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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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戦線を離脱した同級生がいつの間にか強キャラになってました。

 慎太郎と別れた美空達は、宣言通りに冒険者ギルドに向かって歩いていた。


「それで理亜、相談って何ですか?」

「うん、ガイラスのゴーレム見て、やっぱあると便利かも知れないと思ってさ。あんたに雛型作って欲しいのよ。」

「雛型?ゴーレムってその辺の物から普通に作れるんじゃないの?」


 遥はゴーレムがぽこぽこ沸いてきたあの時の事を思い浮かべる。


「出来るんだけどね。でも雛型、つまりは(コア)があるとより強力で用途のはっきりしたゴーレムが低コストで作れるのよ。」

「へー。」

「そんで雛型を使ったゴーレムは、その雛型の素材や出来具合で能力が増減するから錬金術師の出番てワケ。」


 美空にとってはそんな事は粘土細工と大差は無い。任せろとばかりに胸を叩く。


「そんな事ならお安いご用です。私も理亜にお願いしたい事がありますしね。」

「あら?今度はどんな面白アイディアかしら?」


 バイオ◯ードは美空と理亜の合作である。理亜は美空が新たな面白アイテムを作ろうとしているのだと直感した。


「ズバリ合体魔法を容易にする道具です!頼雅君見て思ったんですよね、やっぱりアツいじゃないですか!!」


 美空は拳を握り締めながらあのアニメさながらに、頼雅が掲げたドリルが巨大化していった様を思い出していた。

 そしてそれを聞いていた遥は、美空が作ろうとしているのは合体武器だと勘付いた。戦隊モノの格闘パートのトドメに使われるアレである。この凝り性の友人がいったい()()を作ろうとしているのか、遥は今から楽しみでならない。

 三者三様、美空と理亜はこれから自分が作ろうとしている物を事細かくイメージし、遥は様々な戦隊の合体武器を思い浮かべ、合体ならそこに自分も加われるかも知れないと、鼻の穴を膨らませながらだらしない顔で歩いていると、何やら冒険者ギルドの前に人集りが出来ていた。

 悔しそうな面持ちのギルマスがギルドホームの入口を睨み付けている。


「ギルマス、どうしましたか?」

「おお、お前達帰ったか。モーガン海賊団の残党が人質取って立て籠ってんだよ。」


 言葉の通りギルドの入口には、受付嬢の首にナイフを当て、羽交い締めにしたガラの悪い男がそれだけでは飽き足らず、嫌らしい顔で受付嬢の体をまさぐりながら喚き散らしていた。

 それを見た三人は、ゴキブリやゲジゲジに向けるよりもあからさまな嫌悪感を男にぶつける。


「ギルマス、差し支え無ければ私に交渉役をやらせて頂けませんか?」

「構わないが……お前交渉なんか出来るのか?」

「お任せ下さい。私の敬愛するブル◯ス・◯ィリス流の交渉術をお見せしましょう。では、交渉人が行く事を伝えてください。」


 そんな二人の会話を聞きながら、遥と理亜は美空と共に見た映画【ホス◯ージ】を思い出していた。


「まあ、あれなら大丈夫か。」


 ギルマスの声に続き無造作に前に出ていく美空の背中を見送る。


「てめえが交渉人か!!まずは……」


 バァンッ!!


 美空は何か言いかけた男の股間を容赦無く撃ち抜いた。男は白目を剥いてナイフを落とし、股間を押さえて倒れ込む。


「他に交渉したいヤツはいるか?」


 少しふざけた様な口調で言った美空だが、その目は全く笑っていない。残りの男達はすっかり気圧されてばらばらと武器を投げ捨てた。


「フィフス◯レメントの方だったわね……」

「眉間ブチ抜いてないだけマシか……」


 顔を青くして少し内股気味になったギルマスに、笑顔の美空が歩み寄って行くのを二人は遠い目で見ていた。


 残党を縛り上げ牢獄(ゴミバコ)にブチ込んだ後、美空は旅の間に溜め込んだ素材を買い取りに出す。


「相変わらず出鱈目な量だな……」


 ギルマスと買い取り窓口の職員は、山の様に積まれた魔物や素材を半ば呆れながら品定めをしていく。


「うん?おい美空。ポオークとアイアンクロウの骨はどうした?」

「ああ、あれは私達には食材枠なので。」

「はぁ!?あんな固い素材をどうやって食うんだ!?」


 魔物の骨は鎧や武器になる、そんなものを食材とするなど、美空の食い意地を知っているギルマスでも信じられ無かった。


「いえ、違いますよ?スープをとるんです。明日は予定がありますし、明後日は仕込みになりますから、三日後には新作料理を御披露目しますので、時間が空いたら王城の食堂に来てください。そろそろ中毒者も出るはずなので。」

