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第5話 窓からパンがやってきた。

次の日学校で、席替えがあった……(チクショウ!!)


窓際の隅っこから、廊下側の後ろから二番目になった。

よりによって廊下側……。


廊下から教室に入るための扉は前後にあり、廊下側にも空気入れ替えようか知らんが窓が付いていると言う、結構オープンな教室。

後ろの方なのでギリギリ窓から見える位置から外れているのだが、私からは廊下を歩く人は視野に入る。


廊下に人が通るたび、気が気じゃない。

ずっと俯いているのにも首が疲れるし……。


ともかく教室から出なければなんとかなると思ったのに。


私はひたすら首が疲れたら、顔の位置に教科書を持ち上げ、予習復習することにする。

数学でも物理でも、脳内で朗読していくスタイル。

よくわかんなくても、読めなくても、読んでいく。


じゃないと顔を見られてしまう。


なんでこんな席なんだよ!!


小さく舌打ちをすると、前の席の男子がビクリと引き気味に私を見た気配を感じたが気にしない。


ともかく毎日こんなに気を張らないといけないなんて、疲れる……。


思わず大きなため息を吐く。

正直言って……ツラい。


勉強も好きじゃないし、朗読だって苦手だ。

さっきから難しい単語を何度もつまずいて進まない。


腕も疲れてきたので、持ち上げてた教科書を下にさげる。

もう一度大きなため息が口から漏れると同時に、私の机の上にパンがヒューンと飛んで来た。


驚いてあたりを見渡す。


前の席の男子も突然廊下から飛んで来たパンに振り返って凝視している。


パンは楕円形をしていて、中に果物を煮て作った液体が塗られていた。

どっからどう見ても、パンである。


そして私はこのパンを見たことがある。

……どこかで。


パンは喋らないし、空を飛ばない。


なぜ飛んで来たのか……。


そういやパンが好きだった対象者がいた気がする。

確か、そう。

カ……


私はその名前を思い出すと同時に、すぐに机の下に隠れたのだった。

私の奇行にビビる男子生徒なんか気にしない。


隠れなきゃいけないというレーダーを感じ取ったのだ。


私が机の下に隠れてすぐ、バタバタと足音が近づいてきた。


「なー!俺のパン見なかった?」


私の席の近くの窓が勢いよく開き、赤い髪をした男子生徒が廊下の窓から覗き込んで来た。


私の奇行にビビってすぐ、窓から赤毛が現れた事にさらにビビる男子生徒。

目を見開いたまま、私の机の上を無言で指さした。


「おっ!サンキュー!

食べようと思って袋から開けたら、飛んで行ったんだよねー!」


赤毛の男子はそう言うと、私の机の上に置いてあったパンを掴み、ムシャムシャと食べ出した。


「カレル!あったのか?」


カレルと呼ばれた赤毛の後ろから、別の男子生徒が走ってきた。


「あったー!んで、食ったー!」


「もう食ったのか!全くお前は仕方ないやつだな……。教室まで待てなかったのか。」


「待てなかった!」


そう言うと赤毛はニヘッと頬を緩ませて笑った。


机の下からわずかな隙間で覗き見る、可愛いワンコ系の笑顔。

コッソリと確認できました、隊長!


間違いない、コイツ……!


カレル・コンラッド……!!


ワンコ系一途で甘え上手な一面、ただの脳筋バカだと言う噂もある、騎士団長に父を持ち剣の腕が将来有力株だと言う噂の……。


頭の中で叫ぶ。


なぜだあああ!?

王子と接触してないはずなのに、何故イベント外のイベントが起こるんだ……?


しかもこんなイベントなかったし!


一人でパニック起こしていると、カレルの後ろからまた声がした。


「早く教室に戻るぞ、殿下を待たせてるだろう。」


「そうだね!ねえキミ、ゴメンね。ここの席の子にも謝っておいてね。」


そう言うとカレルは手のひらで私の机の上をささっと掃いた。


去って行く足音を聴きながら考える。

カレルに声かけている声にも聞き覚えがあった。

コソコソと机の下からバレない様に見上げる。


窓の隙間から見える青い髪。


ユウリ・レイバン……。


クールな眼鏡枠のユウリはストレートの髪を短く刈り込み、前髪は右側に流していた。

……いわゆる7:3。

クールなんて良い言い方してるけど、結局のところ、真面目が取り柄の頭の硬い仕事人間。

宰相の息子で、トーマ王子の側近である。

あれは絶対、結婚したら仕事が忙しいと家庭を顧みないタイプ。


私は見つからない様に再び机の中に身を潜ませ震える。


ユウリはカレルを連れて、1組の方へと去っていった。


『はぁーーーーー。』


壮大なため息が口から止めどなく出てくる。

というか、息を止めてたので、酸素が足りない。

心臓もバクバクしている。


ああああ、危なかったあああ。

パンのこと思いださなきゃ、確実に会ってた。

とっさに机の下に隠れて本当によかった……!


間一髪。


これは帰ってウーに自慢しなきゃ!!


