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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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明日に向けて



「なぁ、和人。」

「うん。」


 何を言うかは解っているが、和人は親友の言葉を真摯に受け止めることにした。慎太郎は言葉を続ける。


「俺さ、産まれて初めて、表現でも脚色も無くさ。」

「うん。」


 フラフラとした足取りで、壁に手を突きながら慎太郎は続ける。


「死ぬほど腹が減った…」

「うん…はしゃぎすぎたよね…….」


 魔力切れでぶっ倒れた一同は、気絶から目覚めると、泣くでは済まされない空腹感に襲われた。最早生命の危機すら感じさせるレベルだ。

 汗臭い体を何とか流し、食堂へ向かって歩を進めている。


「大丈夫、きっと美空が美味しいもの作ってくれてるよ」

「うん、あの子の料理美味しいから楽しみだわー。」


 一人ペースを守った遥は余裕の足取りだ。

 食堂が近付くにつれ、物凄く良い香りが漂って来る。走り出したいが、笑う膝がそれを許してくれない。もどかしい思いで扉を開けた一行を、満足げな顔をした美空が迎えた

 。

「お疲れ様ー、お料理出来てますよー♪私の今日1日の成果をご覧あれー。」


 テーブルの上に置かれた料理を見て皆首を傾げた。


  火鍋


 何故?美味しそうだけど何故?今でこそ広く知られているが家庭向きでは無い料理をわざわざ何故?


「皆さん魔力切れでお疲れだと聞きましたので薬膳効果を高めてみました。さすがに日本米は無かったので包子皮(パオジピィ)で我慢して下さいね。さあ、たべましょう。」


 天才は薬膳知識もあるようだ、その気遣いが一同の考えの斜め上を行っただけらしい。

 なにか良く解らない物が胸に残る気がするが、いただきますで全員一斉に食べ始めた。


「うわ!?初めて食べたけど凄く美味しい!」

「赤と白、交互にすると無限に食える気がする!」

「佳苗!あんた今朝あったニキビ無くなってるわよ!?」

「おい!?ステータスに補正付いてるぞ!?」


 各所から色々な声が上がっている。天才の料理が五○導師もビックリの効果を上げる中、和人達は食べながら話を始めた。


「ん~、包子皮ふわふわもっちもち~♪所で美空、日本米はって言ってたけど、インディカ米ならあるってこと?」


 遥が尋ねる。


「耳聡いですね、その通りです。なので炒飯やパエリアなら作れました。あ、キクラゲ貰えますか?好物なんです。」


 肉よりキノコばかり食べている美空に、慎太郎が尋ねる。


「何で作ってくんなかったんだよ?俺この赤い汁かけて食いたかったのに。」


 たっぷりの野菜を肉で巻いて頬張る。


「私が食べたく無かったんです、私は白いごはんにこのお肉を巻いて食べたかったんです。自分が食べたいと思えない物を、人に薦める訳にはいきません。」


 美空は真顔で煮込まれた干しナツメを口に放り込んだ。


「何だろう…この正しい事言ってる様でそうじゃ無い感じ。おぉ、遥のクマが薄くなった。」


 和人が包子皮に切れ目を入れ、色々と挟みながら言った。美空が火魔法で包子皮を炙りながらとても重要な事を口走った。


「それとですね、この世界、醤油と味噌、鰹節も在るそうです。」


 それほど大きな声ではなかった。しかし、クラス全員の視線が美空に注がれた。


「半年くらい前までは、少し高級ながらも普通に流通していたそうですよ。しかし、ぱったりと途絶えた。これ何を意味するか…」


 この場にいる全員が怒りに燃えた。


「魔王軍、皆殺し(デストロイ)です。」

「「「「「ブッコロッス!(デストロイ)!!!!!」」」」」


 クラス全員がデストロイを連呼する中、数名の兵士を連れた真琴が現れた。


「おいおい、随分物騒だな。」


 デストロイコールが続く中、冷静を保っていた和人が真琴に説明していった。真琴は話を聞きながら、少し眉間にシワを寄せるも、冷静に皆を静めた。


「日本人として怒る気持ちは解る。しかし、今のお前達では何する事もできないだろう。明日から1週間、お前達にはそれぞれの武器を使った体術を覚えて貰う。各自魔法の訓練も行う様に。急がなくて良い、今は確実に戦う力を身に付けるんだ。」


 さすがに元自衛官の言葉は重みがある。

 そう、ここは異世界であり、自分達は命を賭けた戦いに身を投じるのだ。何時までも林間学校気分でいてはいけない。

 そこに真琴は言葉を続けた。


「ちなみに少し戦ってきたが、多分お前達が雑魚だと思っているゴブリンだって、単体でもケンカ慣れした中堅ヤクザくらいの強さはある。一対一ではまずお前達は勝てないぞ。それにスライムだって、森の中で突然上から落ちてくれば、一気に呼吸を止められるかもしれない。どんな相手でも決して油断はするな。」


 皆、押し黙ってしまった。ゴブリンの強さの喩えが生々しい。真琴はケンカ慣れした中堅ヤクザと戦った事があるのだろうか?

 ちょっとコンビニ行ってくる、くらいのノリで中堅ヤクザ、もといゴブリンを仕止めて来るこの先生は何なのだろう?皆色々考え、やっぱり地下闘技場が頭に浮かんだ所で考えるのを止め、食事を再開した。

 その後真琴は大勢の兵士達に囲まれる様にテーブルに付き、酒を酌み交わしながら食事を始めた。その姿は、幾つもの死線を乗り越えた仲間の様に馴染み過ぎている。

 一部の兵士は真琴の事を【マスター】と呼んでいた。本当にこの人は、たった1日で何をしたのだろうか?

 兵士達は初めて見る火鍋に戸惑うが、真琴が美味しそうに食べ始めると、堰を切る様に食べ始め、美味い美味いと涙を流す者もいた。

 美空はその様子を満足そうに眺め、クラスメイト達に視線を移す。こちらもまだまだ食べ終わりそうに無い。

 何せ食べるほどに食欲が増し、みるみると体が元気になってゆく。そこに即効性抜群な美容効果まであるから女子達も自重しない。明日から体を酷使するのだ、カロリー何て考えるだけ無駄だ。


「これだけ喜んで貰えれば、腕を振るった甲斐もあるというものですね。」


 美空はハーブレモン水で口を直すと、再び火鍋に戻った。召喚者組と兵士達の嵐の様な食事が終わると、今日の食堂の料理は泣くほど美味いと聞き付けた、普段は食堂を利用しない者達が殺到した。



 最後の料理が出てから一時間後、灰となった弟子達が横たわる中、料理長は最後の皿を洗い終えると、音を立ててその場に崩れ墜ちた………


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