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へこみました。

今日はきた。

久しぶりにきた。


「……おかえりなさい、って、どうしたんですか?」


玄関を開けた瞬間、私はその場にうずくまり、更には転がった。


もういい。

もういい。

もうどうでもいい。

執事ロボットが、慌てたようにぱたぱたと動き回っている気配を感じながら、ひさしぶりのフローリング(一部タイル)を堪能する。


「………………ミミズクになりたい」


言ったそばから、なんか違う気がする。


「……フクロウですか?ミミズではなくて?」


スペックの良さを余す所なく使って、執事ロボットが反応してくる。

聴覚、語彙認識、類似語の確認、人間の過去の行動のデータベースより検索、状況を判断しての問いかけまで。


「…………ミミズでお願いします」


体を起こしながら、再度希望を伝える。

前々から感じていたけど私の脳細胞、誤接続しすぎだと思う。

普通に落ち込む事も出来ないとか。

執事ロボットくらいの反応が出来れば、仕事ももっと


「…………うぅ」


涙がぼたぼたと床に落ちる。

鼻水も混じって、顔面を流れ落ちる。


「お待たせしました、立てますか」


ううぅ、立つとか立たないとかそんな事はどうでもいいから、ミミズにして下さい。

ミミズクでもいいです。ミミズミミズクミミズミミズ。


「どちらもなりませんから」


毛布で包まれ危なげなく抱き上げられる。

なんで、こんなに高スペックなのか。

ロボット程度の身体能力もなく。


「ロボットの身体能力を生身で求めないで下さいね」


だってとりえないし、何にもできないし、今日だって、当たり前のことができてなくて


「そんな事ないですから」


ソファに移動され、ホットタオルを顔に当てられた。


「熱くないですか」


熱くはないし、きもちいいけど


「…………ミミズになれません」


「ホットタオルではミミズもミミズクもなれないと思いますが」


呆れるような声は、思った以上に近くで聞こえた。

ホットタオルを外して確認しようとすると、新しいものに流れるように交換され、手で抑えられる。


「なにかして欲しいこと、あります?」


「ミミズして貰えば、他には何も」


「…………それは無理ですよ、っと」


ソファが傾き、執事ロボットが隣に座ったのがわかった。


「………………ロボットで申し訳ないのですが」


緊張したような声色。

何に緊張しているんだろう?

浮かんだ疑問は、彼の行動でかき消される。


肩を抱かれ、引き寄せられる。

彼の胸に頭を当ててみれば、思った以上にあたたかく、それが呼び水みたいに、涙を引き出す。


ホットタオルを引き寄せ、嗚咽を漏らすまいと、口に当てれば、やんわりと阻止された。


「……気を遣わないでください。大丈夫ですから」


大丈夫って?


「全部、愚痴もあったことも、話していいんですよ」


全部


「あなたに何があったか、全部知りたいのですが」


(私の全部なんて知ってもつまらないよ)そんな反論を言わせないような声音に、私は今日かあったことを、話し始めた。


まわりくどいし、繰り返すし、感情優先で支離滅裂で、途中で泣き出したり大変だったと思うけど、彼は聞いてくれて。


繰り返し言ってくれた。


「その時点でベストな判断ですよ」


髪を手でくし削りながら。


「判断をした時点で、そうなるとは誰も思ってなかったと思いますよ」


背中をぽんぽんと叩きながら。


「それは、結果論と言っていいと思いますよ」


手を握りながら。


「あなたがが頑張っていることは私が1番よく知ってます」


こめかみにキスを落としながら。


これでもかと言う自己肯定感に包まれて。

私はいつの間にかそのまま眠ってしまったみたいだった。

------


殺したい。


いや、いかんな。


可及的速やかに殺したい。


しまった。

何も変わってない。


彼女の職場の会ったこともない人々に対し、殺意が止まらない。


泣き疲れて眠ってしまった彼女を布団に入れて。

できる限りの服をぬがせて、メイクを落として。

安らかな寝息が聞こえる事を確認して。


俺は上手くできただろうか。

ロボットとしての役割を超えることなく、彼女を慰めえただろうか。


体の接触は賭けだった。

バレる事を恐れる反面、望んでもいて。

だがそれより何より。


ほかに何とかする方法が思いつかなかった。


起きた時に。

どうか。


願いはあれど、言語化できるようなものはなく。


俺の重さだけは切実な願いは、具体的な形を取らないまま、夜に解けて消えていった。




目指せ、1日1話

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