安堵に気が抜け椅子の足に体を預ける。


もうダメ……もう寝よう。

授業なんて知ったこっちゃない。


もう疲れた、死ぬ……。


こうして私はお昼を食べるのを忘れた上、のそのそと力なく起き上がり、机に俯した。


+++


起きたら放課後だった。

下校のガヤガヤでハッと目が覚める。

やっば、まじで爆睡しちゃったのか……。


授業中寝ちゃったとか、パパにバレたら泣かれちゃう。

そして極限にお腹すいたので、食べ損ねたお弁当をコッソリ口にした。


みんなが下校する中、教室で弁当を食べる不思議な女子生徒の事なんて、誰も目にはくれず教室から出ていった。

モソモソとサンドイッチを口に運ぶ。


……ほんとにこれで良いのだろうか。

友達も作らず、このまま3年も苦痛にまみれた学校生活……辛すぎる。


もうすでに2日目で根を上げそう。


もう出会っちゃったらその時考えたら良いのでは。

好きって言われたら、断ったら良いのでは!!


……そんなこと出来るか!!!


華麗な脳内1人ノリツッコミ。


相手は王子。


王子にプロポーズされ断ったら、私もろともお父様まで迷惑をかける事になるだろう。

……やっぱりダメだ、ここは踏ん張りどころ。

……頑張るしかない。


というかもうロゼリア様に取り入れば良いのでは?

仲良くなっちゃう?先に。


そしたら王子が好きってなっても、私はロゼリア様との友情を選ぶって言えば良くない!?


2つ目のサンドイッチを口に運ぶ。

モグモグしながらあの手この手を考える。


ちょっと水分が欲しいなって思ったけど、水筒を忘れた事に気がつく。

チラリと廊下を見るけど、水が飲めそうな場所はない。


……我慢するしかない。

むしろ野菜の水分で喉を潤わすしか……!


サンドイッチに挟まっているレタスを見つめ、考え込む。


……これで足りるだろうか?


若干喉が詰まっている気がする。


なんかちょっと苦しい気も……。


ゴホゴホ咳き込むが、教室にはもう誰もいなくなっていた。


……トイレの手洗いの水を飲むのは嫌だし……。


なんだかおかしい。

飲み込めない。


胸が苦しい……。


ドンドンと自分の胸を叩くが、喉に詰まったサンドイッチは喉を通らない。

思わずレタスに手を伸ばすが、これはまだ固形。

水分ではないと、自分に言い聞かせる。


く、苦しい。

苦しさがだんだんとこみ上げてくる。


「うぐっ……」


段々と脂汗がジワジワと額を湿らしていった。


おい!体の水分よ!

そこに出るんじゃなくて、口の中に出ろよ!!


胸を押さえ、椅子の上に前屈みに蹲る。


「ぐ……!」


再びドンドンと胸を叩くが、びくともしない。


……ダメだ、王子に出会わなかったせいで、私死ぬのかな……?

こんな事なら……出会ってしまえばまだ生きてられた、のか……?


薄れゆく意識の中、廊下から手が伸びてきた。


「ねえ大丈夫!?……早くこれ飲んで!」


飲めと、言われても……!

苦しくて、意識が……!


反応ない私に、手に持っていたものを机に置くと、教室に入ってきた。


伸びてきた腕は私を立たせると、背後から抱きしめてきた。

……そして。


胸の下辺りから上に向かって、思いっきり締められた。


『おえええー』


詰まっていたものが口から飛び出す。


教室で吐瀉物。

いいえ、ここは乙女ゲームの世界です。


そんな事あってはならないの。

絶対ならない、大丈夫。


さすがなんちゃら補正か知りませんが、私の口から飛び出したのは……サンドイッチに入っていた刻まれず無事だったナッツだった。


「……ナッツ。」


コロコロと転がったナッツを見つめ、私を助けた人はそう呟くと、大きく声を上げて笑った。


「あっはははは!!丸ごと飲むだなんてどんだけお腹が空いてたの!」


息も絶え絶えの私を小脇に抱え、大笑いするたびに揺れるピンクの髪の毛。

肩より長い髪の毛を邪魔そうに耳にかけた。


「……考え事してたら、噛むのを忘れていた様です……すいませんがこれ飲んでも……?」


テーブルの上に置いてたボトルを指差す。

笑ってうまく声が出せないライリーは、何度も泣きながら頷いた。


……泣くほどかよ!!


やっと喉が通る感触。


さっきまでの痛みの余韻がまだ喉に残っているが、食べ物は全て胃に落ちた様だ。


すごくホッとする。

めちゃくちゃホッとした。


あああ、生きてるー!!


ボトルを抱えたまま、思わず両手を高らかに上げ、歓喜する。


一頻り笑い終わったのか、ヒイヒイ言いながら私の前の席に座った。


「もう、大丈夫?」


「……はい。危ないところを……ありがとうございました。」


「いいの、面白かったし。」


ああ、面白かっただろうよ……、こっちは死にかけたっているのに!


命の恩人だが、思わずジロリと睨みつけてしまう。


「笑っちゃって、ごめんね?」


椅子を反対に座り、私の机に頬杖をつきながら微笑んだ。

しかもちょっと小首を傾げて。


頭を傾けると、柔らかそうなピンクの髪の毛がまた頬にかかる。

それを綺麗な細く長い指で、また耳にかけた。


あまりに邪魔そうなので、私はお水のお礼に彼の髪を編んであげたのでした……ポケットにあった黄色いリボンで(ちょっとした復讐)



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