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第2話 あっという間に入学式。

15歳になりました。


ついでに言うと、子犬だったウーがめちゃめちゃでっかくなりました。

多分私が乗ってもびくともしないぐらいに……。


本当にイヌ!?犬だよね?


真白で巨大なウーはとても甘えん坊で、毎日突進して倒される毎日。

可愛いけど、そろそろあちこち痛い。


はい。

15歳は学校に入学する年です。

もうすぐ4月、期待を込めて落ちないかなって思った入学前試験も、貴族なら白紙でも入学できるらしいので、無駄な抵抗でした。

というか貴族の為の学校ですもの。

貴族ならば誰でも入学できちゃう、そんな学校。


もしかしたらなんて仄かな期待があったのになー!!


合格証明書が届いた時、喜ぶ両親を他所に思わず舌打ちをしてしまったものだ。

仕方ない。

当初の予定通りに、ステルスで生きる事にしよう。


ブラウン家と言うだけあって、茶色のフワフワの髪に、茶色の瞳。

それを肩あたりでワンカール、サイドで編み込みして小さなリボンをつけていた。


フッ、ストーリー説明一番初めに出てくるヒロインの姿。

まさにそれ。

私が好きでやってるわけじゃない。

何故か、毎朝この髪型にされるのだ。

これが、強制力というやつなのか知らんけど!


顔に関してはやっぱヒロインですから。

パパ譲りの整った顔。


お母様が私を愛せるのも、パパそっくりだったからだと思う。

良かったママンに似なくて。

ママンに似てたら今頃私はシンデレラよりひどい待遇だったかもしれない。

……いやお母様は天使なので、それでも愛してくれたかもしれないが……。


思わず背中に何か走ったが、気のせいだと思う事にした。


入学式当日。

貴族たちが馬車で続々と門を潜る時間。

私は既に教室でスタンバイをしていた。


何せ今日はすべての分岐の要となる、王子との出会いイベントがあるからだ。


『遅刻ギリギリに学校へ入るヒロイン。

悪役令嬢のロゼリアと登校をしていた王子が、下駄箱でヒロインとぶつかる。

王子にぶつかり転がるヒロインに、ロゼリアは無礼だと罵る。

だが王子はヒロインに優しく手を差し伸べ、起こしてくれるのだった。』


まずもう教室。

ワタシ遅刻シナイ。

完璧。

このまま放課後まで最新の注意を払って、誰ともぶつからずに過ごせば完璧。


お母様が結ってくれたピンクのリボンをそっと外す。

そして目立たない様にグシャグシャと髪を崩すと、一番隅っこの後ろの席に座った。


一見だらしのない髪型だし、本を読んでいたら誰も声をかけないだろう。

この年まで何かに付けて、お茶会などの社交を全て避けてきたので、知り合いもほとんどいない。


まさにステルス!

完璧!!


そもそも一匹狼タイプのキアン以外は、全員この入学式の王子イベントが必須なのだ。

王子のイベントを進めないと、誰とも会わない。

隠しキャラの隣国の王子なんて、夏休み終わるまでに特定5人の信頼度4以上じゃないと転校してこないし。


信頼度が3までは簡単なんだけど、3から4がまぁ大変。

特殊イベント発生させた挙句、デートを5回以上とかかなり設定が鬼畜なのだ。

愛あればいける。

ゲームならば。


なので全てはこの入学イベントにかかっている。


最新の注意を払い、ステルスする。

セイラ、頑張ります!


以上。


本で顔を顔しつつ、一人で敬礼ポーズ。

私自身が怪しい雰囲気漂わせながら、教室でやり過ごす。

教室の隅っこに座る、グシャグシャな髪の毛の少女には誰も目もくれず、あっという間に放課後となった。


流石に放課後になったし、もう大丈夫だろっていう安心感。


クラスも貴族の位順に分けられ、私はもちろん末端のクラス。

王子たちは華々しい1組であるし。


クラスが違えばもう楽勝だと気を抜いたらトイレに行きたくなった。


貴族の位順に止められた馬車の迎えに、自分の順番がまだ先だと確認し、コソコソとトイレへ向かう。

廊下はもうほとんどの生徒が帰宅のため、校門へと向かっていたので誰もいなかった。


気配を殺し、トイレへ。

無事スッキリ用事がなくなると、手を拭きながら出たところで誰かとぶつかり大きく転倒した。


「ンギャッ……!」


思わずこの世のものとは思えない叫び声で尻餅をつく。


ひええええ、油断した。

油断してしまった……!


恐れに震えながらぶつかった人物を見上げる。


「……ごめんなさい、大丈夫?

どこか痛いところない?」


大きく綺麗な手が私に差し出される。

逆光で見えなかったが、長めのピンクの髪の毛が光と揺れる。


「……あら、あなた……。

えっと、立てる?」


「あ、はい。」


やっと意識を取り戻し、手を差し伸べる人物が王子ではない事に安堵した。

でも、目の前で少し驚いた顔のこの人。

……私この人知らないよ……?


……こんな人ゲームで見た事ない。


私に手を差し伸べ起こしてくれたのは、薄ピンクの長い髪を耳にかけた美少女……!!

……ではないよな?


