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第4話

 基地を1歩出て空へ飛び立つと遠隔で敵の機影を確認することが出来た。

 正面に戦闘機の編隊がおおよそ4隊程、右前方に敵のロボットと思われる機影20機。随分とまぁ大所帯で攻撃を仕掛けてきたものだ。

 

「久々に乗るってのに、ウォーミングアップにしては随分と過負荷ね……」


 モニター横のキーボードを操作し、敵の位置をオートマークへ。

 これで一度視認した機影を全てモニター上でマークできる。技術というものは便利なものだ、とふと考えながらスタスターを噴出し、機体の高度を上げていく。

 この機体、エグゼリオンは基本的に大気圏内での戦闘は補給無しの全開戦闘でおおよそ30分持つ設計になっている。それ以上はスラスターガスや内部バッテリーユニットの電源が落ちてしまったり、弾薬切れ等様々な問題が起こってしまうのだ。

 とは言っても全開戦闘を30分も続ける程長い戦闘等、ほぼほぼ無いと言ってもいいようなものだ。

 モニターに表示されているマーカーを確認すると、現在の高度が大体敵と同じような高度にいる事が分かった。

 しかし、まだ距離はかなり離れている。

 なるべく精密な射撃を行う為一度オート照準を切り、マニュアルの照準に切り替える。それと同時にコックピット背後から照準器が伸びてきた。

 この照準器は実銃を構えるように片目に装着することで、より正確な射撃を行うことが出来るデバイスだ。

 デメリットとしては乱戦時にいちいち標準を合わせる必要が出てきたり、重力による銃弾の落下計算等をパイロット自身で行う必要性が出てくるといった所だろうか。

 よって遠距離の射撃ではその効力を発揮するのだが、どうしても経験や演算能力等のパイロット自身の力に依存するのだ。


『重力の初期設定値を1.0に設定。以後重力の設定をパイロットに譲渡』


「了解。一度現在の重力値のままでの射撃を実行」


 エグゼリオンに搭載されているOSとの乾いた会話。しかし、これが戦争というものなのだ。

 自分の感情を殺さないと人殺しなどやってられない。


 ――深く息を吐き、敵に照準を定める。

 先程まで驚くほど速く脈打っていた心臓が、まるで止まったように鼓動が収まっていた。

 1歩間違えただけで死が目の前に広がるこの戦場で、ここまで落ち着いていられるのもまた彼女の才能というものなのだろうか。

 裏を返すとそれだけの才能が無ければ、エグゼリオン(コレ)を動かすことなどできないという事だろう。

 美波はコックピットの両部に付いている操縦桿を握りしめると、それに付いているボタンを押し込む。

 それと同時にエグゼリオンの持っている銃から弾が火を噴き、空を轟かせる。

 飛び出した銃弾は遠方にて飛翔する敵機体の側面を過ぎ去り、背後に並ぶ戦闘機を貫く。

 

「外した……!」


 その結果に苦渋の表情を浮かべる彼女はすぐさまサイドキーボードに手を伸ばし、手入力で数値を変更していく。

 傍から見れば何をしているのかわからないが、彼女には彼女なりの考えがあって今動いているのだろう。

 目の前のモニターに様々なシステムコンソールが表示されては消えるを繰り返す。常人には理解できない速度で彼女はエグゼリオンのシステムを変更している証拠だ。


「……よし」


 再び操縦桿を握る彼女の眼は、エグゼリオンに乗る前とは打って変わって別人のような色をしていた。

 1人の人間としてではなく、1人のパイロットとしての眼とでも言うのだろうか。

 人間ではなく、この機体を動かすためのパーツの1つとしての覚悟を持った眼。その瞳の奥は深い闇を持っているかのように深く。まるで、心を失ったかのような表情だった。


『照準誤差入力完了。以後、射撃時には誤差を入力した値を参照』


 そして再び照準を敵機影に定める。

 縦横無尽に動き回るレティクルに自身の視点を合わせるイメージで、敵の機影を捉える。

 

 ――そして。


 レティクルが重なった瞬間、引き金を引く。

 先程は掠めた銃弾は、レティクルの直線上。敵の機影直線上に飛翔。

 鉄の装甲をいとも容易く貫き去り、風穴を開けた。

 炎を上げながら墜ちていく敵を見ながら彼女は、自分の身体に襲い掛かってくるモノと戦っていた。ソレはエグゼリオンへの適性が低いパイロットが、無理やり神に近い力を動かす為の代償。

