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第2話

 俺の掛け声で自身の目の前に広がるモニターに様々な情報が表示され、周囲に爆音が響き渡り始める。

 ジェットエンジンを何機も積んでいるような爆音がカタパルト上に木霊し、コックピット越しでもその音を聞き取る事が出来た。足元の左右に付いているペダルを押し込み、背後のスラスターをフル稼働。その推進力を前方に押し出し、巨大な鉄の塊を加速させていく。


「エグゼリオン、出立する!」


 その瞬間、機械を束縛していたものが外れ、自身の身体が後ろへのGに押し付けられる。


「……クッ!」


 聖羅は歯を食いしばり、そのGに逆らいつつペダルを押し込み続ける手を引きはしない。そのGに逆らってひたすらに機体を加速し続ける。

 機体の脚部とカタパルトの設置面が火花を上げ、その摩擦すらも無視して推進力を増加させていく。

 長いカタパルトを抜け、機体が常識の速度を超え外界へ排出される。その速度は言葉にするのは度し難く、端的に例えるならば『音速』という言葉が1番的を得ているかもしれない。

 機体を襲う推進力は機体を前方だけでなく、上に持ち上げ、その重い鉄の塊が宙を舞う。 

 

「敵は……?」


 彼が周囲を見渡すと、彼の目の前180度に広がる仮想モニターが敵の位置をマークし、その敵を狩れと聖羅に言っている様だった。

 

『聖羅君。初戦闘になるけど落ち着いてちょうだい。出来る限りのサポートはするし、『エグゼリオン』はかなり直感的に操作できるように()()設定してあるから』


 美波の言う言葉に少し違和感を感じた聖羅だが、初戦闘を目の前にしてそんな事を考えられる程余裕がないのもまた事実だ。


「とりあえず敵の居る方へ向かいます」


『了解。敵の位置のマークとかのサポートは任せて』


 彼が旋回をイメージして、左のペダルを少しだけリリースすると恐らく、背後の左エンジンの出力が落ちたのか機体が反時計回りに旋回を始めた。

 マークが正面モニターに映るぐらいまでに機体を旋回させると、彼は再びスラスターを吹かして全速力で敵の居る方へ機体の速度を上げていく。

 敵との距離を休息に縮め、気付かれたのだろう。エグゼリオンに向かい、銃弾が飛び込んできた。


「この距離だと大体こんぐらいの精度か」


 初戦闘とは思えない程、彼は落ち着いていた。気色の悪さすらあるこの彼の落ち着き具合が、エグゼリオンパイロットに選ばれた理由なのだろうか。

 敵からの攻撃を自身の機体のスラスターを手足の様に操り、華麗に回避していく。その操縦のセンスは常人の物を遥かに卓越しており、センスという言葉だけでは片付けれない動きを、彼は無意識のうちに行っているのだ。

 しかし、幾らセンスがあるとはいっても敵に近付けば近づくだけ、敵の銃撃の精密さも上がっていくのだ。流石に、センスだけでは精密さが上がっていく敵の銃撃を躱せはしない。その証拠に、敵に近づくに連れエグゼリオンの装甲に銃痕が付いていくのだ。

 この弾幕を躱すという芸当は、持ち前のセンスに加え訓練を繰り返し、機体の能力を全て引き出す事が出来て初めてものだ。


「流石に……躱せないか。なら!」


 この弾幕の雨が躱せないと分かった瞬間、彼はペダルをそこまで押し込み、旋回などの行動で弾幕を回避する事を頭から外し敵に向けて最短距離、最速で向かって行く。

 その代償は、見る見るうちに彼の機体を遅い、装甲を銃弾が貫通し内部のフレームが少しずつ剥き出しの状態になっていく。しかし、彼の特攻ともとれるその行動の代償は機体の装甲だけでは足りない。剥き出しになっているフレームすらも、銃弾に被弾し機体おを動かすための回路すらも切れ、エグゼリオンの左腕がだらり、と力なくただくっついているだけの部品に成り下がってしまった。

