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第1話

 ――時は2001年。

 人類は袂を分かち、戦争を繰り広げていた。後に第3次世界大戦と呼ばれる大戦である。戦争が人類の技術を高めるという言葉が体現したように、この戦争では沢山の新兵器が実践投入された。人体に有害な物質を含んだビーム、アンドロイド、そしてロボット兵器。

 民間人や同じ種族までも巻き込んだ戦果は世界に広がっていき、やがては世界を巻き込んだ大きい炎を上げた。

 終わりの見えない戦争に、人々はいつこの戦争が終わるのかと。もしかしたら終わることなく人類が絶滅してしまうかもしれないと誰もが恐怖を抱いていた。


 そして少し時は流れ2005年。今だその戦争は続いており、いつの間にか世界人口が60億人を切り。人間絶滅のカウントダウンが止まらないことを察していた人々は絶望から抜け出せずにいた。

 しかしその戦争を止めるためにある機体が両者の戦闘に介入。無差別に攻撃を開始した。その機体は青く実態のない翼を広げ、悠々と空を飛んでいたという。

 両陣営はその機体を神の使いと恐れ、その機体が出してきた両陣営の講和条約に早急に対応したという逸話が残されていた。

***


 時は流れ、現代。平和となった2010年。くだらない歴史の授業を話半分で聞き流している少年がいた。その少年の名は聖羅(せいら)ヒカリ。特に取り柄のない『普通』という言葉が大変似合う少年だ。


「......によって我々は二度と戦争を起こしてはいけないのです」


 教師が熱心に話す言葉を右から左へと聞き流す彼は、窓の外に広がる青い平和を眺めていた。


「くだらねぇ......戦争って言ったってもう5年ぐらい前のことじゃねぇか。今更戦争なんて起きるはずねぇ」


 結局大戦中にあの機体が現れてからこの世界では一切戦争が起きていない。それだけあの機体の抑止力は十分だったということだ。そんな今だからこそ彼は戦争なんて起きるはずがないと断言しているのだ。

 その機体すらも最早信仰の対象のような存在感になっており、その機体が本当に存在していたのかということすらも疑問視されるような状況なのだ。


「この授業で最後だしさっさと帰るか......」


 授業終了のチャイムが鳴ると同時に彼は鞄を持って教室を出た。

 いつもとかわらない空。いつもと変わらない地面。これが平和ということを彼は知らない。そしてその平和が突如として壊れる恐怖も彼は知らないのだ。


 突如として空から赤い光が降り注ぎ、街のそこらかしこで火柱が上がる。


「な、なんだこれ......!!」


 すぐさま街を見下ろせる丘を目指して彼は駆け出した。この非日常が夢だと信じたい彼の足はいつも以上の力を出していた。

 しかしそんな儚い希望すらも戦火というものは奪い去っていくのだ。平和だと思っていた街は、世界は火を上げ、さっきまで平和の中で生きていたはずの人達は、戦争という非日常に轢き殺されている。この惨状を見た彼の口からは何の言葉も出ない。戦争なんて起きるはずないと思っていた彼の希望を砕いた現実。今自分の目の前で広がっている光景が現実だということを認識できず、彼はその場に膝から崩れ落ちた。

 そんな時に彼の目の前に止まる1台の車。


「君、聖羅ヒカリ君ね?」


「は......? なんで俺の名前知ってるんだよ......誰だよアンタ......」


「本人確認完了。今から基地に連れて行くわ」


「え? 何なんだ! アンタ!!! 警察呼ぶぞ!!!」


「警察? 結構。あんな下等組織が私達を止められると思えないけど」


 非日常が繰り返し、さらに困惑する彼の腕を強引に掴み、誘拐の様に彼をどこかに連れていく女性。火が上がる街を尻目に、女性は人気のない山奥へ車を走らせる。


「降ろしてくれ!! まだ街には友達や家族が!!!」


「そこに行って君は何ができるの? 無力感に打ちひしがれるだけよ」


 淡々としている女性の言葉に彼は言葉を返せない。無力さを見せつけられるなんてことは百も承知だ。しかし、それでもいかなければならない理由があるのだ。

 

