第18話 なんでわざわざ出逢いにくるのか。
昨日の一件があって、寝ながら神に『どうか不敬罪だけは勘弁してくださーい』と祈り続けた。
お陰で変な悪夢を見て、ほとんで寝れてない。
しかもよくよく考えたらさ、カレルもキアンもユウリにも会ってしまった訳ですよ。
喋ってないからセーフにしてくんないかな、神様、運営様ー!!
また学校行きたくない病が発生しそうだったが、起きてすぐにウー様をモフモフしてたら頑張ろうという気になってきた。
こ、これがアニマルセラピーってやつか……。
ちょっと私も犬くさい。
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学校に着くとすぐ、ノーマンが飛んできた。
昨日の出来事が既に噂が広がっているらしい。
うおおおお!!!
アニマルセラピー、足らないよー!?
明日からウー様を鞄に押し込めて登校しよう。
……いったいどれほど大きなカバンが必要か。
「セイラ大丈夫なのか?」
「あんま大丈夫じゃないけどね。」
特に不敬罪について。
それが一番、フラグより気になる。
とりあえずフラフラと教室へ向かい、お昼休みにノーマンと会議する事にした。
こっそり屋上とかで。
「ま、授業に身が入る訳ないよねー!!」
青い空、白い雲。
もうすぐ夏がやってきます。
屋上に広がる空を見ながら、私は背伸びをした。
「大丈夫なのか?再来週からテストだが……」
「ハッ!!忘れてたけど!?」
『威張っていうもんじゃない』と、ノートでポカリと叩かれた。
そして叩かれた武器を私に差し出した。
「なにコレ?」
「テスト範囲のノート。各教科ごとにまとめてある。」
「ノーマン様ぁぁあ!オラ一生ついていきますだー」
両手を広げ抱きつこうとしたら、さっと真顔で避けられた。
……悔しい。
気持ちがそのまま顔に出て、悔しそうな顔をしている私にノーマンはため息をついた。
「あれから色々考えたんだが……」
「うん」
そこまで言うとノーマンは言いづらそうに頭をかく。
そして意を決する様に口を開いた。
「まず、気になったこと。
ココからは俺の個人的な考えだから、正直に言わせて欲しい。
ムカついたら後でまとめて謝らせてくれ。」
ノーマンは私が頷くのを確認すると、ホッとした様に話し出した。
「最初は普通の犬にしか見えなかった白い犬が、君のノートを見てから『普通の犬』に見えなくなった。
一見セイラが僕に幻覚操作をしているのかと疑ったが、そうじゃないんだろ?」
「ひどいな、そんな事してまで信じてもらおうと思ってない!」
私の返事にノーマンは頷く。
「いや分かってるって。
一応、確認のために聞いてんだ。
……んで、あれからずっと考えてたんだけど……。」
一瞬ノーマンはためらっていた。
でもぐっと唇に力が籠ると、再び話し出す。
「ノートを見た後で、じゃなかったと思う。
多分俺が君の話を『理解』したら、君が見ている世界が見えたんだ。」
真剣な顔で私を見るノーマン。
私の喉もごくりと鳴った。
「……なるほど、わからん。」
私の新鮮な答えに、ノーマンがずっこけた。
「……ともかく、だ!」
私の言葉に若干キレ気味のノーマンにちょっとビビりながら正座し直す私。
申し訳ねえ、理解力が乏しくて……。
「だから、これだけを覚えておいて欲しい。
もし俺以外の誰かに、この世界がゲームの中の世界だと言うことを話すことが次にあったとしても、そいつが君の話をちゃんと『理解』してもらえなかったら、意味がないと言うことだ。」
「……頭がおかしいと思われると言うことね?」
私の言葉に今度はノーマンが頷いた。
「だから慎重に話す人を選ぶ事。
そして理解させる事。」
ノーマンが私の前に指を下りながら説明する。
まるで小さな子供に説明する様に、だ。
そこまで馬鹿じゃない!
……じゃない、はず。
「……わかった。
ノーマンは私の話のどこで理解した?」
「セイラの怯えようだ。
殿下にあった時の状態に表情。
なんだかあの光景を一度体験したことあるような驚き方だったのが印象的だったから。」
一度見たことはあるよ、ゲームの中で。
ちなみにどんな顔だったか聞いたら『死にそうな魚の様な顔』だったらしい。
なんじゃそりゃ!!
