その二
「でも……」
「それに魔力なんぞまた時間をかけて蓄積すれば良い。それ自体は取り返しのつかないものじゃない。じゃが、ひとつ問題があるとすれば、その魔石の行き先じゃ」
「行き先?」
「魔力を結晶化した魔石はそれ自体不安定な物質で、同じく強い魔力を持つものに引き寄せられる性質を持つ。端的に言うと魔術師、あるいはその素質のある者に引き寄せられるんじゃ。わしが長い年月をかけて蓄積した魔力量は半端じゃない。散らばったわしの魔石を身に宿し、膨大な魔力を手に入れた輩が何か良からぬことをせんかが心配じゃ」
「……あんた、変わってるんだな」それまで黙って話を聞いていたカークスが口を開いた。
「どういう意味じゃ?」
「魔術師は世間のことになんか興味がないと思っていたが」
「まるで魔術師のことを良く知ってるかのような口ぶりじゃの。まあ、実際わしもたいして興味はない。じゃが、わしの魔力を他人に利用されるのは癪に障る。そんなこと断じて許さん。したがって散り散りになった魔石を探しに行かねばならん。そこでじゃ、ポルカ、お前行ってこい」
「え? え? 私ですか?」唐突に指名されたポルカは動揺を隠しきれなかった。
「そうじゃ。本を正せばお前のせいでこうなったんじゃから自分で尻拭いをしないとな」
「そ、その、カラミナ様もご一緒に……?」
「わしは――その――この城を守らねばならないからの。それに、わしの命を狙っている輩はごまんとおる。弱体化した今の状態を襲われればひとたまりもないじゃろう」すがるような表情で見つめるポルカをカラミナは何やら言い訳がましく突き放した。
「でも……私ひとりじゃとても……」
「まあ、たしかにお前ひとりじゃ心許ないの。そこでじゃ小僧、お前ポルカの護衛をしろ」
「はあ!? なんで俺が?」唐突に指名を受けたカークスはとんでもないといった顔をした。
「そうですよ、私だってこんなヤツと一緒にいたくありません!」
「こんなヤツとは何だ。俺はれっきとした戦士だ」
「戦士だかなんだ知りませんが、やってることは泥棒じゃないですか! それにさっきからカラミナ様に失礼な態度ばかり取ってるし」
「やかましい、静かにせんか! 魔石が散り散りになった責任はお前にもあるからの。ポルカと同罪じゃ」
「断る。お前らのために働く義理はない。俺は自分ひとりで魔石を探しに行く」カークスはそう言って立ち上がると部屋から出る素振りを見せた。
「ほう? しておぬし、人体に入った魔石を取り出し結晶化することができるのか? 見たところ魔術の心得があるとは思えんのじゃがのう?」
「それは……」
「わしだって鬼じゃない。タダで働けと言うつもりはないぞ? 魔石を無事回収したあかつきには報酬としていくらか譲ってやろう」
「……いくつだ?」
「そうじゃの、すべて回収することができたら三つは譲ってやろう。早期に回収すればさらに色を付けてやる」
「……分かった。不本意だが、その依頼を受けよう」
「ま、待ってください! そんな――カラミナ様――私こんな得体のしれない男と二人で行くのなんて嫌ですよ。もし変なことでもされたら――」ポルカが泣きそうな顔で言った。
「安心しろ、俺はお前みたいなガキをどうこうする趣味はない」
「誰がガキですか! これでも十五歳なんです!」
「つまりガキじゃないか」
「じゃああなたは何歳なんですか!? そんなに年上には見えませんけど?」
「俺は十八歳だ」
「たいして変わらないじゃないですか!」
「俺は元服している」
「それがなんなんですか? 私なんて中級魔術を皆伝されてるんですよ!」
「本当にやかましいのう」カラミナは杯を傾けながらうんざりした様子で言った。
「それで魔女、要するに俺たちは散らばった魔石を探せば良いんだな? 数は七つで良かったか?」カークスはポルカとの口論を打ち切るとカラミナに尋ねた。
「いや探すのは六つで良い。一つはすでに見つかっておる」そう言ってカラミナはポルカを指さした。
「へ?」ポルカはきょとんとして自分を見つめる二つの顔を交互に見比べた。