「おい……料理だよな?何だよ中毒者って……」


 ギルマスは言葉尻に出てきた物騒な単語にたじろいだが、美空が異世界の調理器具と技術を持ち込み、魔物食と料理を広めたからこそ王都の食事事情は飛躍的に向上した事を知っていたし、美空の作る料理の美味さも知っている。

 持ち込まれた物の査定をしながらも、ギルマスの心は文字通り明後日の方向を向いていた。そこには間違いなく美味い物が待っている筈だから。


「さあ、次は公太郎さんを迎えに行きましょう。」


 ギルドを出た美空は貧民街を目指し始めた。

 遥は美空がどこを目指しているのか解らないままにその後を追う。


「そういえば旅の間の世話どうしたのかと思ってたけど、誰かに預けてたんだ。」

「ええ、佳苗さんが国の支援を受けて、貧民街だった場所に牧場を新設したんです。公太郎さんはそこで預かって貰ってるんですよ。」


 豊島佳苗、魔物使い(モンスターテイマー)というレア職であったが、生物部の彼女は当然動物全般が大好きなので魔物を殺すことが出来ず、グレイハウンドとスリープシープをテイムしたところで戦いから身を引いた。

 それと時を同じくして美空が魔物食の有効性を提唱し、シーロブルト王政はそれを推奨した。

 そこで真琴は魔獣の研究機関として牧場の設立を提案し、それは受理された。

 人身売買組織のあった貧民街が整地され牧場となり、これを期にそこに住んでいた貧困層の者達の問題も見直され、真琴の知識の中から新たに国営住宅、つまりは3、4人の家族がそれなりに住めるくらいの団地や、その仕事の斡旋先として国営農場等も作られシーロブルトの治安は一気に安定に向かった。

 牧場もその国営施設の1つであり、真琴はその管理者として佳苗を推薦したのだ。

 そしてそれは佳苗にとって天職だったらしく、現在彼女は毎日楽しそうに働いている。

 牧場にはグレイハウンドとスリープシープ、そして食肉には向かないが乗馬として期待されているファングステイヤーという魔獣が五組のつがいで飼育されていた。

 ファングステイヤーは肉食の馬型魔獣で、凄まじい剛脚と無尽蔵のスタミナがあり、一度狙われればまず人間では逃げることは叶わないという中々に厄介なモンスターだ。

 それはさておき、美空は慎太郎達とロレインの家へ遊びに行った帰りに、ヌートラットを数匹捕まえて佳苗に渡していた。だからこそ自分がいなくても友達がいれば寂しく無いだろうと、佳苗に公太郎さんを預けていたのだが……


「ん?んんん~~~~~?????」


 デカい


 明らかに二週間前よりも敷地がデカくなっている。

 美空の記憶では放牧地の面積は地方の市民球場くらいだと思っていたのが、今三人の目の前にはパッと見では例えられない程の広大な放牧地が広がっている。それこそ元貧民街全てが放牧地になったかのようだ。

 内容までは聞き取れないが、遠くからやたらと元気の良い佳苗の声が響き近付いてくる。

 三人が柵の前で呆然としていると、ファングステイヤーに跨がった佳苗が凄まじい土煙を上げながら激走してくるのが見えた。


「もっとぉ~~……まだまだ行けるぞぉぉぉ~~!!こんなんじゃまた私たちの勝ちだぞぉぉぉッ!!!限界とは超えるためにあるんだッ!!!!!あなた達はまだまだ走れるっ!!!!今目の前にあるのは限界じゃない、壁だ!!!壁があるなら殴って壊せ!!道が無いならその手で作れぇぇぇぇ~~~ッ!!!!!!」

