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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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帰還と報告

「お~い、みんなぁ~……」


 イオと入れ替わるように、後ろからずぶ濡れの和人が声を張り上げながら走ってきた。


「和人!?無事……」


 そう言いかけた慎太郎は、いまだぽわぽわ乙女モードでイオが走り去った方を眺め続ける遥を思い出す。

 男達は示し会わせた訳でもなく走り出し、遥を隠すように和人を取り囲むと手荒く無事を喜んだ。


「まったく、心配させやがって!!」

「きっと無事だって信じてたぞ!!」

「ちょ!?みんな痛いよ!?」


 その間に女子達は必死に遥の正気を取り戻そうと頑張っていた。

 これぞこの旅で培われたチームワーク、特撮ヒーロー達との約束を守り心優しく真っ直ぐ育った和人は、オタクであってもみんなに慕われていた。


 ─────


「うええ~……本当に心配したよぉ~……」

「もういいって、こうして何とも無かったんだから。」


 和人の遥への思いはバレバレだし、遥のイオへの思いもバレバレだ。全員が二人に何とも言えない視線を向けている。


「あ……ごめん……お腹冷えたみたい……ちょっとみんな待っててくれる?」

「ああ、すみません。私達も気が利きませんでしたね。」


 美空に差し出された着替えと紙を受け取りながら、和人はじっとりとエイミを見た。


「みんな、エイミを押さえててくれないかな?」

「私の信用が大暴落デス!?」


 頭を抱え涙を浮かべるエイミが全員に取り囲まれるのを確認した和人は、近くの岩影に向かった。

 そしてそこで待っていた和人と合流する。


「ありがとう、また頼むね?」

「仰せのままに……」


 炎の尖兵(ムスッペル)は炎となって虚空に身を溶かした。


 ―やっぱりダミーだけだと使い辛いな。ねえスルト、隠密スキルくれない?―

 ―お前の思う英雄とは…何の努力もせず…簡単に人の力で……―

 ―はいはい、本当に正論ばかり言う魔王だよもう……―


 和人とスルトはそんな会話をしながら、今度こそ慎太郎達と合流した。


 ─────


 苦しくもザイラス達が一帯の魔物を喰い尽くしてくれたおかげで、慎太郎達は何の危なげも面白さもなく快調に歩を進め、予定よりも大分早くクレイグキャニオン降り口近くに到着し、そこで夜営となった。

 賑やかな食事の時間を終え、みんなが寝静まった後、遥はぼんやりとした顔で火の番をしながら、今日の事を思い出していた。


「ボンソワール、マドモアゼル。そんなに浮かない顔をして、何事かお悩みかな?」

「……どこの賢者よ。」


 苦笑いを浮かべる遥の隣に美空は腰を下ろした。


「見張りはいいの?」

「大丈夫ですよ、谷を背にしてますし、魔物はザイラス達が喰い尽くしていますからね。それよりどうしたんです?本当に浮かない顔をしてますよ?」


 ふんわりと優しく微笑む美空の顔が、炎の明かりにゆらゆらと照らされる。


「うん……大したこと無い……のかな?今日のイオさんさ、物凄く強かったんだよね。見た?殴ったゴーレムが消滅して、その余波でスケルトンやゴーレムが崩れたんだよ?」


 何もない虚空に拳を突き出しながら、遥は興奮気味に言った。

 嬉しそうに話す遥を、美空は優しい微笑み浮かべたまま見つめる。


「すみません、その時まだ寝てました。私が起きてからのイオさんはボスバトルなので見てないんです。」

「あ、そう……」


 肩透かしを食らった遥は、ファイティングポーズのまま目を点にしていた。


「でもそれの何が気になるんですか?憧れの人との再会を果たし、やっとその名前を知ることも出来たのに、何でそんな顔をしてるんです?」

「強過ぎたんだよ……」


 遥は抱えた膝に顎をのせ、再びぼんやりと

 炎を見つめた。


「今日の戦い見て解った、私をゴブリンロードから助けてくれた時は物凄い手加減してたんだよ。イオさんがその気になればゴブリンの40匹くらいなら、本当に一分もかけずに倒せた筈なのに、何で一匹ずつ、最低限の力で倒してたのかなって……」

