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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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タンバリンさえいれば勝てる

え……?リーダーがレッドじゃ無いって何……?

歴代のロボからモチーフを選んだって……それなのに戦隊ロボ史上最高傑作のグランドライナーがいないって何……?

グランドライナーとは言わずとも多分作者と同じ不満抱えてる特オタは数多いと思いますよ?

なぜ自分の推しロボがいないんだって……

作者は特撮全てを受け入れる人間ではありません、見た目カッコ悪ければ、キャラ設定が悪ければ、ストーリーが悪ければ三話で切ります。

キュウ◯ンジャーやエグ◯イドは見てません。

ゼン◯イジャー、既に期待が持てません。


「はははっ!見て慎太郎、とっても可愛いですよ?」

「うん?あぁ、そうだね……」

 ―可愛いか?これ……―


 時として女性の感性は男には理解し難い。

 豚の顔に羊の巻き角とモコモコの体毛、その毛玉のような体から伸びる四肢と尻尾はトカゲのそれという大型犬くらいの四足歩行獣がフゴフゴいいながらロレインが差し出した掌を嘗めていた。

 表面上屋敷の警備を受け持った慎太郎とロレインは昼間見られなかったメアリーの工房の裏手、食用キメラの飼育場を見に来ていた。そして正に目の前のよく解らない生き物こそ食用キメラである。

 性格は温厚で発情期は無く、通年を通して繁殖可能らしい。慎太郎は牧場の隅の方で絶賛繁殖行為中のキメラをチラ見してすぐにロレインに目を戻す。どうやらロレインは気付いていないらしい。

 慎太郎は自然な動きで移動しロレインの視界にそれが入らないよう壁になる。


「それよりも見てよ、今夜は月がデカくて凄く綺麗だ。」

「まあ本当、あんまり明るいからまだ日が落ちてないのかと思っちゃった。」


 西の空に少し赤みを残しつつ、東の空には大きな満月が上っていた。

 最近慎太郎と二人でいる時のロレインは少し砕けた口調になってきた。些細なことかもしれないが、慎太郎はそんなことが嬉しくて堪らなくて口元を弛ませる。


「しかし不思議なモノでさ。こうやって満月見るとさ、俺達の世界の月と同じに見えるんだ。」

「そうなんですか?」

「ほら、月に模様が見えるだろ?なんかウサギが長い棒持っているように見えないかい?」

「本当、言われてみればそんな風にも見えますね。」


 そう言って二人で見上げた月は日本で見た月と瓜二つで、慎太郎は懐かしさを感じかけた…。

 しかし、日本とは決定的に異なる点がある。


「まああっちでは月は1つしか無いんだけどね……」


 そう、正に月並みだがこの世界の月は二つある。正確には月よりも一回りふた回り小さな天体が月に寄り添っているのだ。


「月が二つあるとか……正に異世界だよな……」

「月は1つしかありませんよ?もしかしてフレイの事ですか?」


 ロレインは月に並ぶ星を指差した。


「ああ、あの星だよ。俺達の世界では二つ目の月ってのは創作話なんかでよくある話でね。みんななんとなく二つ目の月って呼んでるんだ。」

「あれはそんな良いものではありませんよ。」


 ロレインは慎太郎の言う“二つ目の月”を見上げた。


「遠く昔、この世界も慎太郎達の世界と同じような文明が栄えていたそうです。あれはその頃の失われた文明(ロストテクノロジー)によって生み出された造られた星らしいのです。」

「へぇ、まるで本物の星に見えるな。」

「大地を削り、海を埋め、大気を汚しながら栄えてきた古代人は、失われてゆく星の命に対し増えすぎてしまった自分達の居場所を求め、月への移住を考えたそうです。」

「本当に地球の話みたいだな……」


 ロレインの語るそれは余りにも自分達の地球の状況に酷似していて、慎太郎は思わず背筋を震わせた。


「その計画を試行錯誤した末に生まれたのが人造天体フレイ、人々の願いを込め太古の豊穣神の名を与えられたそれは、月の大地に豊穣をもたらし人が住むに適した気候に調節するために生まれました。」

「ゴキブリを大量に放つとかじゃなくて良かったよ。」

「ひっ!?何ですかそのおぞましい発想は!?」


 涙目でロレインは自分の肩を抱きながら身をすくませた。覗く首筋には鳥肌がびっしり浮いている。


「やっぱり俺達の世界の創作話でね、先行して適応力の強い生命体を住まわせる事で他の生命体も住める様に作り替えるみたいな理屈だったかな?まあ月じゃなくて火星だったと思うけど……」