平均身長の私より10cm以上は高いだろう美少女は、少し赤みがかった瞳の色と、やや垂れた目の横に、魅惑のホクロを装備していた。


やや癖毛の長い髪を鬱陶しそうに耳にかける姿がもう美少女なんですが。

声や体格、制服までもが『美少女』を全否定していた。


ポカンと顔を見つめたまま、立ちすくむ私の額に手が添えられる。


「どうしたの?どっか痛い?

……打ちどころ悪かったの?」


……打ちどころは尻です。

額ではないですけど……。


「……いえ、お礼も言わずにすみません。

起こしてくださってありがとうございました。」


私はそう言うと『美少女?』から離れ、お辞儀をした。


「あら、そう?

無事だったら良かった。

ごめんなさい、急いでたの。」


そう言うと『美少女?』は私に微笑んだ。


……ふぁあああ!!

めっちゃ美人。

めちゃ美人だけど、あれ絶対美少『女』ではないな。


だって男子トイレに行ったもん。

てか、ズボンだし。

結構腕とか、すらっとしてる割に体格もいいし。


ま、とりあえず王子じゃなくて良かった……!

そう思いながら尻をさすりながら踵を返し、私は教室の方へと向かった。

その時、廊下の反対側から聞こえる話し声に思わず立ち止まった。


「……待ってください、トーマ様」


綺麗な透き通る声が耳に入ってきた時、ドキリと胸が跳ね上がる。

胸だけじゃなく、全身で跳ね上がったかもしれない。


「ロゼリア、急がなくていいよ。

今日は初日だから、入り口に馬車が入れず混雑しているらしいから。」


人気がなくなった廊下は、遠くの声も響かせていた。


トイレから中階段を挟み、3組2組1組と教室が並んでいる。

私が今瞬時に張り付いたのは、中階段の壁。

中階段の横には、中庭につながる扉があるのだが……察しのよい方ならわかるこの状況。


私の右手に扉があり、左側後ろから『本日絶対出会ってはいけない人達』が歩いてきている状態だった。


ひょえええ!!


ヤバイ。

ヤバイよコレ。


美少女?の存在を忘れ、うろたえる私。


辺りを見渡しても、中階段の裏しか手はなさそう。

ひとまず階段の裏に身を寄せる。


階段の裏は埃をかぶった木箱が乱雑に積み重ねられ、私がしゃがんでやっと隠れられる……隠れられてるかなぁ、これ……。

しゃがんで丸くなった背中が出ている気がする……。


ヤバイ。

非常にヤバイ状況。


何がステルスだ。

こんなのタイトル詐欺じゃないか。


非常に、ヤバイ。


足音が迫ってくるのを感じ、心臓が煩く音を響かせいた。


ヤーバーいー!!


私のすぐそばで足音が止まり、背後から影がさす。


「えっと、さっきからあなた……こんな所で何をやってるの?」


思わず涙目で振り向くと、さっきのピンクの美少女もどきが私を覗き込んでいた。


思わず口に人差し指を当て、『シー!シーー!!』とジェスチャーするが……。


「……ライリー何をやってるんだこんな所で?」


はい、終了のお知らせ。


タイトル次回から『私はステルスできなかった☆ヒロイン』に変わるんだ……。

というか私は誰に言ってるのか……。


ギュッと頭を抱え、まな板の鯉のように覚悟を決め固く目を閉じた。

そしたら美少女もどきは突然に、私を腕の中に引き寄せた。


「ああそうか、トーマ殿下学園に入ってきたのね。

入学おめでとう。

……ロゼリアも、おめでとう。」


美少女もどきは顔だけ振り向くと私を抱き締める腕にギュッと力がこもる。

そして、腕で包み込んで王子たちから見えないようにしてくれたのだ。


「……ライリー、こんな所で何を……しかももう新入生に手を出したのか?」


逢引中に見えなくもないこの状態に、私の顔が耳たぶまでも熱を帯びて赤くなる。

ぎゃあああ!!

そういや抱きしめられているー!!


しかもさっき会ったばっかの人に。

でも、助けてもらったのか……これ?


腕の隙間からチラリと王子たちを見ると、ロゼリア嬢なんてもう、虫けらを見るような目でこっちを見ていた。


この人王子の知り合いなのかな?


「この子は前から目をつけてたの。

邪魔しないでね?やっと見つけたんだから。」


そう言うと美少女もどきはニッコリと王子に微笑んだ。


王子は呆れた顔をして、小さく息を吐いた。


「……貴族としての自覚を持て。こんな所を他の誰かに見られたら、貴方の品位だけじゃなく、貴方の家の品位も落ちるんだということを……。」


「……ご忠告、痛み入ります。麗しき王子様。」


その言葉と同時に、私を抱きしめた手にまた力が篭った。

顔は変わらない笑顔のままで、その投げつけられた言葉は……もしかしないでも私のせいじゃないか?


うわああ、品位とか申し訳ない……。

誤解なのに。

彼は私を助けてくれただけなのに。


思わず心配そうに見上げると、美少女もどきは美少女の顔で私に微笑んだのだった。

そしてその抱きしめられた厚い胸板で、再度美少女もどきが『男性』であることを確認したのだった。


ちょっとお胸のお肉触ってみたけど……うん、ない。

まったく、ない。

筋肉しかなかった。


……ちぇ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノリツッコミが激しくて、面白いです。 頑張ってステルスしてー! 美少女なライリーと今後どうなるのか、すごく楽しみです。 [一言] 更新楽しみにしてます。 執筆、頑張って下さいませ!
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