「でも、私に付いてこれば家族も友達も、街も。そしてこの世界も救えるかもしれない。さぁあなたはどちらを選ぶ?」


 迷っている彼に拍車を掛けるように選択肢を出す女性。選択を迫られる彼だったが、どっちを選ぶにしろ彼の行く先はこの女性に付いていくしかないということだ。


「......わかった。付いていく」


「わかってくれたようで助かるわ。名乗ってなかったけど私の名前は『時空美波(ときそらみなみ)』っていうの。これからよろしくね」


「時空さん......え? 待って。()()()()ってどういうこと?」


「美波でいいわ。まぁこれからの意味は今から分かるわよ」


そういうと彼女は再び山奥へ車を走らせる。


 ――おそらく出発してから5分もたたない内に、木々の生い茂る見知らぬ山奥に付いていた。一体ここに何があるのだろうかと思った矢先、目の前の崖が開き、中から自然には似合わぬ通路が現れた。

 その通路に車を走らせ、どこかへ向かう。


「ここは......一体?」


「ここは民間人を守るために設立された組織、通称 《アース》。君には今からあの火柱を上げた原因と戦ったもらうわ」


「は? 戦う!? どういうことですか!?」


「そのまんまの意味よ」


 そういうと彼女は黙って車を走らせ続ける。

 同じような景色が続く通路を延々と走り続けると、急に車を止め、彼女は「ここから歩いて」と車を出て彼を置いてスタスタと歩いて行ってしまう。 

 彼女の背中を追うように、先の見えない通路を彼女の背中を印として付いていく。


***

 

 歩き続けるうちに目の前に明かりの灯った部屋があることに気付いた。

 その部屋に彼女と彼は入っていく。その部屋にあるものとは......


「なんだよ......これ」


「革命神機初号機。判別名:『エグゼリオン』。君が乗る機体よ」


 エグゼリオンと呼ばれた機体は、ほとんどの装甲を青色で染められており、その他の部分は白という単調なカラーリングをしていた。しかし、その面構えは狼のような肉食動物のような。

 彼は、まるでここに立っている自身が食われてしまいそうな焦燥に駆られた。

 しかし、それ以上に彼は、この機体に乗らないといけない理由がわからないのだ。


「はぁ!? 意味が分からねぇよ!! 説明してくれ!!」


「何ですか? 美波さん。パイロットに説明してなかったんですか?」


「してなくても、どうせ乗るか乗らないかの2択しかないんだから。説明なんてする意味ないわ」


 次から次へと新しい人物が出てくる。どうやら新しく出てきた女性は美波とは仲が良いらしく、彼をのけ者にして2人で談笑を始めた。


「おっと、楽しく話してる場合じゃない! すいません、聖羅さん。自己紹介させて頂きますね! 私『北野叶(きたのかなえ)』って言います! この機体の整備をさせて頂いているチーフエンジニアです!! よろしくです!」


 初対面から親しげに話しかけてくる女性は北野叶と名乗り、握手してきた。流れ作業のような感じで挨拶を交わしたが、当たり前のように彼女も彼の名前を知っているのだろうか。


「挨拶もこの辺にして、なぜ聖羅さんがここに連れてこられたのか。そしてこの機体に乗らなきゃいけない理由を教えるのです!!」


 まるで彼の疑問がすべて見透かさℜているかのように、今彼が聞きたいこと全てを彼女は答えると言った。


「まず1つ目です! ここに連れてこられた理由ですね! これは正直2番目の質問が答えなのです!」


「は?」


「叶、色々飛ばしすぎ。つまり、聖羅君。君はこの機体に乗ってもらうために私たちはここに来てもらったってわけ」


「その通りなのです!! そして2つ目の質問の答えは、私たちの基地にあるスゴいコンピューターが君しかこの機体に乗れないと判断したからです!!」


「どういうことですか!?」


 急展開過ぎる話に彼は付いていけていない雰囲気だったが、ここまで来ておいて引かせる訳にはいかないというのがこの女性達の共通認識らしく、どうしても彼をこの機体に乗せる気でいるようだ。