 しかし、払った代償だけの価値はあったようだ。

 最短距離を通ったエグゼリオンはあっという間に敵との距離を詰め、敵との距離は既に目と鼻の先。敵が、銃から近接武器に切り替えようとするが、コンマ数秒遅かった。

 背後のスラスターを全力稼働させたまま、向きを少しだけ上に向け、一回転。その回転力を生かし、相手の機体の1つに踵落としを喰らわせる。兵装の切り替えをしていた滴の機体は防御すらままならず、頭部メインカメラへその攻撃が直撃。

 相手のジェットを全力噴射しても、その攻撃の威力は打ち消す事が出来ず、鉄の塊と成り果て地上へ落下していく。


「まず1機」


 淡々と聖羅は、次の攻撃目標に狙いを定めると次は回転蹴りを喰らわせる。しかし、先に1機やられエグゼリオンへの警戒をしていた敵達は、その素早い攻撃を確実に防御した。


「流石に無理か」


 格闘で敵を潰す事が出来ないと分かった瞬間、右手に握っている鉄の剣で正面を薙ぎ払う。幾ら、側面からの攻撃を防御していたとしてもその防御はあくまで格闘攻撃に対しての防御であって、武器を持った敵への防御ではない。

 その考えが、敵からすると最悪のくじを引いてしまったということになる。

 彼が薙ぎ払った鉄の剣は、敵の機体を真っ二つに斬り割き、相手の機体を無残にも鉄の塊に変えてしまった。


「次」


 冷酷な表情を浮かべ、まるで自身に歯向かってきたことを嘲笑するかのように、かつ不敵に。彼は微笑む。その表情は他の人間には見えないが、その感情の波を受け取ったのか、敵の機体がたじろぐような動作を見せる。

 その何気ない動作が彼にとっては一殺の隙としては、十分なものだった。 

 敵の死角に潜り込むように、自身の機体を急下降させ、そのGに対抗するかのようにスラスターを全開で噴出させる。ブースターが赤熱し、自身の視界のモニターに警告が表示されても彼はスラスターを緩める気配はない。

 あっという間に、上昇した機体は敵の背後を取り、まるで敵のパイロットを殺すまで遊んでいるかのように、敵を地上の山へと蹴り付け、行動を制限していく。

 敵のパイロットが激突した衝撃で身動きが取れない間に、彼はゆったりと自身の機体を敵の機体へ近付け、死の宣告を敵にじりじりと押し付けていく。

 その様子はまるで獲物を狩る獣の如く。生命(いのち)を刈る死神の如く。絶対的に逃れる事の出来ない『死』という状況を、敵の人生という舞台の幕引きとして押し付けていく。敵からすれば恐怖以外の何物でもない行動だが、彼からするとただ相手を蹂躙する事を楽しんでいるのかもしれない。

 敵の機体との距離が目と鼻の先の距離まで届いてから、聖羅は期待の腿部からエグゼリオン用の拳銃を引き抜き、敵のコックピットへ押し付ける。まるで自身が死神かのように振る舞うその姿から、突き付ける拳銃はあたかも死神の鎌のようだ。

 

「The End だ」


 そう言うとにやり、と一笑。そのまま引き金を引き、相手の機体のコックピットの装甲を貫通するまで、引き金を引き続ける。

 周囲に響き渡る銃声は何回も響き渡り、その中に悲鳴のようなものすらも聞こえたような気がする。それでも、彼は引き金を引き続ける手を緩める事はない。銃創から弾薬が尽きるまで、撃ち続けた。


***


 ――気付いた頃には彼の目の前にはコックピット装甲が貫通し、向こう側の景色が見えてしまっている敵の機体の成れの果てと、空になり捨てられた銃創。血などは視界内にはなかったが、それでも彼の人生が大きく狂った瞬間だ。

 学生として普通に生きてきた聖羅が突然押し付けられた定め。たった1人の子供では覆す事など出来るはずもない、どうしようもない事に彼はこれからどうやって生きていくのだろうか。

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