「「「暑苦しいっ!!!!!」」」


 あのアニメのような事を叫びながら、モンゴル騎馬民族のようにファングステイヤーを引き連れて放牧地を爆走する佳苗。その表情は作画本宮◯ろ志。

 それを目にしただけで夕暮れ時だというのに三人は汗を滲ませた。


「あ、みんなお帰りなさい。」


 サラ◯ーマン金◯郎がきっちり中分け三つ編みお下げの少女に戻る。そばかすのあるその顔は都会育ちを感じさせず、どこか純朴な田舎娘に見えるのだが、ひらりとファングステイヤーの背中から降りた同級生の少女は、なぜか真琴と同じような印象を受けた。

 あまりの佳苗の変貌ぶりに三人は顔を引き吊らせている。


「あ、うん、ただいまです。それで佳苗さん何してるんですか?」

「何って、ファングステイヤーの訓練だよ?」


 佳苗が今乗っていたファングステイヤーの首を撫でると、ファングステイヤーはブルブルと嬉しそうな鼻息を漏らした。


「最初の10頭がいい感じに仕上がったら軍馬として徴収されてね、まあこの子だけは残して貰ったんだけど。追加で30頭頼まれてさ。」


 追い付いたファングステイヤー達が佳苗の周りに集まり、俺も俺もと頭を差し出している。


「何か敷地デカくなってませんか?」

「うん、それに合わせて拡張して貰ったんだ。おかげで今は色んな子が集まってるよ♪」


 ふと気が付くと佳苗の足下にぼんやりとした何かがまとわり付いていた。この至近距離でもはっきりと視認出来ない事から、それの隠密スキルの高さが窺える。気付いた佳苗が抱き抱えた事で愛らしいダマワラビーが姿を現した。


「あ、見てこの子~♪おとといテイムしたクロハバキのヒエン。可愛いでしょぉ~~♪♪♪」

「え?」


 クロハバキはサーク手前で出現したシノビワラビーの上位種である。その平均レベルは60前後。それに対して美空達の平均レベルは30前後。


「あの……佳苗さん?ちょっと鑑定してもいいですか?」

「ん?いいよ?」


 ────────


 ―豊島佳苗―


 魔物使い(モンスターテイマー)LV75


 筋力:1533

 体力:1387

 敏捷:1153

 知力:842

 魔力:1077

 運:1884


 スキル:使役(テイム) 意志疎通 調教


 アビリティ:鞭術(C) 短刀術(C) 土魔法(B) 風魔法(B) 支援魔法(C)


 使役(テイム):魔物を屈服させることでその魔物を使役することが出来る。


 調教:使役した魔物を調教することで友好度を高め、レベルに関係無くある程度ステータスを上げる事が出来る。


 ───────


「え?何でこんなにレベル上がってるんですか?」


 戦闘をしていない筈の佳苗のレベルがあり得ない程上がっていたので、美空は思わす目をこすって結果を見直した。


「ああ、鑑定ではユニークスキルは見えないんだっけ?私のユニークスキルに愛の極みってのがあってね、攻撃と防御を捨てて0にすると説得でテイムが出来るのよ。それでテイムが成功すると経験値が3倍なんだ。」

「………今からでも前線に復帰しませんか?」

「え?嫌だよ。戦うの怖いし殴ったりしたくないし。」

「ですよねぇ………」


 在野に埋もれさせておくには勿体無いが、これが彼女の天職であり国からも期待をされているので、美空は無理に説得しようとはしなかった。


「ところでそのクロハバキもそうだけど、この辺にいない魔獣も随分といるわよね?どうやってテイムしてるの?」


 理亜は薄暗くなってきた放牧地を目を凝らしながら眺めて言った。


「冒険者ギルドに捕獲依頼出してるのよ。そんで生け捕りにされてここに来た魔獣をソロでテイムしてるうちにこんなレベルになっちゃってね。」


 三人がそんなやり取りをしてる間、遥はゴレムライノスという魔獣に夢中だった。

 その名の通り、石っぽくてゴツゴツしたサイの魔獣であり、そのビジュアルは戦隊ロボの腕になりそうな雰囲気をぷんぷんと醸し出している。

 そんな遥を見て、理亜が何かを含んだようにニヤリとした笑みを浮かべていた。

 その間にも美空と佳苗の話は続く。


「でも順風満帆って訳でもないのよ。教会からは穢れた魔獣を王都に入れるべきではないとか言われるし、商業ギルドは広大な土地をもっと他の事に使うべきだとかしゃしゃり出て来るし……」