「仮にその計画が成功したとして誰が住むのですかそんな星!?」

「でも切羽詰まったら住むんじゃないかな?人気のある話だったし。」

「その星に住むくらいなら私は滅びを選びます……」


 想像だけでかなりのダメージだったらしく、ロレインはげんなりとした顔で魂が抜ける様なため息をはいた。


「ともかく、人々の期待を背負ったフレイは月を人が住める大地にしようと努力した挙げ句、月の大地に眠る未知の病魔を呼び覚ましました。かくして人々は突如飛来した謎の病魔に対抗しようと立ち向かい、その原因が天高くの月にあることに気付いた時には緩やかに滅びを迎えていたそうです。」


 慎太郎は次第に恐ろしくなってきた。ロレインの話が余りにも想像に容易いからだ。

 慎太郎は妄想力に長けたオタクでも学問を突き詰めた学者でもない本当の一般人だ。

 その一般人が容易く想像できるというのは、それは起こりうる未来だということなのである。


「あれ?でもその話が本当ならこの世界って……」

「はい、この世界に残された遺跡等が調査された結果として、この世界の人類は一度滅びたとされています。」

「それってどう言う……」


 慎太郎は何か言おうとしたが言葉に詰まってしまった。自分の理解の範疇など超えているし、おそらくこの話を知っているであろう美空も理亜も真琴も何も言わないのだ。慎太郎は早々に理解を諦めた。

 冷静になって初めて宴会場から遥の歌声が響いて来るのに気が付いた。


「いつの間にか宴会も始まってたんだな。和人やメアリーさんは植野のあれ見たらどうなるかな?」

「私達と同じじゃないですか?鐘鼓(しょうこ)(この世界のタンバリンの事)をあそこまで使いこなす人は父の軍楽隊にもいませんでしたから……」


 今までの話を忘れるかの様に、二人は苦笑いを別館に向けた。

 その頃宴会場では───


「まぁ、ああなりますよね……」

「あいつに全部持ってかれた感半端ねぇよな……」

「まずタンバリン極めようって気にならねえよ。」

「俺日本帰ったら超絶タンバリン絶対調べて見るわ。」


 歌鈴のタンバリンを前に固まってしまった和人達を見て、一旦お休み中の美空達はコーラスに徹っし苦笑いを浮かべながら昨日の事を思い出していた。


 ──────────


 別館に入った頼雅達は美空から楽器を受け取ると思い思いに慣らしの曲を奏で始める。

 どうやら天才は絶対音感も持っているらしく、出来立ての楽器だというのにチューニングも完璧だ。


「美空ぁ、獅子王といいこのサックスといい本当にいい仕事するなお前。下手な鍛冶屋よりよっぽど信用できるぜ。」


 今まで感じた事の無いクリアな音質にすっかり気を良くした頼雅が美空に近付くと、その製作中の物を見て言葉を失った。

 軽さと丈夫さを備えたカーボンのフレーム、錆びに強く雑音の少ないステンレスの鐘。頼雅も小学校の頃やカラオケで散々目にしたアレ。


「で、革どうします?」

「うーん……バルーンボアも捨てがたいけどデッドリーマンチカンの方が良さそう。こっちでお願い。」

「おい……」


 頼雅は真剣に話し合う二人に茶々を入れずにはいられなかった。


「何?」

「お前いくら見た目小学生だからってそれはねぇだろ……」

「小学生いうな!」


 頼雅は歌鈴が抗議と共に放った目突きを難なくかわす。その間にも美空は音を確かめながら革張りを続けている。自分が作っているものに関して深く考えるのを止めたらしい。


「お前あんだけ自信満々にドラムの代わりくらい出来るって言ったよな?」

「うん、言ったよ?」


 そこでトントンとタンバリンの音を確認した美空は完成と判断してそれを歌鈴に手渡した。


「タンバリンなんかでドラムの替わりになると思ってんのかよ!?」


 何か説明のできない涙を浮かべながら頼雅は叫んでいた。


 タアァァァァァンッ!!


 歌鈴が打ち鳴らしたその音は、明らかに美空が確認のために鳴らしていた音とは別物だった。

 押し黙る頼雅、集まる注目、タンバリンを作った美空ですら驚きの表情で歌鈴を見ている。


「う~~ん、良い音♪」


 歌鈴は嬉しそうに目を細めると、そのまま軽やかにタンバリンを叩き始めた。


 トタシャン!トタシャン!カカカッ!カカカッ!トンッ!トンッ!トタタタタンッ!シャラララララランッ!トンッタンッ!!