「はぁ?そんなことですか!?」


 あまりのくだらなさにすっとんきょうな大声を上げた美空を遥がギッと睨み付ける。


「何よ……私は本気で……」

「遥を思いやったからに決まってるでしょう?」

「へ……?」


 遥が長々考え込んでいたことを美空は軽く聞いただけで答えを出した。


「遥はその時完全に絶望し、憔悴しきっていたんでしょう?心が死にかけていた遥に、血や内蔵を見せないよう思いやったからに決まってるじゃないですか。」


 美空の言葉がストンと胸に落ちた遥は、今度はイオの優しさを感じてニヤニヤし始めた。


「そっか……そうだよね。やっぱり凄く優しい人なんだぁ~~。」


 薪を足しながら緩んでゆく遥の表情とは対称的に、美空の顔からは表情が抜け落ちてゆき、膝を抱えてぼんやりと炎を見つめた。


「結局何やっても結果は変わらなかったかぁ……」


 それは美空自身気付かない程に心から漏れ出た声だった。


「何それ、どーいう意味?」

「え?あ、深い意味はありません。気にしないで下さい。」


 美空は少し慌てた様子で遥のジト目を無理矢理受け流した。


「まあ別にいいけど……そういえばあんたイオさんを鑑定しなかったの?」

「しましたよ。でも見えませんでした。」


 美空は不貞腐れた顔で焚き火を棒で掻き回す。特に行動に意味はないが、取り敢えず何かしたかったらしい。


「強力なジャミングがかかったみたいに見えなかったんですよ。ムカつきます。いつか絶対みてやります。」

「ま、あんたを止める気は無いけどね。でもヒーローは謎の方がカッコいいよ。」

「そうかもしれませんね……」


 二人は顔を見合わせてクスクスと笑いあった。

 美空は立てた両膝に手を置きながら、背を反らせるように空を見上げた。

 地球と違い澄みきった空気は夜空の星をはっきりと輝かせている。


「しかし本当に特撮みたいな方……と言うか、仮面○イダーみたいな方でしたね……」

「平成初期ってところね。」

「仮面○イダーイオ?」

「あ……しっくりくる……」

「まあ乗ってるのはバイクじゃなくて馬ですけどね。」


 確信めいた表情で固まっている遥に、美空は更に言葉を続ける。


「でもウル○ラマンイオも捨てがたいですよ?」

「ああ~~……でも巨大化はして欲しくないなぁ~~……」

「あの馬は名前なんですかね?」

「テンペストとか?」

「サイクロンの流れですか?う~~ん……しっくりきませんね。」

「じゃああんたなら何て名付ける?」

「そうですねぇ~、私なら………」


 炎の明かりの中、楽しそうに話す2人を微笑ましく見ていた和人は、


「クウガだよ……」


 と、誰にも聞こえることの無い声でぽそりと呟くと見張りに戻った。

【クウガ】それが和人が騎馬に付けた名前であり、その出所は言うまでも無い。

 騎馬(キバ)なのにクウガ、和人の誰にも言うことの出来ない独り善がりのネタである。


 ―はぃ~~っ!アルトじゃあっ!ないとぉ~~っ!!―


 和人が心の中で叫びながら暗闇に向かって指を突き出した。そんなことには気付く事無く、遥と美空の話が静かな盛り上がりを見せながら、平和な夜は過ぎて行った。



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



「あぁぁ~ッ!帰ってきたぜぇ~~ッ!!」


 ポツポツと魔石燈が灯り始めた王都の町並みに向かい、頼雅は両拳を天に掲げて叫んでいた。


「でも不思議よね、日本どころか半年も暮らしてない町なのに、帰ってきたって感じになるんだから。」


 ゆかりも嬉しそうに顔を綻ばせながら喧騒で溢れ返る町を見渡した。


「慎太郎君、私は冒険者ギルドに報告がてら、魔物の素材を卸して来ますね。」

「ああ、どうせやらなきゃいけない事だし頼むよ。」

「では遥、付き合ってくれますか?」

「あいよ~ん。」

「あ、私もいくわ。少しあんたに相談したいことあるし。」

「解りました、なら行きましょうか。」


 美空、遥、理亜が連れだって冒険者ギルドへ向かうのを見送ると、慎太郎は残ったメンバーを見渡した。

 全員の顔に疲れが見え、何人かは腹が減ったのか、腹を擦りながらそわそわしている。


「さて、門番やってたベルモントさんの話だと第二中隊はもう帰っているらしいから、俺はこのまま先生に報告に行くよ。みんなはここで解散だ、腹減ってんだろ?」


 飢えた狼達が一斉に走り出した。


「しゃあっ!満月亭行こうぜ!!」

「ああ!野口と美空の料理もうまかったがあそこの煮込みは別格だ!!」

「私も行く!今の私は煮込み成分が底をついている!!」

「ぬおおおおっ!急げ!!植野より先に注文しないとあっという間に売り切れるぞ!!」


