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第17話 フラグをへし折る。(物理的に)

私の計画を台無しにしたトーマ殿下を思わず睨みつける。


私に睨まれて、トーマ殿下はキョトンとした顔で私を見つめていた。

だがすぐ気を取り直すと、ロゼリア様を睨みつけた。


「ロゼリア、君は一体何をやっているのだ!

こんな人気のない所で暴力を振るうとは……!!」


「……!ワタクシは!!」


「現場をこの目で見ているのだ、言い訳なんか聞きたくない!」


「……!」


ロゼリア様は言葉を噛み砕く様に強い目でトーマ殿下を睨みつけている。


「ちょ!!」


思わず私が叫ぶ。


その声にみんなの空気が一瞬シンとしたが。

私は気にせず叫ぶ。


「ちょっと待ってください!!」


叫ぶ声に、私に注目が集まった。


「私マーロウ公爵令嬢様に虐められてません!!」


「「「は?」」」


今の情けない声はトーマ殿下率いる攻略対象者たち。


みんなが声を揃えて眉を寄せる。


「……いや今現に、ロゼリアの手が君の頬に……」


「いやいやいや!私の頬についていたパンクズを取ってくださっていただけですが!!」


ちょっと嘘つきました。

しかもパンクズとか、しまった私食いしん坊キャラに思われないかな……。

だけど『前回打たれた頬を心配してくれてただけ』なんて言えるわけがない。


でもとっさにこれが最善だと思った。

ロゼリア様もひどく驚いた顔でこっちを見ている。


責め立てられた悪役令嬢は、王子になんて言ったっけ?


ふと、この場面を反芻する。


『言い訳なんか聞きたくない』


トーマ殿下はロゼリア様に言う。


ロゼリア様はキッとトーマ殿下を睨みつけながらこう言った。


「……何故その子ばかり構うのですか?」


「……何だって?」


「そうだ。

そう言ったんだった。」


私の独り言を聞き取ろうと、トーマ殿下の顔が近づいてきたが。

私は思いっきり顔をあげた。


私の石頭がトーマ殿下の顎を直撃する。


その衝撃でトーマ殿下が私から離れた。

その隙に私は、痛い頭を抑えつつトーマ殿下から離れた。


そして、掴んだままのユウリの手を手刀ではたき落とす。


ユウリももちろん、トーマ殿下も、キアンもカレルもまん丸な目を見開き唖然とする中で。

私は両手を腰に当て踏ん反り返った。


「何故、私ばかりを気にかけるのですか?」


「……は?」


「トーマ殿下は第一王子という身分であり、将来国を背負うお方ではありませんか。

そしてロゼリア様と言う将来の王妃様にふさわしい婚約者がおられます。

それなのに、一生徒である私の事を気にかけるから、こうやって揉めなくていいことを揉めるのです!」


そしてドヤ顔でビシッと人差し指を前に出す。


「この間ぶつかったことを気にかけてくださっているならもう大丈夫なので、今後は婚約者のいる身であることですし、他の女子生徒を気にかける様なことは謹んでいただけたら幸いです。」


できれば二度と、関わらないでいただきたい。

そしてここまでえらいドヤ顔で言いましたが……。


「……最後になりましたが、勝手な発言すみませんでした……。

どうか不敬罪だけは勘弁してください……。」


さっきとは打って変わった青い顔で懇願し、綺麗な90度のお辞儀を披露をして走り去るのだった。


もう、帰りたい……!!

こんな怖い事、二度とごめんだ!


嵐の様に言いたいことだけをいうと、走り去って行った少女を、みんなポカンとした顔で見送っていた。


「……ロゼリア……。」


トーマが思い口を開くと、ロゼリアもハッとした顔でトーマを見つめた。


「……ともかく、ワタクシ何もしておりません……。」


その言葉にトーマがバツの悪そうな顔をする。

と、同時に、ロゼリアも同じ様な表情を浮かべる。


「お互い何かしらの誤解があったのかもしれませんので、この場はどうかおさめて頂けたら……。」


ロゼリアの提案に、それぞれが顔を見合わせてゾロゾロと教室へと向かっていく。


だがそれぞれが先ほどのセイラの言葉を反芻していた。


キアンは難しい顔で考え込み何か焦りが見えているし、カレルは悪戯を思いついた顔をして、仕切りにセイラの事をユウリに聞いていた。


ユウリもまた、セイラに落とされた自分の手を眺めて考え込んでいる。


ロゼリアはトーマの顔色を伺いながら、足早に取り巻きの少女たちと別の入り口へと向かって行った。


トーマも考え込んでいた。


今まで生きてきて、誰かに拒絶されることは一度もなかった。

自分が興味がなくても、人が寄ってくる様な半生だった。


『今後は婚約者のいる身であることですし、他の女子生徒を気にかける様なことは謹んでいただけたら幸いです。』


あの言葉は裏を返せば『二度と関わってくれるな』という事だと、鈍い自分でもわかっていた。


何故自分は彼女にあそこまで拒絶されるのか。

全く覚えもないことに頭が混乱する。

混乱に乗じて胸がさっきからずっと重く苦しい。


先ほど抱きしめた少女はとても小さくおれそうな体をしていて、自分の力加減さえ困惑するぐらい気を使っていたが、同時に何とも言えない嬉しさが湧き上がっていた。


これも生きてきて初めての感情で、柄にもなくはしゃいでいた様な気がする。


彼女を守るため、ロゼリアに一言言ってやろうという高揚が、一瞬で崩れ去った。


『私だって好きで王子に生まれたわけでも、王になりたいわけでもない』


トーマはふと、自分が本当に王位を継ぎたいのかと疑問を抱く。

第一王子だから、次期王になるための教育を物心ついた時からやってきた。


それに疑問を抱いたことはないが、自分が王になりたいかと言われたらわからないのである。


彼女にあって、初めてなんだかたくさんの自分に会えた気がする。

そして初めて自分を見つめ直すことができている。

自分にこれほどまで感情があったことさえも、大発見だった。


もっと彼女を知りたくなる。

だがそれと同時に、拒絶されたことを思い出し、胸の痛みに体が重くなった。


「……殿下、大丈夫ですか?」


ユウリが心配そうによろめくトーマを支える。


「……ああ、大丈夫だ。」


額に伝う汗を手の甲で拭いながら、トーマはユウリを見た。


『全然大丈夫ではなさそうだが……。』


ユウリは心の奥でそう思った。


さっきのアレは殿下にとって危険なのか、安全なのか。

さっきからそればかり考えている。


「……とりあえず、興味は湧きましたね。」


「……何がだ?」


「いえ、何でも。」


トーマが首を傾げるが、ユウリは微笑んでごまかした。

そしてニヤリと口角を歪ませた。

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