「もちろんそう思ってるよ?」


 そう言って歌鈴はユカイなダイヤモンドさんくらいのドヤ顔を頼雅に向ける。

 その場にいた者達は全員が混乱していた。目の前で打ち鳴らされたタンバリンの音と自分達のイメージするタンバリンが噛み合わず、なかなか理解が追い付かなかったのだ。

 皆が静まり返る中、ピアノの音が1つ響いた。


「歌鈴サンに技術があるノハ解りましタ、デスが音楽は調和してこそデス。歌鈴サン、私に合わせてくれマスか?」


 エイミが弾き始めたのはNA◯TOのOPを飾った中でも特に有名であろう、いきも◯がかりのブルー◯ードだ。

 もっと他にも色々あるのでは?と思うかもしれないが、ただ単にエイミの好みである。


「余裕っ!」


 皆が聞いたことあるその曲に、歌鈴は難なくエイミのピアノに合わせていった。

 そして回りの者達は不思議な感覚を味わう事となる

 演奏しているのは歌鈴とエイミだけの筈なのに、まるで一組のジャズバンドの演奏を聞いているかのような錯覚を覚えたのだ。それ程に歌鈴のタンバリンはパーカッションとして完璧で、一人で三役はこなしていたのである。

 そして曲がサビを終えた時、歌鈴の口笛が鳴り響く。


 ピィィィィィッ!ヒュウーヒュルヒュッ!ヒュヒュッピィーー!ヒュゥヒュヒュピィィィィィーー!


 完璧すぎるハーモニカパートの再現に誰もが歓声を上げた。メアリーとロレインのバルチャス勝負の際、和人の耳に届いた歓声はこの時のモノである。

 そして曲を終えた時、エイミは歌鈴に抱き付いていた。


「Marvelous!!素晴らしすぎマス歌鈴サン!!下手なドラムなんかよりよっぽどいいデス!!」

「ははっ、ありがとエイミ。んで頼雅、タンバリンなんかで何て言ってたっけ?」


 そしてこのドヤ顔である!!


「うっ、うっせえ!ドラムの魅力ってのは疾走感にあるんだよ!!ラッシュを聞かねぇうちは認められるか!!」


 実は頼雅もとっくに認めていたが、ダイヤモンドなドヤ顔がウザすぎてつい反発してしまった。簡単に受け入れたらなんか負けな気になってしまったのだ。


「御唱和下さい我の名を───」


 突如遥が歌い出した。別に頼雅の言い分に賛同したわけでは無い。歌鈴のタンバリンに合わせて飛びっきり派手な曲を歌いたくなっただけだ。


 ただそれだけだ!!


「────トラマンゼエェェェェェェェット!!!!!」

 トタタトタタトタタトタタシャンッシャンッ!!トタタトタタトタタトタタシャンッシャンッ!!トトトトトトトトタタタタタタタンッ!!!


 歌鈴のタンバリンが即座に反応し正確なリズムを刻み始め、頼雅達の表情を驚愕に染めあげる。


「この特ソン初めて聞くぞ!?なんで合わせられんだよ!?テレビ見てたのか!?」

「別に?今聞いてフィーリングで合わせてるだけだよ。」

「簡単に言うなよ!?普通できねえよ!!」

「それができるのがタンバリンなのさ。日本帰ったらようつべで超絶タンバリンって検索してみ?もっと凄いの見れるから。」


 そして遥の歌声、ギター、歌鈴のタンバリンが完全に調和した。その瞬間頼雅の胸を一迅の風が吹き抜ける。


「ドラムだ……」


 誰かが呟いた。

 もしかしたら頼雅自信だったのかも知れない。

 みんなが歌鈴のタンバリンに魅了されていた。


「傷付き倒れてもかっまわないっ!強くぅぅぅぅぅっ!やっさっしくぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 曲がラス前のラッシュ入る。歌鈴の指一本一本がまるで意思を持っているかのように動き、見事なドラムラッシュ、否、タンバリンラッシュを生み出した。残念ながらこれを文字に表す事は作者程度にはできない。


「は…ははは……はははははっ!!」


 腹の底から妙な笑いが込み上げてくる。

 ボーカル兼ギター、それとタンバリン。ほんの忘年会程度の構成なのに頼雅はまるでドラフォの生ライブにいるかのような疾走感に包まれていた。


「────トラマンゼエェェェェェェェット!!!!!」


 後奏まで完璧に終えて肩で息をしながら満足気に笑う遥とがっちり握手をすると、歌鈴は再び頼雅に体を向けた。

 そしてこのドヤ顔である!!


