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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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真琴の報告と事実の食い違い

 ノスタルジーに浸っていた真琴だが、当時の記憶につい最近耳にしたイメージが重なった。


「そのイオという人物は漆黒の鎧に炎のような紅蓮のマントを纏った人物か?」

「あれ?先生知ってたんですか?」

「ああ、思い出した。そのイオという人物は王女殿下を救出した人物で間違い無さそうだ。王女殿下の供述と一致している。」


 真琴は背もたれから身を起こし、テーブルに両肘をついて指を組むと顎をのせた。


「駿河は知っているだろうが、クラリス殿下は修道院から戻ったその日、護衛を撒いて市中を見物をしていたのだが……」

「俺達のイメージするクラリスとは随分違いますね。てか和人、何でお前知ってんだよ?」

「慎太郎がロレインさんとちゅーした日にたまたま道案内頼まれたんだ。安心しなよ、見た目はばっちりクラリスだから。」

「おまっ!?他に言い方あるだろ!?」


 そんな二人の会話を聞いていた新兵が剣の柄に手をかけたが、同席していたネルソンが苦笑いでそれを諌めていた。おそらく王族侮辱罪辺りに捉えられたのだろう。

 少し顔を赤くした慎太郎に、真琴から恐ろしいまでの圧力が放たれる。


「幾島……それ以上の事はしてないだろうな?男として責任の取れない真似はするなよ?」

「はははははい……彼女とはしっかりと誠実なお付き合いをしたいと心から思っています………」


 その圧力は全て慎太郎に向けて放たれた物だったが、その場にいた男達は皆、お袋さんが三分の一まで縮みあがった。

 先程の新兵が白目を剥いて泡を吹いている。


「ならば良し。改めて言うが生活能力と責任能力の無い者が子供を作るなどはサルにも劣る。いや、サルにすら失礼な行為だ。私の生徒にそんな者が現れたら、誰が何と言おうと二重の意味で潰す。覚えておけ。」


 二重の意味の一つは人としてか精神的にだろう、もう一つは考えたくない。

 今度はネルソンが泡を吹いて倒れた。


「話を戻そう、その時偶然私が追跡していた賞金首、切り裂き魔 通りすがりのナイフガイに人質にされ拐われてな。」

「ダサッ!?何ですかその微妙に爽やかに感じなくもない名前?」

「だよね……」


 慎太郎は話の腰を折る事になってもそう言わずにはいられなかった。そして和人も、何度聞いてもダサいその名前にため息をもらす。


「そして駿河と共に王女殿下を追跡したのだが、ナイフガイの兄貴分、爆弾魔 燃える男のマイトガイに阻まれ私はマイトガイを追い、駿河はナイフガイを追った。」

「ダサッ!?何ですかその骨の髄までシボレーみたいな名前?」

「だよね……」

「私が知るか。だから何でお前達はそう歳にそぐわない事を知っている?」


 自分ですら記憶の端にかする程度の事を、ほぼ一回りも若い二人が知っていたことが真琴は不思議でならない。


「まあいい。それで私は捕らえたマイトガイを手を尽くして情報を吐かせ……」

「考えたくねえ……」

「だよね……」


 対人1対1ではあのペンギンと同レベルになるこの担任がどんな手を尽くしたのか?たとえ真琴が人格者であることを知っていても、犯罪者に対するのなら二人の想像など超える所業になるかもしれない。


「そして応援を取り付け、根城に突入した時には既に壊滅していたわけだ。この時駿河とは入れ違いになったらしいのだが。王女殿下の供述では、突如現れた仮面の黒騎士が、まるで力など入れていないかのように次々と敵を倒し、この組織の頭目である誘拐魔 暁に吠えるウルフガイは、炎を身に纏った蹴りにより爆発したと聞いている。」

