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ザイツハルロンド  作者:
第一章 屠城の戦士
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その四

 城壁の上から一本のロープが垂れ下がると、間もなく件の男がそれを使ってテンポ良くおりてきた。やがて地面に到達した男は額から吹き出た汗をぬぐうと、天まで届きそうな壁を改めて見上げた。男の年齢は二十歳に満たないくらいで黒髪に黒い瞳、体格は中肉中背で戦士にしては華奢であった。

 容赦なく照り付ける日差しで、城壁は灼熱地獄の様相を呈していたため、想像以上に身体に負担がかかっていた。ここにきて一週間分の蓄積した疲労が出てきており、また干し肉やパンでどうにかごまかしていた空腹感も次第に耐え難くなっていた。唯一の救いは前回と異なり魔鳥が襲ってこないことであった。魔鳥たちは男を取り巻くように一定の距離を保ちながら鳴き声で威嚇してきたが直接襲ってくることはなかった。おかげで前回よりもだいぶ早くのぼることができた。できれば日が暮れる前に城壁を突破し、闇夜に紛れて城内への侵入を試みたいと考えていた。しかしまだ第二城壁が残っているため、男は再び城壁を登るべく装備を整え壁に手をかけた。

「お待ちなさい!」

 突然背後から声がしたため男が振り向くと、そこにはひとりの少女が立っていた。男は壁から離れると剣の柄に手をかけた。

「ここは魔女カラミナの居城である! 今すぐここを立ち去りなさい!」

 男は少女などさも眼中にないといった様子で頭をかいていた。やがていかにも面倒くさそうに口を開いた。

「子供に手をかけるつもりはない。さっさと失せろ」

「そうはいきません。私はカラミナの一番弟子ポルカ。こちらの言うことを聞かないのであれば、実力で排除します」

 さすがに「一番弟子」というのは言いすぎたかもしれないとポルカは内心思ったが、この際どうでも良いことだった。

 男は小さくため息をついた。ポルカと名乗る少女は杖を持っており一応魔術師の体裁は整えているものの、手は震え声は上ずっている。戦いなれていないのは明らかであった。急所を外して気絶させるか、力の差を見せつけ戦意を喪失させるか、どちらの方法をとるか男が思案していると、ポルカが突然杖を上げ呪文を唱えた。次の瞬間、強烈な閃光が男を包み込んだ。男が一時的に視力を奪われてひるんでいる隙に、ポルカは再び杖を上げ呪文を唱えた。すると城壁をはっていた蔦がまるで蛇のように男の四肢に絡みつき縛り上げた。いまだ視力が回復せず自身の身に何が起きているのか理解できていない男は混乱していた。そしてポルカの攻撃はまだ終わらなかった。彼女が三度目の呪文を唱えると、大木をもなぎ倒すほどの突風が男に襲いかかりその身体を城壁にたたきつけた。壁に後頭部を強く打った男はその場に倒れこんだ。

「……やった――のかな?」

 ポルカは警戒して遠くから男を観察していたが、まったく動く気配がなかった。

「やった! 私やりましたよカラミナ様!」

 人生初の実戦で勝利を収めたことに飛び回ってはしゃいでいたポルカであったが、その場からピクリとも動かない男の様子に次第に不安が勝ってきた。

「もしかして……死んじゃってたりしないよね……?」

 カラミナの命をねらってこの城への侵入を試みたものの反対に命を落とす者は多く、その「処理」からはポルカは外されていたが、何度か偶然死体を見つけてしまうことがあった。そのとき彼女はとても嫌な気分になった。人を殺してしまったかもしれないという不安は、さきほどまでの高揚をすべて台無しにしてしまった。

 ポルカはおそるおそる男に近付くとそっと杖でつついてみた。やはり反応はなかった。今度はその顔をのぞきこもうとした。次の瞬間、男の手がポルカの腕をつかむと、彼女から杖を奪い取った。いつの間にか男を縛っていたはずの蔦は切られていた。

「か、返しなさい!」

「魔法はそれなりに使えるようだが、詰めが甘い。もっと警戒すべきだったな」

 男は自身を縛っていた蔦でポルカを縛り上げるとマントの切れ端で猿ぐつわをかませた。ポルカはもがもがと言葉にならない声をあげながら暴れたがどうしようもなかった。

「おとなしくしていろ。じきに誰かが見つけてくれるだろう」

 男はポルカの杖を草むらに投げ捨てると彼女を後に残し第二城壁をのぼり始めた。

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