「んで頼雅、タンバリンなんかで………」

「スンマセンでしたぁっ!!」


 今度こそ彼は素直に謝った。


 ──────────


「和人達固まっちまったけど植野(あいつ)まだ本気出してないんだよなぁ……」

「ジ◯リでまとめた以上派手な曲はやらないからな。」


 頼雅と祐二がぼやいていると、多少引き吊り気味の笑顔でメアリーが前に踏み出した。


「皆の者、期待以上の素晴らしい働きじゃ。宴はまだまだ続くゆえ今は言葉でしか労えぬが追って改めて礼をしよう。では最後までよろしく頼むぞ。」


 それだけ告げるとくるりと踵を返し、和人達を連れてさっさとバルチャスステージへ行ってしまった。


「精一杯取り繕っていますがさすがのメアリーさんも理解が追い付いて無いようですね。」

「千年の内に俺達以外の異世界人に出会うよりも植野のタンバリンはレアだってのか?」

「ともあれメアリー様が喜んでくれているなら何よりだ。」

「お前のその忠誠心何なんだよ。さあ、続き行こーぜ。」


 四人は気合いを新たにステージへ戻っていった。

 そしてステージを背にしたメアリーは和人に問いかける。


「のう和人よ、おんしの世界では皆が鐘鼓をあのレベルで操るのか?」

「そんなわけ無いでしょう、あんなの植野さんだけですよ。」


 和人は歌鈴が目標としている人物がいることなど知るわけがなかった、上には上がいるのだ。そして丁度目指すバルチャスステージで歓声が巻き起こった。


「おおおぉぉっ!?」

「なっ!なんと言う美しさだ!!」

「凄まじい臨場感だ!!剣戟の熱さがここまで伝わってくるかのようだ!!」

「それにこの躍動感!!正に騎士と魔族の戦い!!」


 それを聞いたメアリーは解りやすく口角を吊り上げる。


「むふふふふっ♪変身したか、これでアピールはばっちりじゃな。この魔力はレンデルとヴォイドか、願ったり叶ったりじゃがほんに張り合うのが好きな奴らじゃの。すまぬがちと通してくれぃ。」


 メアリーが観客をかき分けバルチャス盤の前に辿り着くと、いかにも武官タイプのがっちりとした壮年の貴族と、文官タイプの片眼鏡で長髪の壮年の貴族が額に青筋浮かべながら必死の形相で念を飛ばし合っていた。


「ほう、本来不利である筈の悪魔の札で騎士と対等に渡り合うとは……さすがヴォイドじゃな!」

「うわぁ!ハンプティだ!!メアリーさんとロレインさんでは駒札の有利不利は埋まりませんでしたもんね!!理亜の事だから悪魔の札全部違うんだろうなぁ!う~~っ!気になるなぁ!!」


 子供のようにはしゃぐ二人をカリラとクラリスが暖かく見守っていたその頃、遥は静かにフラストレーションを蓄積させていた。


 ―あぁ……特ソン歌いてーなぁ……―


 誤解しないで貰いたい。ジ◯リが悪い訳では無い。遥だってジ◯リは大好きだ。ただ特ソンの方が良いというだけである。普段から歌いまくってても特ソンが良いのだ。


 ―でもなぁ……和人の言う世界観を壊しちゃいけないってのも解るしなぁ……―


 パーティーの邪魔にならないよう紅◯豚メドレーを歌っていた時、遥に圧倒的閃きが舞い降りた。


 ―世界観壊さなきゃいけるのでは?―


 アツい特ソンは歌わない、和人にそう言った手前ずっと我慢してきたがもうフラストレーションは爆発寸前だった。

 しかし特ソンはバンドとして何一つ練習していない。宴会が盛り上がる最中、自分一人が暴走しギター弾きながら歌ったところで特ソンの熱さが伝わるだろうか?遥は常日頃自分の歌を機会に皆がもう一度特撮に興味を持ってくれる事を願いながら歌っている。例えこの世界に特撮が無くとも熱さが伝わらなければ意味が無いのだ。