「「頭目だけちょっとカッコいい!?」」


 実際カッコいいかと言われると微妙なところだが、前の二人が酷過ぎるので二人にはカッコよく聞こえただけだ。


「そして救出された王女殿下は、イオと名乗った黒騎士に抱き抱えられ、およそ人とは思えない程の跳躍力で家屋の屋根を跳び伝い、直接城に送り届けられたらしい。」

「あー、確かに。イオさん50mは跳んでましたね。」


 慎太郎はイオが必殺技を放った時の姿を思い出す。


「凄かったなあれ……」

「それ程か……この世界で鍛え直せば私もその高みに到達出来るだろうか……」

「「やめてください……」」


 真琴なら本当にそうなってしまいそうだし、そうなると今まで以上に慎太郎の勇者としての立つ瀬がない。


「ともあれ、いつか私もその御仁に会ってみたいものだな。では私の方の報告に移ろう。」

「「お願いします。」」


 遠征前の軍議では真琴達は北の鉱山集落に行き、堀抜いてしまった地下遺跡から溢れだした太古の防衛ゴーレムを掃討することがメインターゲットの筈だった。


「先ず行軍と通常戦闘に関しては何も問題ない。各小隊の戦闘レポートだ、あとで目を通しておくといい。」

「あ、忘れてました。これこっちのレポートです。」


 二人はリングとじ式のメモ帳を交換した。もちろん美空が作った物であり、その便利さからあっという間にシーロブルトに普及した物だ。

 真琴はパラパラとメモ帳をめくり、びっしりと内容が書き込まれていることだけを確認すると、嬉しそうにポーチにしまった。


「うむ、あとでゆっくりと見させて貰おう。報告に戻ろうか。とは言っても、特に目立った事は起こらなかったのだがな。あるとすれば、鉱山の集落 アードベッグでレッドキャップの討伐を受けたくらいだ。」

「レッドキャップ……確か赤い帽子をかぶった極めて攻撃性の高い小人でしたよね?」


 和人は理亜とUMAについて激論を繰り広げた時に聞いたレッドキャップの話を思い出していた。

 しかし真琴は和人の思っていた通りの反応に、いたずらっぽい笑みを浮かべながらそれを否定する。


「残念だが駿河、この世界のレッドキャップは隻眼の巨大な熊だ。」

「それ赤帽子(レッドキャップ)じゃなくて赤兜(レッドヘルム)ですよね!?」


 期待通りの和人の反応を見て、真琴は腹と口元を押さえてうずくまっていた。


「だ……だから何故お前はそう歳にそぐわない事を知っているんだ……ぷふっ……」


 和人の知識は同年代にそぐわなかったが、和人の突っ込みは真琴の期待にそえたらしい。


「ああ、確かに大きさ以外は赤カブトそのものだったよ。とはいえ、ただでかいだけの魔物ですらない熊だ。皆の経験を積ませるために役に立って貰ったよ。いざと成ればあの程度の熊ならば私は素手で倒した事があるしな。」

「「え゛!?」」


 さらりととんでもない事が真琴の口から飛び出てきた。


「ちなみにその熊どれ程の大きさでしたか?」

「5m程だったか、本物の赤カブトは10mを超えるらしいから大分小さいだろう。」

「5mって突然変異レベルですよ!?どこでそんなのと闘ったんですか!?」

「無論北海道だが?熊だって頑張って長く生きれば少し大きめくらいにはなるさ。」


 まるでよくある話だとでも言うように、真琴はカラカラと笑い飛ばした。


「5mの熊なんてちょっとした小屋と大差ないよ……」

「信じたくねえよ、そんな熊が日本にいたことも、それを素手で倒す先生も。でも本当なんだろうな……」


 真琴は言葉を濁す事はあっても嘘を言う人ではない。その言葉を濁す事も生徒の為を思った時だけである。二人は真琴の言葉を信じるしかなかった。


「そしてまあ遺跡のゴーレムも問題なく掃討し、鉱山の採掘は再開され、私達は昨日帰還したわけだ。掘り出された遺跡には今朝調査団が向かった、私からはこんな物だな。」


 真琴は話を結び立ち上がった。


「明日から暫くは自由とする。体を休めても良し、恋人に会うのも良しだ。節度を持って行動するように。」

「「え?」」

「ん?どうした、不満か?」


 間の抜けた顔で声を揃えた二人に真琴は不思議そうな顔を向けた。


「いえ、第二のみんな訓練してるじゃないですか。てっきり俺達もそうなのかと思っていたんで。」


 慎太郎の言うように、待機室の外では真琴と行動を共にしていた第二中隊が全員熱心に訓練をしていた。

 真琴は窓の外を見て誇らしげな表情を浮かべる。


「ああ、当然第二の皆にも同様に言ったのだがな、今朝から皆ああして自主練に励んでいるんだ。やる気を出してくれるのは担任としてとても嬉しい事だ。もちろんお前達も時間を自主練に当ててもいいんだぞ?」