「マーロウ令嬢が来るのをわかってた目線だったし、頑なに殿下から避けようとしていた行動に違和感があったからね。
そう言うのを順序立てて見て、最後に話した後のセイラの顔が、嘘を言ってる様に見えなかったから。」
そういうとノーマンは大きく背伸びをした。
「……ありがとう、信じてくれて。」
私の言葉にフフッと笑う。
「どういたしまして。」
「ああ、もう何も起きなきゃいいのになぁ。」
がっくりと肩を落とす私に、目を閉じていたノーマンの目がカッと開いた。
「それで?」
「……何が?」
「いいから昨日何があったか、詳しく吐け。」
「……そうでした。」
そうして私は昨日の出来事を一言も漏らさず心情付きで話したのだった。
+++
「なるほどなぁ……」
「……好感度って上がったと思いますかね?」
「……初期主要メンバーは全部いたんだよなぁ……?」
「あ、はい……。」
「んで、殿下は多分3ぐらいは行っていると……。」
「……はい、似たげなイベント来ましたから……。」
「それを踏まえると、多分全員気になる珍獣ぐらいにはいっているかもなぁ……。」
「……珍獣と思われているならいいのですが……。」
深い深いため息が重なる様に吐き出された。
「どうしたらいいんだあああ!!!」
屋上で叫ぶ私の声がコダマした。
再びため息を吐くノーマンに涙目で縋りつく。
「どうしたらいいとおもう!?」
「……もう逃げるの辞めて立ち向かうしか……。」
「立ち向かって万が一好感度が変な風に上がったら目も当てられなーーい!」
悔しすぎて屋上の床を拳で叩いた。
「……だいたいみんな可笑しいよ。
私の行動は変だとクラスメイトに避けられるぐらいだよ!?
なのに攻略対象者から見たらそれは可愛いものに映っているのですかね!?
趣味悪すぎでしょ!周りの目が正常なんだよおお!!」
ドスドス床を叩きながら泣き言が続く。
「……そんな珍獣になぜ好感度があがるのでしょうか!?
ノーマンは私のこの行動、可愛いと思いますか!?ねえ!」
半べそ描きながらノーマンを見る。
ノーマンは困った顔をしながら頭をかいた。
「……一般的に可愛いかと聞かれたら、セイラは変人の部類だと思う。
最初は俺も変なやつだと思ってた。」
「でしょおお!?」
まぁ普通変だと言われているのに、ここで『でしょ!?』なんて言う奴は私以外いないだろうけど。
自分でもわかっている。
だが、今は死活問題中なわけで、変と言われた方がホッとしちゃう乙女心。
ノーマンは頭をかきながら視線を落とした。
「けど、セイラと仲良くなって変なことばっか頑張ってるとこは、変だけど最近はなんか、ちょっと面白くなってきたと言うか……顔は可愛いんじゃないかな……。」
「……今褒められても嬉しくないいい!」
「それはすまん。」
私の泣き言にノーマンは目尻を下げて笑った。
私とノーマンがワイワイしていると、屋上の扉が徐に空いた。
私たちがいる場所はドアから少し左にある建物の影にいたので、扉を開けた人物とハタと目があった。
「……げっ」
口から素直な感想がこぼれ落ちた。
だって、会いたくない人がそこにいたから。
「……ああ、君がセイラ?」
ニッコリと微笑む可愛らしい顔立ち。
オレンジの髪が風に揺れて、彼の頬をくすぐっていた。
「どなたですか?」
そう聞いてくれたのはノーマンだった。
でもね、私この人知ってる。
だってだって、会いたくない2位ぐらいの位置にいた人だから。
「ああ、ごめんね。自己紹介してなかったね。」
彼はそういうと、ゆっくりと髪の毛を耳にかけた。
女の子の様な白く綺麗な指先がそのまま口元に当てられる。
「初めまして、僕はシトロン・キートレイって言うんだ。」
『初めまして、僕はシトロン・キートレイって言うんだ。』
彼と初めて会うのはこんな屋上ではなかった。
トーマ様に誘われた2人だけのお茶会で、そう言って割り込んでくる。
口元に当てられた指先がするりと落ちると、首をコテンと傾けて微笑む。
「……それで、君がセイラ・ブラウンで会ってる?」
そのあとはきっとこう続く。
『兄上と仲良くしてるなら、僕も友達になって欲しいんだ。』
目の前にいるシトロンはコテンと首を傾げた。