「つまりこの機体を動かせるのは君しかいないから、『これに乗って世界を救って』って意味よ」


「そのとーりなのです!!」


 どう言われても困惑の表情しか浮かべることができない彼に対し、美波が呆れたように説得を繰り返す。


「だから、君がこれに乗って戦えば世界を守るのとついでに、友達や家族も救えるよってことよ。もちろんこれに無償で乗ってなんて言わない。その辺の社会人の年収より高い給料が月ごとに入るわよ」


 この美波と叶という女性2人は結局同じ事を言ってるだけなのだ。この目の前に居座る『エグゼリオン』という名のロボットに乗って攻めてきた敵を殺せと、そう言っているのだ。

 無論、相手もこの機体に乗るメリットとデメリットを指定して来ている。メリットもデメリットもあまりにも大きすぎるが、どちらにせよ業を背負うのは必然ようだった。乗らなければ家族も友達も救えない。乗れば敵を殺す必要が出てきて、その罪を背負わなければならない。

 しかし、既に彼の心は決まっているのだ。背負うなら、自身の業だけを背負えばいいという覚悟を持っているのだ。否、覚悟が()()()()()()()。という方が正しいかもしれない。


「分かった。乗ってやる! 俺1人が十字架を背負い続ければ済む話だ!」


「……こんな決断をさせてしまってごめんなさい。さっそくで悪いけど出撃してもらうわよ」


 先程まで彼をこのロボットに乗せようと一生懸命になっていた美波の顔が曇る。

 搭乗に勧めたとはいっても、パイロットはまだ高校生なのだ。まだ青春の真っ只中で、平和な日常から急に戦争に巻き込まれた被害者なのだ。しかし今彼は、被害者から加害者になろうとしている。

 自身の大切な物を守るために、身を投げうって、全てを裏切って加害者になろうとしてしまっているのだ。

 しかし、この現状を打開するためにはどうしても彼に加害者になってもらうしかない。それが今彼の目の前で暗い顔をしている大人達の最善の策。

 こんな少年が人を殺す事を、街を守るために業を背負う事を決断したというのに、大人の自分達は何もできないという無力感に打ちひしがれていた。


「……エグゼリオン、出撃準備……」


『エグゼリオンに給電開始。現在の電源残量は概算40%』


『出撃時に装備する武装を出撃カタパルト上に配置』


 美波の出撃準備の声で格納庫内に機会音声とオペレーターの声が木霊する。

 

「聖羅君、とりあえずコックピットに乗って頂戴。指示とかはそこで通信で伝えるから」


 彼の前で頭を下げる美波。それはこの基地にいる大人達の総意なのだろうか。しかし、決断してしまった彼を止める事はもうできない。


「そんなん、もう遅いです。俺はエグゼリオン(コイツ)で相手を潰すだけです」


 そう言うと彼はコックピットに続く道をスタスタと歩いていく。その足取りはどこか焦っているような感じがして、美波はその背中を見つめることしかできなかった。


***


「エグゼリオン出撃準備整いました! カタパルトまでの進路もオールグリーン! 行けます!!」


「聖羅君、改めて乗ってくれてありがとう。私達にはこれしかいえないけど。死なないで」


『いい感じに皮肉みたいでいいですね。俺は簡単には死にませんよ。根拠はないですけど』


「エグゼリオンをカタパルトまで輸送、急いで!」


 美波の掛け声で、エグゼリオンの足場が急に動き出し、地下深くに眠る、神の力すらを凌駕する機械が地上へと押し出されていく。

 地上に近づくにつれ、聖羅の心拍は増していく。それは、初出撃に対しての緊張なのか、それとも――。


 ――恐らく、初めて美波に連れてこられた高さ辺りまでエグゼリオンが昇りきると、周囲の風景ががらりと変わった。周りは無機質な壁で囲まれているのは変わらないが、所々に明かりが灯っておりエグゼリオンの行く先を暗く照らしている。ここから出ると、その先は戦闘しか待っていない地獄に変わる。

 聖羅は息を整え、自身の心拍を整えた。


『最終安全装置を解除。リフトオフ及び出撃権をエグゼリオンパイロットに譲渡します』


「了解。コントロール権譲渡を確認した。装備武装後、出撃します」


 カタパルトに配置されているアサルトライフルと鉄の剣を装備し、光が指す方へ向き戦闘に備える。


「I have controll!! エグゼリオン、出立する!!」

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