「「はぁ……」」


 真琴の声も上の空に、二人は真剣な面持ちで模擬戦をしている信治達をぽかんとした顔で見つめる。


「とは言え今日はしっかりと体を休めるように。ではまたな。」


 そう言うと真琴は練兵場に出た。


「お前達!今日はそのくらいにしておけ!過度な訓練は体を壊すぞ!!」

『はいっ!!』


 真琴の指示でみんなが訓練用の鎧を脱ぎ出したところで、慎太郎と和人も待機室を出て信治と大輝に近寄って行った。


「よっ、お疲れ。」

「おお、お前ら帰ってたのか。」


 慎太郎の言葉に気付いた二人は汗を拭いながら振り返る。


「そっちは順調だったみたいだな。先生に聞いたぜ?何の危なげも無かったって。」

「いや……そんな事ねえよ……」


 信治と大輝は表情を曇らせた。


「まず飯だよな。そりゃ最初にポオークやアイアンクロウ食った時は感動したけどよ。毎日堅パンと塩味の肉って……さすがに飽きるわ……」

「あと茹でた野草な、うんざりするよな?」


 そう、これが普通の冒険者の旅路なのだ。同意を求められた慎太郎と和人は、心苦しくなり全て吐いてしまった。


「すまん……美空の空間魔法と、美空と野口が料理上手だったおかげで飯には全く困らなかった……」

「「んだとてめえ!!」」


 思った通り、信治と大輝が同時に怒声をあげた。


「美空の飯は旨かったか?旨かったよな畜生!!」


 物凄い剣幕で慎太郎に詰め寄る信治。

 そこで和人が前々から気になっていた事を信治に問う。


「ねえ信治君、いったい美空のどこが……」

「顔!!」

「「「うわぁ………」」」


 和人が言い切らないうちに言い切った信治に、大輝も含め三人はドン引きだった。

 信治は顔さえ良ければ美空の全てを許容するのだ。

 たとえ不気味な仮面を被りチェーンソーを振り回しても、笑いながらナパームを撃っても、海賊の顔面にタイキックをかましてもだ。

ある意味とても懐が深い。


「まあいいわ、問題はその後だ。」

「ああ……隊長躊躇無くオーク食ったよ……当然俺達も食わされた……」

「「マジで……?」」


 確かに美空は食用可能と言っていた。しかし、慎太郎達はそのビジュアルからどうしても食おうとは思えなかった。


「ちなみに味は?」

「わりと旨かった……だがもう食いたくねえ……」


 遠い目をする二人に慎太郎は同情をせざるを得ない。いくら旨くてもゴツいおっさんなんか食いたくない。


「それとお前らも会ったろ?ポオーク。」

「ポオーク?」

「慎太郎、豚野郎の事だよ。」

「ああ。」


 あまりにも豚野郎で定着していた為、慎太郎はその名を忘れていた。


「あれを一刀両断だ。」

「ああ……なんであれをコマンドナイフで一刀両断できんだよ……」


 豚野郎の胴体の厚さは80センチ程だ。それに対し真琴のナイフは刃渡り30センチ程である。もう物理的におかしい。


「でもよ!!俺が一番納得できねえのはそこじゃねえんだ!!」


 訳が解らずアホな顔になっている慎太郎と和人に対し、大輝が更に声を荒げる。


「あの人二重の極み使ったんだよ!!信じられるか!?」

「ああ……俺達の目の前でアイアンゴーレムが砂になったんだ……」

「あい!?」

「あん!?」


 いくら数に押されたとはいえ、慎太郎達は泥人形(マッドゴーレム)石人形(ストーンゴーレム)に手こずったのだ。その上位である鉄人形(アイアンゴーレム)を素手で粉砕するなど二人には想像も………出来てしまった。真琴ならそれも出来るかと納得してしまった。


「そんで隊長はよ、私などまだまだだ。両手でしか出来ないからな。私の師匠は両手両足はもちろん、肘、膝、頭突きでもこの技を使えたからな。とか言うんだよ。師匠幕末から時空超えて来たのかよ!?」

「まあ俺達も異世界なんかにいるんだし、無くもない話なんだよな……」


 真琴の言う何の問題も無くはあくまでも真琴の基準であり、信治達にはかなりのショッキングな出来事だったらしい。

 しかしこれで慎太郎はやっと納得がいった。


「つまりお前らは改めて先生との力の差を見せつけられて、もっと強くなろうと自由にも関わらず訓練してる訳か?」

「少し違うな、確かに今までの俺達ならそんなネガティブな考えで訓練してただろうな。」


 そう言った信治と大輝の目には暗さなど微塵も感じられ無い。むしろ希望に満ちている。


「目の前にそんな技が使える人がいんだぜ!?それって頑張れば俺達も使えるかもしれないって事だろ!?」

「この世界にはスキルや能力補正がある!!地球じゃ出来なくても、ここなら出来るかも知れないんだよ!!」

「「あぁ~~、そう言う事か。」」


 確かに剣術家ならそんな石川五ェ門みたいな剣術をマスターしたいだろうし、格闘家なら二重の極みは使ってみたいだろう。

 要はみんな子供なのだ。冬場の風呂上がりに体から上る湯気を見て、【界◯拳】とか言っちゃう年頃なのだ。


「そんなことよりお風呂行かない?二人とも汗流さないと風邪引くよ?」

「ああ、そうだな。お前らの話は風呂でゆっくり聞かせて貰うか。」


 そして風呂の中で慎太郎から語られたイオの話は、強くなりたい少年達の心をより熱くさせるのであった。

書き溜め分が尽きてしまいました。

今後は出来上がったら更新になります。

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