 ―やっぱり無理か……―


 どうせ歌うならその熱さも伝えたい、そう思いかけた時さらに気付いてしまった。今自分にはどんな曲にであっても、お呼びとあらば即参上してくれる銀河旋風よりも頼もしいスーパータンバリンが付いているのだ。そう思った遥はいてもたっても居られなくなってしまった。


 ―みんな上手いし適当に合わせてくれるよね……て言うか、歌鈴さえいれば勝てる!!―

≪オーオーーオォオォオォオォオォーーーー!!オォオォオーオーオーオーオォォォォォーーーーー!!!≫


 心を決めた遥の背中を押すようにバルチャスステージからファンファーレが鳴り響く。

 そして遥は溜まりに溜まったフラストレーションを解放した。


「ゆぅけぇぇぇっかぁぜのごとくぅぅぅぅぅっ……」

「え!?特ソンは歌わない約束じゃ……!?」


 しかしすぐに和人は遥は約束を破っていない事を理解した。歌詞を聞くだけならこれはただの騎士物語、決して世界観は壊していないのだ。


「む!?この曲は……」


 そして聞き覚えのあるリズムにバルチャス大好き吸血鬼さんも気付く。


 トントントシャンッ!!トンタントシャンッ!!

 ―あああああっ!歌鈴最高ぉぉぉぉぉぉぉっ!!―


 遥は期待通り完璧に合わせてきてくれた歌鈴に感謝し仲間の素晴らしさを改めて認識した時、首飾りとギターピックにしている人魚(マーメイド)の鱗が不思議な輝きを放ち始め、人魚(マーメイド)の種族スキルである≪共心≫が発動した。

 このスキルはリーダーを中心に全ての仲間が心をリンクできる効果があり、これによって人魚(マーメイド)達は一糸乱れぬ動きを可能とするのである。

 そして遥の心にしかなかった譜面(スコア)が仲間と共有され、仲間達は一瞬戸惑ったが何かのスキルだと認識し、一番の中頃には完璧な調和を成していた。

 周囲の貴族達の反応も上々、気分を良くした遥がサビを歌うべく大きく息を吸い込んだ時、突如横から伸ばされた白い腕にマイクを奪われた。


「あぁっ!?」

「ゆぅけぇぇぇっかぁぜのごとくぅぅぅぅぅっ!!運命(さだめ)ぇのぉけぇぇぇんしぃぃぃよッ!!」


 マイクに少し残ってしまった遥の悲しくも情けない声に仲間達は全員吹き出してしまった。

 そして生来の魔力の高さか友好的な性格ゆえか、遥の共心の効果を受けまくったメアリーの歌声が響き渡る。その濃密な魔力のこもった歌声は一瞬にして会場を魅了した。

 それと共にサビに入り曲調が激しくなった事で、歌鈴のタンバリンが遂に本性を現した!


 トタシャンッ!トタシャンッ!トトントカカタン!トトントカカタン!カカッカトトトンシャンッ!!


 その戦慄なる旋律に、和人にはもはやタンバリンがハンドサイズのドラムセットにしか見えない!!


「ド…ドラムだ!!ドラムがいるッ!?」


 その凄まじきタンバリン捌きに当てられて会場は更なる熱狂に包まれる。

 優雅に談笑していた貴族達がヘドバンを始め、静かにバルチャスに興じていた貴族達の札が次々と変身してゆく!!

 季節は冬の入り口だというのに会場全体が焼け付くほどにアツかった!!


「あぁ……楽しいのう遥よ?さぁ!次の曲を頼むぞ!!」


 文字通り見せ場を奪われてふて腐れていた遥だったが、振り向いたメアリーの顔は今まで見てきた誰よりも楽しそうで美しくて、この笑顔の先にはどんな表情があるのかと純粋に気になった。


「さぁみんな!依頼主様のリクエストだ!!もっともぉぉぉぉぉぉぉっと盛り上げて行くよ!!」

『オォォォォォォッ!!!』


 この日の宴は過去最高の盛り上りを見せたそうだ。


 ───────────


「こんじぃきぃにぃなぁれぇぇぇぇぇぇぇっ!!ぅおぉおぉぉぉぉしきすがたのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「──!?どうしたんだロレイン!?頼むから落ち着いてくれぇぇぇぇぇぇっ!?!?」


 それは(ひとえ)に魔力の高さと仲の良さゆえである……

次回予告は時間かかるのでやめます。

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