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第3話

 ――ここは《アース》のとある控室。

 電気が付いていない暗闇の部屋に1人の少年が座り込んでいた。

 彼の脳内にはある風景がずっと巡っていた。人を殺めた瞬間の風景。

 相手の姿、形は見えなかったが、それでも1人の人間の道を断ってしまったという事には変わりはない。それ故の自責の念に駆られているのだ。


「クソッ……!!!」


 ゴン、と。少年が壁を殴る無情の音が暗闇の部屋に木霊した。


***


 ――場所は変わってここは《アース》の指令室。

 ここでも一人の女性が席に座りながら考え込んでいた。


「聖羅君……大丈夫かしら」


 彼女(美波)は少年を戦いに巻き込んだ事に後悔の色を示していた。幾ら彼にしかアレ(革命神機)をまともに動かせないとは言っても、まだ齢16程の高校生だ。

 どこの視点から見てもあまりにも責任が重すぎる。しかし、そんな事は自分達は分かっていたはずなのだ。分かっていてそれで彼に任せた。

 まだ若い少年のこの先の未来をつぶした自分達の罪は重く、大きい。

 

「だけど……」


 『だけど』――。この言葉の後ろに付くはずの言葉は声には出せなかった。

 彼の戦いぶりはまるで何度も戦場に出向いた歴戦の猛者の様な……。否、まるで血肉を求める獣の様な激しいものだった。

 初めて乗る機体に、初めての戦場、初めての戦闘。そして初めて感じる『人を殺した』という感覚。

 明らかにあの動きができる程の条件ではなかった。考えれば考えるだけ、自分の中で作り上げた彼の人物像が音を立てて崩れ落ちてゆく。

 1回彼に謝って、少し話してみよう――。そう思い立って立ち上がった瞬間、基地の内部に敵の襲来を知らせるサイレンが鳴り響いた。

 

「もう来たの!?」


 本当は彼に会って話したいという気持ちを抑え、彼女は自分のやるべき事や成すべき事の為に彼の上司としての立ち位置を貫く。

 近くにあった内線でエグゼリオンの格納庫へ繋ぎ、発進の準備を促す。

 そして彼女は1人の大人として、少年の未来を示しに向かった――。


***


「聖羅君、敵が来たわ」


 暗い部屋の中を美波の声が満たしていくが、聖羅の心には届かない。

 彼はずっと部屋の隅っこで蹲りながら、顔を伏せ続けている。


「……あなたの上司として命令します。聖羅ヒカリ君、革命神機初号機。判別名『エグゼリオン』にて出撃」


 彼女の優しい声から冷たい声が投げつけられる。

 あまりにも慈悲の無い言葉に聖羅も反応を示した。


「……なんでそんなに冷たく言えるんですか?」


 恐怖と怒りに肩を震わせながら彼は言う。顔は俯いていて表情を読み取れないが、どこかその声は涙声のように震えていた。


「いいですよね美波さん達は!! あんなのに乗らなくて済みますし!!!」


 ぶつける当てのない怒りを美波に向ける。

 どうせ自分しかできないのだから、どれだけの我儘を言っても乗せられるのだ。自暴自棄にならなくちゃやっていられないものだ。

 

「そう……乗りたくないのね。分かった。じゃあアレには私が乗ります」


 思わず耳を疑った。

 てっきりアレには自分しか乗れないと思っていた聖羅は鳩が豆鉄砲を食ったような心情をしていた。


「貴方はそこで何もせずに、全部から逃げて蹲ってなさい」


 言い放つと美波はドアを強く閉め、どこかへ歩き去ってしまった。

 部屋の中から聞こえる足音の方向は、間違いなく格納庫へ向かっている事だけが物語っている。


「クソッ……!!」


 ロッカーを蹴飛ばして鳴り響く、虚しい金属音が彼を包み込む暗闇の部屋。

 まるで彼自身の心を表しているようで、その中で彼は涙を零していた。


***


 「あれ? 美波さん、エグゼリオン出撃しないんですか? 聖羅サンの姿が見えない様ですが……?」


 格納庫へ1人で出向いた美波を不思議そうに出迎える叶。

 美波の周囲のどこを見渡しても聖羅ヒカリ(パイロット)の姿は見えない。


「彼は来ないわ。代わりに私が乗る」


「ほえ~やっぱり弱音上げちゃいましたか。まぁまだ高校生ですからね……酷な話で……えぇっ!? ()()美波さんがコレ(エグゼリオン)に乗るんですか!? 危ないですよ!!死ぬつもりですか!?」