「例え国のプロジェクトでも、文句言ってくるヤツがいるのはどこでも変わらないんですねぇ……」

「ちょっと美空、さっさとしないと風呂入る時間無くなるわよ?」


 話が長くなりそうに感じた理亜が気を揉み始め、早く用件を済ますよう急かした。


「そうね、公太郎さんを迎えに来たのよね?そこの厩舎にいるから行ってあげて。ずっと会いたがってたから。」

「はい、ありがとうございます。」


 そう言って美空はぱたぱたと厩舎に走って行った。それを見届けた理亜は今度は遥に声をかける。


「遥、どんなに期待してもそれ一応生物だから。変形も合体もしないわよ?」

「ええぇ~~……」

「この世界に来てだいぶ経つのに、本当にブレないのね……」


 悲しそうに眉を下げながらゴレムライノスの首を撫で続ける遥に佳苗は苦笑いを向ける。


「オタクってのは性格でも度を超えた趣味でもないわ。愛そのものよ。あなただって本当に好きな相手なら簡単に忘れられないでしょう?例えば脱オタする事をあの人の事は諦めましたに重ねるとしても、その心の底にはいつまでも燻ってる物なのよ。」


 そう語った理亜に佳苗は心底驚いて目を見開いた。


「え!?理亜にもそんな人いるの!?」

「ワリィ!おらんかったワ~~~☆☆☆」


 理亜がてへぺろしながら額をペシンと叩いたその時、


「嫌あぁぁぁァァァァァ!?!?!?」


 厩舎から絹を裂くような悲鳴が響き渡り、涙をくしくしと拭いながら公太郎さんを抱き抱えた美空が出てきた。


「公太郎さんが…公太郎さんが……」

「「え………???」」


 泣きじゃくりながら美空が差し出した公太郎さんを見て遥と理亜は目を疑った。


「公太郎さんがガチムチになっちゃいましたぁぁぁぁぁぁ………」

「もきゅっ!!!」


 差し出された公太郎さんからはあの魅惑のお腹が消え去っており、すっかりスマートになったその体にはむしろ筋肉が浮いていた。鳴き声も以前のユルさは無くどこか漢らしい。


「えっと……だいぶメタボだったから少し運動させたんだけど……まずかった?」

「当たり前ですっ!!!」

「もきゅっ!!!」


 ばつが悪そうに頬を掻く佳苗を美空は公太郎さんをぎゅうっと強く抱き締めながら怒鳴りつける。そして公太郎さんはその美空の全力ハグを余裕で耐えきった。


「愛玩動物をなんでマッシヴにするんですか!!甘やかして!愛でて!愛を与え合いながら癒される存在なんです!!こんなガチムチじゃ癒されませんよ!!」

「あぁ!?あんたペットをなんだと思ってんの!?家族よ家族!!家族ならもっと健康に気遣いなさいよ!!どんな姿でも愛してあげなさいよ!!自分の都合で命を弄ぶんじゃねえ!!!」

「んだとてめぇ!!少しは悪びれやがれ!!私のムニムニを返しやがれぇぇぇぇっ!!!」

「やんのかゴラァ!?てめぇにペットを飼う資格はねえ!!公太郎さんは私が育てる!!よこしやがれやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 額をぶつけ合って罵り合う天才と最強。


「「はぁ………」」

「荒事嫌いなんじゃなかったの……」

「ほっといて帰りましょ、私風呂はいりてーわ。」


 遥と理亜は大きく溜め息をつくと。牛の喧嘩のように額をぶつけ合う2人に背を向けた。

≪次回予告≫


~♪(好きな特撮の次回予告テーマを脳内再生しよう)


B級映画オタクとオカルトオタク、二人の紙一重の天才が己の欲を満たすため、そして特撮オタクの友人を喜ばせるために新たな面白アイテムの製作に取りかかる。

そんな中、理亜は完成を目の前にしながら忘れ去っていたアイテムの存在を思い出した。


「せっかくこんな面白い世界来たのに私まだまだ死にたくねーわ。」


この機会に2人は、今後激化していくであろう戦いに備え、戦闘を補助するアイテムを製作することにした。


次回【2人の魔道具工房(おもちゃ箱)】


「理亜ッ!?裏切るんですかッ!?」

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