 満月亭とは歌鈴が食べ歩きして発見した店であり、名物の鶏肉と野菜の煮込みは魚醤仕立てで日本のけんちん汁にかなり近い。

 その他にも日本食に近い味わいの物が多く、和人達召喚者組に人気の店である。

 尚その名物の煮込みは、歌鈴が店にしたアドバイスにより、+αで小麦粉の団子を入れ、すいとん汁としてより腹持ちの良い物に生まれ変わることができる。

 歌鈴とほとんどの野郎達がG1レースのように走り去り、残された慎太郎、和人、葵、エイミ、ゆかりは、その背中を見送りながら呆然と立ち尽くしていた。


「プロには敵わないのかな……」


 葵が少し悲しそうな顔をしていた。趣味は料理とコウペンちゃんグッズ集めの怪人女子力は、自分の料理でみんなを満足させられなかったのかと落胆していた。


「いや、お前の料理は美味しかったよ。」

「うん、でも何て言うのかなぁ……」

「オシャレ過ぎたんデスよ、葵サンの料理ハ。」

「そそ、美味しいとうまいは別物なのよ。」


 そう言いながら葵を慰める和人達の脳裏には同じ物が思い浮かべられていた。


 スーパーカップMAX……


 ─────


「お帰り、ご苦労だったな。他の者はどうした?」

「はい、美空、遥、神戸は冒険者ギルドへ報告に、他は腹へってそうだったんで自由行動にしました。みんな大きな怪我もなく無事です。」

「そうか、いい判断だ。では報告を聞こうか。」


  真琴は慎太郎達が無事である喜びを表情に浮かべながら、王城練兵場の待機室のイスに腰かけた。

 慎太郎と和人もそれに倣い腰かける。


「はい、まずサークの港の解放ですが、足が全て大海蛇(シーサーペント)の魔物、美空が暫定的に多頭蛇の触手(ヒュドラテンタクル)と名付けたそれを遥が呼び出し撃破に成功。無事に解放に成功しました。」

「は?」


 真琴は一瞬呆けた表情を浮かべると、こめかみに手を添えながら顔を歪めた。


「私が思っていたよりもそちらの魔物は強力だったようだな。それはいいとして、なんだその山崎が呼び出したというのは?」

「ああ、まだ二回目なので決定じゃないんですけど、遥はギターを弾いて賞金首を呼び出せるんです。」

「まるでワイルドアー……いや、止めておこう。他にはあるか?」


 真琴は何か思い当たる物があるらしく口にしかけたが、思い止まり慎太郎に続きを促した。


「そうですね、平和になった漁場にトビザメの群れが現れましたが、それをほぼ掃討した所でジャック・ザ・クリッパーに襲われ、なんとか逃げ延びる事に成功しましたね。」

「ジャック・ザ・クリッパー!?たしか鬪ペン界最強と言われていたペンギンだったが飼い主を殺して逃げ出し、更なる強者との闘いを求め諸国を放浪する、知られているだけでも237人の名だたる戦士や武術家を殺したS級危険指定の凶悪賞金首だぞ!?お前達よく無事だったな……」


 目を丸くした真琴の口から出た殺人ペンギンの詳しい情報を聞いて、和人と慎太郎は改めて背筋をぞわりとさせた。


「僕は殺されかけたんですけどね……てか何なんですかそのエピソード!?まるっきり修羅に堕ちた格闘家じゃないですか!!どこのストリートファイター!?」

「私が知るか。海が平和になったと言ったがモーガン海賊団はどうしたんだ?あの辺りが根城だったろう?」


 和人の突っ込みを軽くいなしながら、真琴は慎太郎に続きを促す。


「そっちに俺達は関わってません。イオと名乗ったヒーローが壊滅させました。」

「幾島……お前、駿河と山崎に毒されたか?」


 本気で心配そうな真琴の視線が慎太郎に向けられるが、なぜか和人がダメージを受ける。


「いえ本当ですよ。俺達が依頼を受注しようとしたら既に壊滅した後だったんです。」

「モーガン海賊団の構成は80人程だろう?それを一人でか?」


 さすがの真琴も驚きを隠せない。


「ええ、俺達も最初は信じられなかったですけど、王都に帰る途中死霊術師(ネクロマンサー)ザイラスに襲われた所を助けられましたから。」

「だからと言ってヒーローは無いだろう?」


 呆れた目を向ける真琴の視線を正面から受け止め慎太郎は続ける。


「なら先生、俺達が絶体絶命のピンチになった時、笛の音と共に高い場所から現れ、たった一人で100体はいたゴーレムやアンデッドを素手で殆んど倒し、応援したらなんか強くなって、破れかぶれになって巨大アンデッドになったザイラスに必殺技らしい蹴りを放ち、蹴られたザイラスは爆発炎上。そんな仮面で素顔を隠した人を先生なら一言で何て言いますか?」


 黙って慎太郎の話を聞いていた真琴だが、慎太郎の話が終わると共に大きく息を吐いて天井を見上げた。


「…………ヒーローだな。」


 真琴は幼い頃に後楽園遊園地で見たヒーローショーを思い出していた。

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