一話 ここはどこだ
一人称練習
暗闇の中から意識が目覚めると、眼前には薄緑色の視界が広がっていた。
──何だ、ここは。
薄緑色の視界の先に、何かが見える。
ぼやけていて良くわからないが、あれは機械か? 目を凝らしてその正体を見定めようと試みる。目を細めるも、輪郭ははっきりとしない。
すると、そこで視界の中に白い物体を捉えた。
下から上へと浮上する、小さな……これは泡か?
何故水の中に泡が、とはじめ思うも、直ぐにそれは間違いだと気がつく。
コポコポと聞こえる泡の音はやけに近い。
──違う、俺が水中にいるのか!?
一瞬、パニックになり、手足をもがいて助かろうとする。
しかし、手足は硬質なアクリルガラスのような透明な壁に阻まれ、軽く音がするだけで、外には出られない。
溺れる、と思うものの、そこで違和感。
──苦しく、ない?
ゴボゴボと音を立てて口から泡が出るも、何故か息苦しさは感じない。
肺の奥まで液体を吸い込む感覚があるのに、不思議と呼吸は出来た。
──何だここは?
取り敢えず、溺れることはないと、落ち着いて動くのを止めたところで、視界に異変が生じた。
薄緑色の液体の向こう、透明な壁の向こうに、大きくなる影があった。
それは段々と、この透明な壁に囲まれた水槽のようなものに近づいてくる。
そして、近づくにつれて、輪郭ははっきりとした。
──人間だ!! おい、俺をここから出してくれ!
ダンダン、と壁を叩く。
だが粘性のある液体に動きが阻まれ、上手く力が込められない。
壁の向こうの人間──メガネを掛けた白衣の男は、じっとこちらを見るだけで、何のリアクションも見せない。
──何だ? 力が急に……眠い…………。
突如、身体を疲労感が襲い、そして激しい睡魔が訪れた。
抵抗しようとするも、意識は急に遠のき、そして再び暗闇の中へと落ちて行った。
§
軽くドン、という音がした。
そちらを見れば、音は人工子宮の方からだった。
成人男性が丸々入れる程の大きさの、円柱状のカプセルのような見た目をしたその中には、成長促進剤を配合したバイオ液が充たされている。
そして、その薄緑色をした液体の中には、全裸の人間が入っていた。
私はそのカプセルの方へと近づき、様子を確認する。
中の人間──液体で分かり難いが、黒目黒髪の青年──は手足を泳ぐように動かしていた。
じっ、とその様子を観察する。
そして、暫くもしないうちに、その素体は動きを止め、眠りに落ちた。
「博士、排出しますか?」
「いや、まだ早い……そうだな、この分だとあと一週間後くらいでいいだろう」
「わかりました。では他の準備もそれに合わせてやっておきます」
「頼むよ」
デスクの上のモニターを監視していた職員に指示を出す。
職員は、指示を受け取り再びモニターのバイタルデータの監視作業に戻った。
私は視線をカプセル──人工子宮の方へと戻した。
そこには先ほどの素体が入ったもの以外にも、ずらりと人工子宮が並び、そしてバイオ液が充たされている。
それらの中には、同様に素体が浮かんでおり、それらは皆順調に成長を見せていた。
上手くいかね