケンが。
「この間は…トロピカルでパイナップルが挟まってたな」
うんざりした顔でマー軍曹が、カルビ丼が食べたい!
っと愚痴るのを見ながらケンは声を出さずに笑っていた。
自転車に乗って15分、駅前の商店街の中程に米国に本社があるファーストフードのハンバーガー屋に着くと、ヤンは外からカウンターをそっと覗いた。
カウンターの真ん中のレジに彼女が居た。
黒髪のロングヘアを帽子の中に収め、明るく接客している胸の名札には。
燐っと一文字書かれている。
ヤンが中に入ると燐が軽く手を振った、そのまま彼女の前に行くと持ち帰りで注文をする。
米国の西の地方の名前のバーガーに、照り焼きバーガー、フライドポテトのLサイズをそれぞれ3個ずつ注文すると、燐が注文を厨房に伝える。
「最近、沢山買うねぇ!」
笑顔でそう言うとヤンが。
「親戚の叔父が2人出て来てるんだ、ウチに泊まって宿泊代を節約してる」
何の商売?、そう聞く燐に。
「朝鮮人参の粉末の販売、自分の農場で育てて加工までしてるから、安いよ」
勿論、嘘だ。
本当は祖国から定期的に麻薬が入って来る。
漁船で日本海に電波発信機を付けて、複数纏めた目印と共に流す、ついでに銃火器や偽の旅券など間諜に必要な物は全て送られてくる。
そんな事を考えている間に注文が揃った。
現金、たぶん偽金で支払いを済ませると。
「また来てね!」
そう言う彼女の笑顔を見ながら。
あと何回ここに来れるだろう?……
そう考えると、祖国に帰国するのを躊躇う自分が居た。