閑話 フードを被った少年
それは、後継者教育として国王である父に同行して訪れたアストンフォーゲル辺境伯領でのことだった。
たくさんの護衛に囲まれて分刻みのスケジュールに慌ただしい移動…この2日間、休む暇なく働いてそろそろ限界だった俺は護衛の目を盗んで街へ出掛けることにした。
流石、王国で一番広い港街だけあって大通りや広場は活気で満ちあふれていた。
見たことのないものや美しいものにあふれた市場を見た俺はもっと探索したい!と気の向くまま歩いた。
…そして迷った。
「ちょっと良いか?道を尋ねたいのだが…」
「どこまでですかい?」
「港までだ。」
「それならこっちですぜ。案内しますよ。」
男は、作業の手を止めて案内してくれると言う。助かった。
「おい、本当にこっちなのか?」
男について行くとどんどん狭い道へ入って行く。
「こっちで合ってますぜ。…まあ、俺たちから逃げられたらですがね…!」
不味い!と思った時には時すでに遅し。
すでに男の仲間が俺の周りを囲っていた。
「随分良い格好してんじゃねぇか。どっかの貴族さまかぁ?」
「ほれ、坊ちゃん痛い目あいたくなきゃ金目のものは置いてきな~」
男たちがヘラヘラと笑いながら行ってくる。
「お前たちに渡すものなどない!!」
「へえ、ずいぶんとカッコいいこと言うじゃねぇか…」
「だったら痛い目見て分かってもらうしかねぇなぁ~」
「やめろ!俺に触るな…!」
1人の男が俺の肩を掴もうとする。
咄嗟にそれを避けるが3対1。結果は火を見るより明らかだった。
『衛兵さんこっちです!』
「おい!ヤベェ!!」
こちらに向かって少女の声がした。
「来て!こっちよ!」
「あ…!おい!待て!」
「よくも騙しやがったな!!」
アイツらの注意が逸れた瞬間、フードを被った少女が俺の手を引いて走り出した。
後ろからアイツらが追いかけてきていたが俺たちは途中で何度も曲がりながら脇目をふらず走る。
「はあ…はあ…きっとここまで来たら大丈夫だわ。ここには沢山の人がいるし安心よ。それよりも、貴方はどうしてあんな所にいたの?」
着いたのは、大きな広場でアイツらはもう追ってきていなかった。
彼女は、そのことを確認すると俺の手を離した。
「…助けてくれてありがとう。初めて来た場所で迷ってしまったようなんだ。一緒に来た人たちとの逸れてしまって…そう言う君はどうしてあんな所に居たんだ?」
走っている間に外れたフードを被り直しながら答える。
「私も貴方と同じよ。どうやら道に迷ってしまったみたい。」
彼女は息を整えながら笑顔で言った。
「…!そうか。ははっ!君も俺と同じだったんだね!」
パッと笑った顔がまるで花が咲いたように愛らしかった。
それに、怖い体験をしたと言うのに、笑い変えた彼女が強かで、どうしようもなく惹かれた。
俺が笑うと彼女も笑って。2人で笑い合った。
「君、なま『…アリーヤ様!』」
「あ、貴方を呼んでいるみたい!こちらに手を振って走ってきているわ。良かったわね!じゃあ、私はこれで失礼するわ。」
「ぇ…あ!」
俺が名前を聞こうとするとその言葉を遮って止める間も無く走り去ってしまった。
「アリーヤ王子!探しましたよ!」
「お一人でお出かけになられるのはおやめ下さい!」
「あー、分かった。悪かったな。」
「もー!本当に分かっておられるのですか!?」
駆けつけた護衛達の小言に自分でも思うほどに適当な返事を返しながら、頭ではずっとあの子のことを考えていた。
暖かで柔らかい手、風に乗って香ってきた彼女の香り、まるで花が咲いたかのような笑顔。
名前も知らない彼女のことがずっと頭から離れない。
そんな彼女の手がかりは、薄い金髪に翡翠の瞳、それから彼女がつけていた物忘れ草のロケットペンダント以外ない。
(見つかる可能性は低いが、探してみるか。)
まず、会ったら名前を聞こう。
それから、もっと彼女と話してみたい。
そんなことを考えながら眠りについた。
…数年後にまた彼女と再会できることも、再会した彼女は俺のことを全く覚えてないことも、何故か避けられ続けることも知らないまま…
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最後まで読み頂きありがとうございます!
『閑話フードの少年』は如何でしたか?
スティアが一番避けたい相手でもあるアリーヤ王子と会ってしまうなんて…運命の悪戯も怖いですね…
避けるスティアと話したいアリーヤ王子。2人の関係がどうなっていくのか是非、お楽しみに!
次回は、また本編に戻ります。
漢気溢れるカイル様とのショッピングですがちょっとした事件が起こります…
スティアの最愛の兄レオンも、もう直ぐ帰ってきます。
遂に日記帳に書かれた未来と現在リンクし始めます…
これからも、是非、《一難去ってまた一難!?元悪役令嬢の受難の日々はまた難易度を上げる》をお願い致します!
*四話から後書きと次回予告始めました!
よろしければお付き合いお願いします!