「しょうがないでしょう。死ぬつもりは毛頭ないけど、今コレを動かせる人間が戦わないとみんな死んじゃうじゃない」


「それは……そうですが……」


 納得いかない表情を浮かべる叶は、唇を嚙み締める。

 何か言いたげな表情を浮かべる叶を傍目に、美波は話を続けていく。


「ほらそんな事やってる暇ないでしょ? チーフエンジニアさん?」


「……もし美波さんが死んじゃったら、私。貴方と彼を一生恨みますからね」


 美波を見上げる彼女の眼は涙がじんわりと滲み出していて。美波の搭乗を認める為に色々なものを飲み込んだ表情を浮かべていた。


「ははっ! それは怖いね! じゃあ……死なない様に頑張ってくるよ」


 軽口を叩きながら搭乗の準備を整えに向かう美空を、叶は見つめ続ける。

 何か決意を固めた叶の目は、腹の奥から着々と燃え上がる熱意を宿す。


「――ッ! 搭乗員(パイロット)情報を『時空美波』に変更! 急いで!!」


***


 「まさか、またこれに乗ることになるとはね……出来ればもう乗りたくはないものだけど……」


 エグゼリオンのコックピット内部で左右にある機器を設定しながらため息を付く。

 (聖羅)の為に設定しておいたプロファイルを、以前自分が乗っていた時に使用していたプロファイルに書き換える作業だ。

 適性がある彼に比べ幾分か出力を落とさないといけないが、それでも動かせるだけまだマシというものかもしれない。


「ふぅ……さて、行きましょうか。……革命神機初号機、起動!!」


 彼女の声に応えコックピット内部のモニターをはじめ様々な機器が起動。

 更に、エグゼリオンの起動をするのと共に機体をカタパルトへ移送されていく。

 

《革命神機初号機、識別コード『エグゼリオン』スタートアップ・シークエンス》


 無機物質な声がコックピット内部に響き渡り、彼女の虹彩をセンサーで読み取り始める。


《パイロットID認識。搭乗パイロットを『時空美波』と認識。ロードプロファイリング・ナウ―ー。ロードプロファイリング―ー終了》


《出力調整をプロファイルよりフィードバック。レフト-0.4、ライト+1に調整を設定》


《動力始動。動力調整をプロファイルよりフィードバック。エレクトロ80%制限。スラスター制限無し。エグゼリオン、スタートアップ》


 機体の起動が完了するのと共にコックピット内部からも聞こえる動力部の轟音と各関節部から鈍い音として漏れ出す、溢れるパワーの弊害。

 しかし彼が乗った時にはこんな事はなかったはずだ。


「やっぱりこうなるのか……まぁしょうがないけど」


 美波も何かを察した、というより諦めに近い表情を浮かべていた。


「武装は350mmロングバレルライフル、85mmマグナム、予備の70mmハンドガン2丁を装備」


『了解。カタパルト射出定前に各武装を装備』


『射出ルートはAを使用。射出ルートに障害物無し、カタパルトコースオールグリーン!』


 コックピット内部で響き渡る沢山のナレーター達の声。

 彼女らも実際の戦場には出てはいないが、戦っているのだ。実際に戦場に出向く彼女には、彼女らも守るという重大な使命が課せられる。

 そして今、神をも堕とす力を有する機体が羽を広げようと空に飛び出そうとしている。

 カタパルトに輸送されると背後のゲートが完全に閉まり、背水の陣に追い込まれる。ここまで来たら引き返すわけにもいかない。


『美波さん、お気をつけて』


 叶が通信を通して声をかけてくるが、その声は励ましという感じの感情ではなく心配の感情が表に出ていた。


『カタパルトボルテージ上昇。600を突破。最終安全装置解除と共に、リフトオフのタイミングをパイロットに譲渡。『エグゼリオン』、発進どうぞ!!!』


「了解。時空美波 On Station。 初号機『エグゼリオン』出撃する!」


 足元のペダルを踏み込むのと同時に、機体内外問わず轟音が鳴り響く。

 パイロットが背後のシートに押し付けられる程の強烈なGに襲われながらも、エグゼリオンは加速を続けていく。

 先に見える光が大きくなってくるのと共にカタパルトから機体が離れていった。


 ――そして今、神に匹敵する機体が空へ翔け上がっていく。

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