 口の端から垂れる血を拭い去り、抑えきれないパワーに軋む機体に鞭を打って。ただ目の前の脅威を退ける為に戦い続ける――。


***


 所変わって聖羅は彼女が残した言葉と歩き去っていった方向に謎の歯切れの悪さを感じ、その方向へ向かっていた。

 基地の通路の中と言えど、上空での戦闘の衝撃や音は伝わってくる。

 度々到達する衝撃に体勢を崩しながらも彼は、自身の機体(エグゼリオン)が眠る格納庫へ向かっていた。


「なんで、俺がこんな目に……!! クソッ!!」


 誰にも聞いて貰えない愚痴をこぼし、壁に寄り添いながら格納庫の中を見てみるとそこには何もない。

 自分が乗っていた機体の痕跡1つ無く、格納庫で働いていた職員の人影すら彼の視界には映らなかった。


「これは……一体……?」


 目の前の光景に呆気を取られ呆然をしていると、背後から聖羅を呼ぶ声がした。

 振り返ってみるとそこにはチーフエンジニアの北野叶の姿。涙ながらの表情を浮かべる彼女は、聖羅の首根っこを掴み上げると、彼に平手打ちを食らわす。

 自身の理解の範疇を超えた出来事が連続して起こっている聖羅は、なぜ自分が叩かれたのか理解に苦しむ表情をしていた。


「聖羅さん! なんで、エグゼリオンに乗らなかったんですか!?」


「……そんなの安全な所で悠々としている貴方達には一生わからないと思いますよ。いきなり意味の分からない所に連れてこられて、意味の分からない機械に乗せられて、意味の分からない敵と急に戦わされて!! こんな事しておいて、またアレに乗って戦え。アレに乗って敵を殺してこい、なんて言われて『はい、わかりました』と二つ返事で乗るような奴はこの世にはいませんよ!!! 俺はアニメの主人公じゃないんだ!!」


 彼の胸の中に燻っていた思いをそのまま言葉として叶にぶつける。

 それを聞いて強い怒りが表情に出ている叶は声を震わせながら聖羅に告げる。


「貴方のそのエゴが間違っているとは思いません。だけど、何個か訂正はさせてもらいます」


 聖羅が口を挟む間も無く彼女は続ける。


「1つ。確かに私達は戦場に出向く仕事ではありませんが、敵の攻撃によって基地が攻撃された場合。私達エンジニアやオペレーターは一緒に死ぬでしょう。逃げてもいいんですが、恐らく逃げるような輩はこの施設にはいません」


「2つ。アレには貴方しか乗れないというわけじゃありません。流石にぶっつけ本番であの機体を実戦投入したとして、動かないなんて事があったらシャレになりません。どんな機体でもシェイクダウンをするものです。では、誰が乗っていたのでしょうか。そして今、ここに()()()()()()()()()()()()()が意味するのは何だと思いますか」


 ここで先程感じていた謎の歯切れの悪さの正体が理解できた。

 流石に察しが悪くてもここまでヒントを出して貰っている状態で、現在の状態が理解できない奴はいないだろう。


「まさか……美波さんが……?」


 驚愕を隠せない声で叶に問いかけると、彼女は静かに頷いた。


「あの人……時空美波は《アース》の職員であるのと共に、革命神機初号機、識別コード『エグゼリオン』のプロトパイロット。だけど、テスト中に問題が発覚して、彼女がパイロット状態の時エグゼリオンはフルパワーを出せないのと同時に、彼女の身体を蝕んでいるって事が判明したの。それから彼女はエグゼリオンへの搭乗を命令で禁止されていたけど、今回異常事態って事で無理やり登場しているの」


 無機物の空を見上げるとまた叶はポツリと言葉を零す。


「そして今、この時にも。エグゼリオン(神に近しい力)は美波さんの身体を蝕み続けている」


 続ける言葉とと共にほろり、と涙を見せた。叶の表情から読み取れる感情を言葉で表すとしたら、『怒り』や『哀愁』ではなく『悔しさ』という言葉が一番似合うのだろう。

 歯を食いしばり、なぜ自分は戦えないのかというような表情を浮かべている。

 その表情を横目に俺は格納庫に設置してあるモニターに目を移す。そこには戦闘風景が映し出されており、丁度モニターにはエグゼリオンが映り込んでいた。

 白と青の装甲に身を包み、どこか獣の様な猛々しさを感じるシルエット。巨大な銃を構えるエグゼリオンはまるで悪魔のようにも見える。


「……行かなきゃ」


 叶を横目に聖羅は駆けだした。

 戦う意思を固めた訳でもなく、かと言って逃げようとしている訳でもない。

 単純に自分の目の前で知り合いが死ぬのが嫌だという、ただの偽善者のエゴによる衝動だ。しかし、聖羅には他の偽善者との大きな違いがある。

 それは彼にはその偽善者のエゴを成すだけの力と資格があるという事。だから、彼は今走った。

 エゴを成す前に、自分の決意が折れる前に、()せる事を()(ため)に――。

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